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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第2章  〈白なる葬願者〉
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第2章36 眼前無敵



「班長、準備が整いました」


「――分かった」


 右目に眼帯を付けた屈強な男が両腕を腰の後ろで交差しつつ報告する。

 それを受けた白長髪の老人は立派に蓄えた長髭を摩りながら椅子から立ち上がると、一際大きな斧槍を床に叩きつけた。

 ひんやりとした空気がずんと震え、その場に居た誰もが緊張して立ち竦む。


 その年からは考えられない程の圧迫感と気迫に、若い団員達は憧れと畏怖の念に打たれた。


 ――ここは氷結の武器山。

 突如出現した巨躯の魔物に荒らされ、エレタ迷宮管理協会によって閉鎖された迷宮の名である。

 

 その迷宮の入り口前で総計十二名の男達が集まっていた。

 そう、巨躯の魔物を討ち取る為に。


「今日、あの憎きデカブツを叩っ斬る! 今度こそ皆の無念を晴らすのだ!」


 十一名の男共の代表である老人は、濃紫色のローブをなびかせながら叫んだ。

 その魂の叫びに複数が涙を流し、右目に眼帯を付けた男は亡き仲間達の顔を思い返す。


 ――皆それぞれ戦う理由がある。

 ある者は恋人を殺され、ある者は親友を噛み千切られたのだ。それに力及ばずに逃げてリベンジを誓う者もいる。

 だからこそ今日、この場この瞬間に一致団結して挑まなければならない。


 その事を一番に理解している老人は拳に力を入れた。


「スペリアの奴らが敵わない以上、儂達の出番だ。――行くぞっ!! 我ら "第十紫斑" の力を示せっ!!」


 老人は斧槍を掲げ、それに他の男達は呼応して弓や剣を天高く掲げる。

 戦いの火蓋を切った以上、もう敗北は許されない。

 加えてこの迷宮は魔装具が多く眠る場所。その点から言っても、絶対に巨躯の魔物を狩り殺さなければならないのだ。


 先に奥へ偵察しに行った仲間が戻り次第、隊を率いて突撃する。

 そして約束の時間が経ち、迷宮の入り口からドタドタと若い男が出てきた。


「た、大変ですっ!!」


「何だ……どうした?」


 ただならぬ雰囲気を放ちながら大声で報告する青年。

 何か問題が起きたのは明白。これからという時に厄介な事だと、老人は内心舌打ちをする。

 そして予想通り、直ぐに動揺が広がり仲間達が騒めき始めた。


 折角高まってきていた士気をへし折られ、少し不機嫌さを表す老人は、声を低くして何があったのかを問う。

 若い男はその鋭い威圧感に震えながら答えた。


「あ、あの "シシメミナト" が単独で巨躯の魔物を駆除したようです!!」


「……はぁあぁっ!?」


 口から心臓が飛び出す程に叫ぶ男達。


 ――今度こそ、士気は根本からポッキリと折られたのであった。



 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「アイツ大丈夫かな」


 ミナトは部屋の中央に空いた奈落の壁を軽々しく蹴り飛び上がっていく。

 常人外れの身体能力。いや、人と比べるのがおかしいのであろうか。


 ――それよりも気になるのはあの少年。

 一人あの場に残してきてしまったが、傷ついた少女を守りながら魔物群と対峙するのは流石に酷というものだ。

 ミナト程の戦闘力を有しているのなら話は別だが。


 そうしてあれこれ考えている内に、ミナトは元居た階に戻ってきた。

 直ぐに辺りを見回すが何処にも居ない。もう魔物に喰われてしまったのかと思った瞬間、曲がり角の先から轟音が聞こえ――、


「来ぅるな来るな来るなぁっ!!」


 魔物達に囲われた少年は、棘付きハンマーを床に叩き回しながら泣き叫ぶ。

 これはミナトから貰った魔装具であり、叩きつけた箇所から円状に衝撃波が生まれ、身体の内や外からも破壊する代物だ。


 とても強力な魔装具であり、その力を示す様に目鼻から血を噴き出した魔物の死骸で山が積み上がっていた。

 ミナト的にはゴリ押しの方が強いという評価をされるだろうが、それでも少年の命綱である事実は変わらないだろう。


 少年はそれを必死に、滑稽に叩き回し、衝撃波で敵を粉砕していたのだ。


 ――だが、限界が来る。


「くそっくそっ」


 自分を囲む魔物達を粉砕している中、その合間を縫って一匹の蛇型の魔物がゆっくりと近づいて来る。

 そして衝撃波に巻き込まれないようにタイミングを狙い、少年の死角から飛んできた。


「ひっ」


 大口を開けた蛇を吹き飛ばそうとするが、もう間に合わないと目を強く閉じた瞬間――、


「ぎゃぶ」


 蛇な眼前で醜い悲鳴をあげながら燃え尽きる。

 異臭と明らかな助けに少年はうっすらと目を開けていくと、そこには燃え尽きて黒灰となった死骸が落ちていた。

 凄まじい火力だ。

 

 少年はその威力に臆しながらも命の恩人を探そうとした瞬間、背後から声をかけられた。


「いや凄いなお前。戦いの天才じゃん」


「ミ、ミナトさんっ!? 良かった助かったぁあぁあ」


 振り返るとそこには暗い藍色の瞳をこちらに向けた恩人がいた。

 一度ならぬ二度までも救ってくれるとは、何回頭を下げても済まなそうである。

 未だ魔物はうじゃうじゃと居るが、感謝とミナトの実力を信じきっている少年はそう言うと泣き始める。


「いやそんなに安心感あるかな俺……」


 別にそういう訳ではない。

 この涙はもうこれ以上戦わなくて良いという、実にリアらしい発想から来たものである。

 勘違いミナトは「それよりも」と言って場の空気を一気に切り替えた。


「俺がコイツら片付けるから奥に逃げろ。俺が来た方向だ。さぁ早く」


「ありがとうございます! 魔装具借りていきますね!」


 少年はニカっと笑うと、魔装具を担ぎながら少女をもう片方の肩で担ぐ。

 あまりの躊躇の無さに少し戸惑うが、魔装具が無ければ直ぐに自分が死んでしまう事を見越しての事だろう。判断が早い。


「召喚、爆灯鼠5」


 少年が射程範囲外に走り出たのを確認すると、指間で挟んだ鼠を飛ばしつつ手に持った魔装具を振るう。

 横一線に生まれた炎で点火した爆灯鼠が爆発すると、魔物群を包み込みながら破壊して全滅させる。

 これは楽だ。簡単に爆発力を得られる。


 新たな戦法を見つけたミナトが微笑んだその時、奥から悲鳴が響き渡った。


「――ッ、あの方向からか。マズいな」


 あの方向とは、少年が走り逃げていった方向だった。

 状況が状況だ。殺されていても不思議ではないが、それではあまりにも不憫すぎる。

 それに少しでも生きている確率があるのならば救ってやりたいのがミナトの本心だ。

 流石に見ず知らずの人間を見捨てれる程、まだ人間性は削られていないのだから。


 故に急いで向かおうとするミナトの背中に氷像がしがみついてくる。

 

「テメェに構ってる暇はねぇんだよッ!!」


 舌打ちをしたミナトは、その頭に魔装具を深く突き刺す。

 ――それと同時に異変が起こった。


 突き刺した箇所から大小様々な罅が全身に伝わっていくと、木っ端微塵に砕け散ったのだ。

 自分のの馬鹿力で割れ散ったのかと一瞬疑るミナトであったが、今はゆっくり考えている暇は無い。

 胸に突っかかる違和感を覚えたが、それを暴くのは少年の無事を確認した後でも良いだろう。

 

 拘束から抜けたミナトが走り向かっていくと――、


「――ぎゃあぁあっ!! ミナトさぁんっ!! 助けてぇええっ!!」


(うわぁ、男版リアだなコイツもう……)

 

 少年が少女と魔装具を担ぎながら、こちらに走り向かって来た。

 その後ろには地面を叩きながら追ってくる巨大で無骨な氷のゴーレム。

 最早どうすればそこまで厄介事を増やせるのか感心するレベルだ。


 あまりの滑稽な光景にミナトはリアと初対面の時を思い返しつつ、あと何回で済むのかとうんざりしながら魔装具を握り直したのであった。



© 2022 風ビン小僧

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