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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第2章  〈白なる葬願者〉
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第2章38 悪水溜まる洞窟で



 ――闇がまた広がっていく。


 湿気で濡れた岩肌が僅かな光を反射し、不気味さを醸し出す洞窟。

 その中で一人、陰鬱な場には似つかわしくない豪美な格好をした男が作業を終えた事を報告していた。


「――はい。指示通りに設置しましたよマイパトロン。直ぐにでもゴージャスに、ワンッッダフルに展開させる事が出来ますッ!!」


 左耳に当てた小型機器を握る力を強めながら大袈裟な動きで回転する男。

 それに合わせて艶やかな黒の外衣がはためき、紳士帽に付けた白羽がなびく。

 中に着た毛立った赤色の服が興奮を表す様であり、片眼鏡のレンズが洞窟内の僅かな光を反射していた。


「勿論。だからこそ、このパーフェッックトでベストベストベストッッ! ベストォオォオッッ!! な、ワタクシがいるのでしょう?」


 自信ありげに話す男はご自慢の小髭を整えながら、どこから取り出したのか、ギラついた金貨一枚を右指で何度も上に弾く。

 その男が通信で会話している相手の声が少し小型機器の穴から漏れ、天井からの落下水がぽつんと響き渡った。


「えぇ、誰にも邪魔はさせません。――このブリタリアン=ビリッシュにお任せ下さい。」


 男はその場で優雅にお辞儀をすると、耳に当てていた小型機器を右手で握り潰す。

 証拠を残さない為であろう。そして計画は人知れず次の段階に進む。


「志々目真邦。いや、人殺し。――もうすぐその薄い日常は終わりますよ?」


 重力に従いパラパラと落ちる欠片は、悪臭漂う水溜まりの上に浮かび消えていく。

 そして鮮血は闇霧に呑まれ、心は暮雨の中に溶ける。


 ――1匹の"吸血鬼" は鋭利な牙を覗かせて不気味に笑ったのであった。



 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「いや〜。第十紫班を知らないなんてなぁ困った困った! あの超一流精鋭部隊を知らないなんて! あぁ困った困ったぁあははは!!」


(んだコイツ)


 笑いながらわざとらしく額を叩く少年。最初出会った時の弱々しさは何であったのだろうか。

 ミナトはその反応にイラつきながらも、相手の反応を待つ他なかった。


 無知はどこの世界でも不利。

 そう悟ったミナトは、ここから出たら大図書館で即勉強しようと決心した。字が読めないが。


「エレタ随一の魔装具回収名人集団と言えば僕達! ――第十紫班ですよ!」


「知らね」


「えぇ?」


 即否定返答に困惑する少年だが、知らないものは知らないのだ。許してほしい。

 というかこの少年は第十紫班を超一流と言ったが、そこに入れているのは凄い事だ。意外と大物になるのかもしれない。

 

 それにしても魔装具は特殊な能力が付与された武器であり、貴重で強力な物品だ。

 ならその回収を専門にする部隊があってもおかしくはない。

 そして魔装具は多ければ多い程、高難易度の迷宮が探索しやすくなるし、そのまま国力にもなる。

 

 今まで調子に乗ってるだけだと思っていたが、意外と凄い仕事に携わっているのかもしれない。

 そうミナトが感心していると、少年は腰に手を当て自慢をし始めた。


「ここで流通してる魔装具はほぼ僕達のお陰なんですよ?」


「多分だけどお前は何もしてないだろ」


「うぐっ」


 仕事が凄いだけでこの少年が凄いとはやっぱり一ミリも思わないし、その予想はリアクション的に合っているらしい。

 少年は魔装具を入手はおろか発見すらした事がないのであろう。可哀想に。


 まぁ魔装具に関しては完全に運次第なところがある。

 だが、今日で合計四つの魔装具を入手したミナトはその括りには居ない。ご自慢の勘、というものがあるからだ。


 圧倒的優位にミナトは内心少し良い気分に浸りながら少年に語りかける。


「魔装具って貴重品だったよな。そんなポンポンと見つからねぇから大変だろ」


 アーチェインとの会話を思い出しながら異世界人ぶるミナト。

 ちょっとだけマウントを取りたかったのもあるが、もしかしたら第十紫班にスカウトされるかもという思惑があった。

 別に自分から売りに行けば良いだけな話なのだが、まだ少しだけ残っている陰の部分がそれを拒否する。情けない。


 だがもし、もしも第十紫班に入ったのならば絶対に力になる。

 天職を見つけたと考えながら夢を膨らませるミナトは、闇暗い藍色の瞳をキラキラさせた。

 

 しかし、そんな思惑に全く気づかない鈍感少年は「えぇ」と答えると、頭を掻きながら言葉を紡いだ。


「まぁ見つからない分、高く売れるので僕は楽させてもらってます」


「……そう、だよな」


 貴重イコール高値。その常識は当たり前だが、地球も異世界でも変わらないのだ。


 今更ながらミナトは魔装具の本当の価値に気付き、自分の行動を思い返して内心冷や汗をかいた。大事にしよう。

 一方、少年は「あ」と呑気に言葉を発した。


「そ、それで! ――巨躯の魔物はどうなったんですか!?」


(もう忘れてたよそんなヤツ……)


 とても気になるのだろう、物凄い熱気がこちらに伝わる程に近づいてくる少年。暑苦しい。

 なので押し返すミナトは数分前の出来事をなんとか思い返しながら語る事にした。

 勿論、色んな意味であんな血生臭い死闘をペラペラと話す訳にはいかないので少しは脚色するが。


「あの水色の炎が厄介だったけど、なんとかぶち殺したよ」


「え!? すげぇっ!! ところで水色の炎って何ですか?」


「だからテンションの差が怖いって……その炎は特殊で物を燃やさずに凍らしちまうんだ。なんとも、いや本当に面倒くさい能力だった」


 この少年が冷静になるタイミングと興奮するタイミングが分からない。もはや狂気だ狂気。凶悪犯罪者。

 

 ミナトが心の中で暴言吐き&ドン引きする中、少年は(面倒くさいで済むのかぁ……)と別の意味でドン引きしていた。


 お互いにお互いがドン引きしあえばもう次にくるのは沈黙。

 である筈なのだが、そんなのお構いなしの馬鹿少年と何故か鈍感すぎるミナトという奇跡的なバランスで話が続く。

 お互いやばかった。


「――まぁ結局、そんな炎を出せてたのは奴が魔装具を呑み込んでいたからだけどな」


「……? それはおかしいですね。魔装具なんか栄養素にならないし、中に特別な魔力を含んでるから生物にとって猛毒です。第一、そんなの呑み込んだらどんなヤツだって胃がズタズタになりますし不自然ですよ」


「……確かにそう、だよな」


 ミナトがポロッと出した情報にすぐさま少年が反応する。


 やはり常識的に考えて刃物を食べようとする奴は居なかったのだ。

 例え間違って食べたとしても正常な生物ならすぐに吐き出す筈。

 そんな当たり前の疑問はすぐに解決されたのだが、なら何故あの魔物は平気だったのだろうか。それに魔装具を喰おうとした理由も気になる。


 先程のエスパッソとの死闘と同様、第三者による介入なのかもしれない。

 ミナトは今日の一連の流れにどこかきな臭さを感じたものの、どういう立ち位置で動けば良いのか分からなかった。

 だが、この世界に来てからまだ日は浅い。ゆっくり行動でも良いだろう。


 ミナトが半ば思考を停止した一方、少年は「それにしても」と言った。


「ミナトさんってアーチェイン先生を知ってるんですか?」


「うん。俺はソイツに勝手に生徒にさせられたよ」


 文字に起こしてみるとやはり大問題なのだが、少年は見事にスルー。

 そして数秒の沈黙が流れると、突然少年がミナトに近付き――、


「――な〜んだ! 同級生かよぉ〜! 全然タメ口で良いじゃんなんで言ってくれないのさ〜」


 ミナトの肩に手を回した少年は、いきなり馴れ馴れしく喋り出した。

 あまりにも急に口調と態度が変わった為、正直ドン引きしているところはあるが、それよりも気になる事があった。


「……? お前が同級生だって言ったからじゃん」


「え?」


「いや、だからお前が俺と同級生って言ったから普通にタメ口でいってたんだが……」


「……そんな事言ったかな? ――ま、いいや!」


 いくら記憶を辿っても全く身の覚えがなく、眉をひそめる少年。

 先程の戦闘が終わった後すぐにその会話をしたと思っていたミナトであったが、少年のリアクション的に間違っているそうだ。

 だがそんな事はあり得ない筈。実際、その会話の中でアーチェインの悪口で盛り上がったのだから。


(記憶違いか……? 言われてみれば少しあやふやな――)


 ――突如、激しい頭痛がミナトの全身をつんざく。


 それは久しく忘れていた痛覚というものを思い出させる程に強烈や痛みであった。

 何も分からない。何も考えれない。

 そして手の隙間から砂が零れ落ちていく様に記憶を失っていった。


「ぅあ……」


「え!? どうしたの!? 死ぬ!?」


「いや……死なねぇよ……」


 勝手に殺さないでほしい。激しい頭痛には驚いたが、そこまで深刻なものではない。多分。

 少年のせいでちょっとだけ心配になってきたところで「クリス!? 何してんだお前! それにその子!」と男の声が前方から響いた。大声は頭に響くから止めてほしい。


 頭を押さえたミナトは、そういえば名前聞いてなかったなと今更ながらに気付いた。反省。

 

「この人、巨躯の魔物を討伐したんですよ凄いですよね!」


「いや、まだあんまりそういう事――」


「……えぇ?」


 男が怒り顔でこっちに近付いてくる中、少年、改めクリスは冷や汗をかきながら満面の笑みで話しかけた。

 未だ相手が何者か分からない状態なので、あまり大事にしたくないミナトは制止しようとするが、時すでに遅し。男は固まった。

 話を逸らそうという意思が見え見えクリス。


「その服装……いや、それよりもその髪色。お前確か、シシメミナトだったよな?」


「ぅあ……はい。そうですけど」


「証拠が見たい。死骸の一部、例えば目玉とか持ってないか?」


「……あぁ、持ってますよ今出しますね。開放、閉塞っと」


 ミナトの全身を下から上へと舐める様に観察すると、男は何故か本人確認をする。


 まだ痛みが長引いており、体もどんよりと重いのであんまり会話をしたくない。

 面倒くさくなったミナトは、半分に千切られた巨躯の魔物の死骸をどんさりと出した。


 何故、初対面である筈の男が自分の名前を知っているのかについては全く気付かなかったミナト。それ程にこの倦怠感は重かったのだ。

 

 一方、第十紫班が奮起になって討伐しようとしていた目標がこうもあっさり転がっている状況を飲み込めない男。

 外には既に士気爆上がりの仲間達が待機しているのに、どこの馬の骨か分からない奴に先を越されたのだ。仕方がないと言えば仕方がない。


「……」


「凄いっすよねアーディブさん!」


「……帰るね?」


「え?」


「ほらな」


「ほ?」


「うざ」


 今の状況と少し先の未来を想像できないクリス。おまけにミナト。

 クリス的には怒りの矛先を曲げた上でうやむやにしたかっただけなのだが、予想以上に深刻になってしまった。


 人知れず、いや、半ば強制的にミナトの評価がまた変化していったのであった。

 


© 2022 風ビン小僧

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