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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第2章  〈白なる葬願者〉
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Purple Memories of The God



「――ミーシャ」


 かの日。

 約束の丘にぽつんと存在する黄金の様に光り輝く花畑。

 それを背後に優しく語りかけるのは、糸の様に長い銀髪を後ろで結んだ褐色肌の少年だった。


 白いワンピースを揺らす少女はその声で振り返ると、満面の笑みを浮かべる。


「ん、そんなに私が心配?」


「いや、そういう訳では……」


「ちょ、ちょっと〜! 少しは心配してよぉ……セキター」


「ご、ごめん」


 こけて怪我しないか、丘の上から転げ落ちないか心配で名を呼んだのだが、結局ミーシャに不信感を抱かせてしまった。


 ――自分の想いを包み隠さずに伝えるのは恥ずかしい。

 いかにも少年らしい理由でゴニョってしまった少年は、いじけた顔をするセミリアにタジタジする事しか出来なかった。


 顔を赤らめながら俯く二人。

 そうして少し甘酸っぱい空気が流れた途端、その流れを引き裂く様な溌溂した声が響いた。


「大丈夫っす師匠! ――ミーシャ様はあっしが命をかけて守りますから!」


 民族的な柄が入ったポンチョをぶかぶかで着た子供が元気よく笑う。

 黄金の瞳をした彼はミーシャの側まで走ると、大振りでポーズを決めた。いかにも子供らしい行動。

 その可愛さにミーシャは口を当てて笑うが、少年にはそんな余裕は無い。違う意味で顔を赤くして直ぐに反応した。


「それだと俺の立場が無くなっちゃうだろブルト!」


「へへへ、さっせん」


 悪気もなく満面の笑みを浮かべながら後頭部をポリポリと掻くブルト。

 少年はその反応にムっとし、ブルトを軽々と持ち上げるとミーシャから引き離した。

 いつまでも彼女の近くに居られると何故か心がゆらゆらする。これも全部この花畑のせいだろうか。


 少年がブルトを荒々しく下ろした瞬間、前方からとてつもない暴風が巻き起こり、ブルトの顔面がポンチョでぶわっと覆われる。


「よ」


「お、バルガスか」


「ん〜……おはようございます! 第二の師匠」


 少年が顔を上げた先に居たのは、煌く虹色の目をした騎士だった。

 天上の雲の様な純白の鎧に身を包み、腰には穏やかな青の鞘を下げている。


 嬉しそうに手を振る彼は少年の幼馴染であり、ミーシャを含めた三人でよく子供の頃は遊んでいた程の仲なのだ。

 勿論、ブルトも例外ではない。何といっても少年とバルガスの唯一の弟子なのだから。

 ブルトはポンチョをボフボフと動かしながら久しぶりの再会を喜ぶ。


「ブルト、そろそろ僕を第一の師匠と呼んでも良いんだよ?」


「あっしはどっちでも良いんですが……師匠どっちが良いっすか?」


「ブルト……たまには自分で考えろよ……」


「あはは! さっせん!!」


 ブルトは全く反省していない顔で両腕を前後に揺らすと、その度にポンチョからボッフボッフと音が鳴った。

 その純粋無垢な可愛さに惹かれたミーシャは、思わず背後から彼の両頬を手で挟んだ。

 そしてむにむにと上下に弄りながら、バルガスに質問する。


「良いの? 今忙しいんでしょ?」


「大丈夫だよミーシャ。光になって飛んでいけば良いだけの話だし」


「相変わらず無茶苦茶だな……」


 バルガスは独自の魔法を使用し、騎士として任務を果たす為に世界各地を回っている。

 それは世界でたった一つの魔法であり、彼でなければ使いこなせず、どらもこれも強力なものばかりだ。


 ここに来たのも任務のついでだろう。

 少年は相変わらずの反則的な力に呆れつつも、昔からのライバルとして少し対抗心が湧いた。


 そんなライバル心はつゆ知らず、ミーシャはブルトの頬から手を離すと、嬉しそうに花畑の方に走り向かう。

 他の三人ははてと注目する中、ミーシャは片足を軸にしてクルンと回転すると言葉を紡いだ。


「丁度だし言うんだけどさ。――私、実はエルドリア王国の聖女になりました!」


「えぇ!? あの聖女にかい? 凄いじゃないか!」


「流石っすミーシャ様! その勢いのまま全世界に羽ばたきましょう!!」


 超重大発表にバルガスとブルトの二人が大きいリアクションで祝福する。

 聖女とはエルドリア王国独式魔法陣の構築士を指す。世界でたった一人しか成れず、その代わり何不自由無く一生を送れるのだ。

 そしてある程度の地位や権力も手に入るので、誰もが人生逆転を狙って聖女に成りたがる。


 見事にその聖女に選ばれたミーシャ。

 皆が純粋な気持ちで喜ぶ中、ただ一人、特別な感情を抱くものが居た。


「セミリア。――おめでとう」


「えっあ、うん……ありがとう」


 少年の真っ直ぐで熱い想いはミーシャにしっかりと伝わったが、お互い恥ずかしくなったのか、二人共俯いてしまった。

 

 微笑ましい場面。

 イマイチ状況を飲み込めてないバルガスは頭の上にハテナを浮かべるが、色々と察しているブルトは意地悪をする事にした。


「……なーんかお似合いの二人っすね!」


「そんなんじゃない!」


 図星を突かれ、思わず両者赤面。

 そしてどっと起こる笑い声はいつか消える夏雲に反射して、大きく風になびいた花一面は陽の光を浴びた。

 この世界の誰もが羨む平和的な日常。


 ――これはまだ、ルースが生まれる前の話である。



© 2022 風ビン小僧

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