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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第2章  〈白なる葬願者〉
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第2章42 酒で登る階段



「あのぅ……ルースさんはここで何を?」


「ここにモチモチにゃかったね?」


「かなちぃよ〜」


 ルースは屈んで後ろから抱きつき顔を覗き込む。

 その男の子は見上げて目を合わせると、ニコニコしながら首を大きく振った。

 可愛い。可愛い、が。無視されたら誰だって悲しいのだ。


 しかしルースはミナトの声が聞こえないのか、男の子と更に密着するとリズム良く頬を擦り合わせる。


「かなかななのね! じゃぁ、ゆゆゆー君にこうろこうろちゃんします! むにゅむにゅ〜むちゅむちゅ〜」


「ぢゃちぃ〜?」


「ぢゃちたんこうろちゃんでちたか! むちゅちゅちゅ……」


「や〜〜ん!!」


(あれ、異世界言語変わった?)


 あまりの話の通じなさにミナトは本気でそう思った。

 つむじに連続でキスするルースと、笑いながら彼女の拘束から逃れようとする男の子。こちらを見ようともしない。


 もしかしたら早く自分には退場してほしいのかもしれない。

 そう感じたミナトはじゃれ合う二人を見ていると徐々に気まずくなっていく。あまりにも不憫。不憫である。


「あの、可愛いっすね。はは……あの、あの?」


「やんやんこうろちゃんでもあったのね! あ、こうろこうろこうろ! こうろこうろこうろ!」


「えへへ、やめてね〜!」


「……」


 これを無視されたら帰ろうと決めて話しかけたが一撃沈没。

 チラ見してくれても良いのにと考えたが、ほんわか完全無視についに心が折れた。

 ここまで泣きそうになったのは初めてかもしれない。ミナトは顔を拭う動作をした。


 一方、ルースはそんな事お構いなしに小さな頬を指でリズム良く摘まむ。とても柔らかそうだが今はそんな気分ではない。

 とほほミナトはなるべく音をたてないように出口へ向かった。


(帰ろう……)


「やちくんに〜やちくんにぃ〜!」


「ゆちゅっ!?」


「すりすり〜」


「……ゆ? ゆゆ〜おねちゃすき〜」


「ぶちゅちゅちゅ」


「きゃ〜〜! こら〜!!」


「えへへ」


 怒って膨れた頬をツンツンするルース。そして更に和やかになる現場。

 結局存在が空気のまま立ち去る事になってしまった。さようなら。


「はぁ……」


 溜息をつくミナトは玄関に入り誰もいないことを確認すると、ぱぱっと着替えてボロい方は開放で吸い込んで処分した。

 ――さすが高級素材。最高の着心地に溺れながら上がり框の端に座り込む。


 そこから見える空には赤黒のグラデーションがかかっている。

 綺麗だ。昼よりも強く感じる光に、第十紫班の証であるバッチを照らし合わせながら一日の終わりを実感する。


「もう夜かぁ……なんか、今日の空は特段いつもと違って見える」


 それは先程の疲れからであろうか。次第に闇夜に染まっていく薄雲を見ながら、しんみりとするミナト。

 冷たく吹く風とまだ小さく聞こえてくるルース達の声。ここまで孤独を感じたのは久しぶりかもしれない。

 ミナトはそんな切なさを紛らわせる様に今後について考え始めてしまった。


(当分は魔装具関連だろうな。あと生徒になった以上、アーチェインの授業もあるだろうし参加しなきゃ……あと新しい能力も確認するか?)


 ――新しく得た力。それは魔物召喚以外だと、物質生成、迷宮強化だが、ミナト的には後半二つにあまり興味はなく使う気もない。

 何故ならばもう既に十分すぎる力を身に宿しているし、それにもう巨躯の魔物と呼ばれている化け物を単身撃破しているからだ。


 加え、身体に依存しない魔法の様な能力を使う度に記憶が曖昧になっている気がする。

 そして同時にナニカが活発化している様な、なんとも言えぬ不気味さにミナトは恐れているのだ。


 色々な謎が解けるとまた謎が増える。今までは何故か考える機会を取らなかったが、こういうのも偶には良い。

 寂寥。ぼうっと外を見ていると、目の前に男が現れた。


「――お! やっと目ぇ覚ましたかミナト。それ似合ってるじゃねぇか。迎えに来たぜ」


「シギさん……ちょっと、何も言わずにどっか行かないで下さいよ?」


「んぁ? 何回も名前呼んだぞ? だけどうんともすんとも言わねぇから先に死骸の処理をな」


「そ、そうですか……」


 笑顔のシギに困惑気味に抗議したが軽くいなされた。

 どうやら超集中力が原因だったらしい。まさか何分か何時間か、外からの音が聞こえない程とは誰も思わないであろう。


 因みにサイコパスは集中力が凄まじい。らしいのだが、自分はどうなのだろうか。

 そんな要らぬ心配をミナトがしている間、シギは呑気に欠伸した。


「ルースさんと子供が来たんですけど……」


「あぁ。近くに居たからあそこで遊んでこいって言ったんだよ」


「そ、そうですか」


 あの場には刃物や何やらが置いていたので、遊び場としては些か危険すぎる気もするが。そこに気付かなかったのだろうか。

 確かに細かな気遣いが出来なさそう、と相手の外見から判断するミナトの肩にシギは右腕を回すとある提案をする。


「もう夜だが……どうだ? オレ達の一員になったんだ、祝い酒でも飲まねぇか?」


 ――突然の誘いに驚きを隠せないミナト。

 それはそうだろう。なんせ彼はまだ19歳で酒を飲んではならないのだから。


 だが、少し考えてみれば日本での法律がここのと同じなのかは分からない。

 それでもモラルは異世界だろうがどこだろうが大切なのだ。故にミナトはお断りしますと拒否し――、


(いや、普通ならここで断るべきなんだろうけど……異世界だからもういっか! それに丈夫な体になったし! しゃぁなしやむなし仕方なし!)


 己の中の天使を押し退けたミナトはその場で「はい!」と元気よく答えた。犯罪。無モラル人間。


 ほぼ思考停止に近い返事だったのだが、そこら辺ガサツなシギには関係ないお話。

 相手のノリの良さに機嫌を良くしつつミナトの背中をバンバンと叩いた。


「おう、元気良いじゃねえか! じゃぁ早速行こうぜ。他の奴らはもう飲んでるぞ」


 若者と飲める事にワクワクが止まらないシギは、気持ち早歩きで酒場へ向かう。

 なるようになれ。行き当たりばったり万歳。付き合いは大事なのである。


 ――こうして、ミナトは一段大人の階段を登った。



© 2022 風ビン小僧

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