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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第2章  〈白なる葬願者〉
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第2章35 入道雲は悪露に濡れて



「さてと……お楽しみの時間だ。だけどランセンカに渡した方が良い気もするなぁ。鍛治以外は何でも出来るって言ってたし」


 目の前に転がっている死骸を見下ろすミナトは、さてどうするかと悩む。

 全て変換すればそれ相応の快感を得られるだろう。

 だが、ランセンカが居る以上、この死骸で何か作ってくれるかもしれない。

 それこそ、今日手に入れた魔装具よりも強力な物を。


「ま、半分にすればいいか。今は忙しいだろうけど落ち着いたら作ってくれるだろ。その時まで保存だな」


 ミナトはそう言いながら、手で死骸を半分に引き千切っていく。

 そのズタズタになった腹や頭を見ると、やはり壮絶な戦いだったと再確認させられる。

 運良く魔物召喚を成功出来たから勝負を有利に進めれたものの、もし出来なければ苦戦間違いなしだった。

 まぁ、エスパッソよりかは簡単に殺せたとは思うが。


「にしても、コイツ強かったんだろうなぁ。変な炎も打撃も俺には効かなかっただけで、普通の奴なら一瞬で死んでただろうし……というかコイツのせいで人気が無かったのか?」


 ミナトは顔に飛び散った血に構わず、死骸を解体しながら呟く。


 これ程の化け物、周りが放っておくわけがない。

 この迷宮、"氷結の武器山" では魔装具が入手出来る可能性が高いとされている。

 なので、それらを狙った探検者達によって厄介な存在は自然と討伐されていくだろう。


 だがこの死骸には、歴戦の探検者と戦った証である古傷が一つも無い。

 その事からも巨躯の魔物は相当厄介な存在だったのだろうと想像がつく。

 この町にはアーチェインの様な強者が居るのに加え、数多くの組織が存在するにも関わらずに、だ。

 

「もしコイツが生まれたてだとしたら、とんでもない難易度だけどな。ここの迷宮」


 このレベルの魔物がうじゃうじゃしているのなら、冗談抜きで踏破できないだろう。

 それに、巨躯の魔物が本当に生まれたてなら、古傷が一つも無い理由になりえる。

 だがやはり人気が無かった事から考えると、昔から生きていたのかもしれない。


 ――だがどちらにせよ巨躯の魔物は死んだ。

 シシメミナトによって殺されてしまったのだ。それも、常軌を逸した殺し方で。


「はぁ……図体がデカい分、時間もかかるな……ん?」


 胃袋を引き裂いた瞬間、光る何かがミナトを惹きつける。


 他の溶けた内容物を掻き分けて手に取ると、それはまるで水面に映った三日月の様な、歪で独特な形をした刃物だった。

 加えて刃の片方が先端にかけてギザギザしており、もう片方は極小の棘が規則的に何本も生えている。

 

 一見使いにくそうだが、その予想とは反して持ち心地が良い。

 アーチェインに貰った鉈よりも軽く、それでいて手に吸い付く様な感覚で扱える。


 ――今までの魔装具とは圧倒的にレベルが違う。

 

 ミナトは感覚的にそう結論付けてしまったが、それでもそう感じてしまう程にその刃物は鋭いオーラを放っていた。


「もしこれが魔装具なら何か能力があるだろ」


 そしてミナトは少しウキウキしながら魔装具を振ると、その軌道に乗って炎が噴き出した。

 まさか炎系の魔装具とは考えていなかったミナトは思わず仰反る。

 冗談抜きでここ最近一番驚いたかもしれない。


「炎……あのヘンテコな炎はここから来てたのか。とんだ悪食獣だなコイツ」


 刃物を胃袋に入れる勇気と無謀さに呆れつつ、ミナトは漸く真っ二つに千切り終わった残骸を見つめる。


 あの大群を変換した時よりも強い快感を得られるのであろうか。

 もしそうであれば、もし――、


「やるか」


 期待と黒汚い欲望に胸を膨らませ、ズタズタになった残骸を右手で触れた。



 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



 森林の中、ある木にへばりついていたカブトムシを眺めていた真邦。         ヤ

 

 獲れるかどうか悩んでいたのだが、祖父母の家に帰宅中であったので虫取り網もカゴも持っていなかった。

 それに加え、この身長では届きそうにもない。もう本当にどうしようもなかった。   


「真邦、帰るぞー」 ケ


シ「……は〜い!」     

                      ネ

 父はそんなうずうずとしている我が子を見ていられず、名前を呼んでカブトムシ獲りを諦めさせる。

 その時に真邦は名残惜しそうな顔をしていたので、明日にでもカブトムシ獲りにでも誘おうと決意した父であった。

          ヤケ

 そして二人仲良く歩くとすぐに開けた場所に出る。

 夏の日差しは更に強まり、黒々とした影は微塵も無くなってしまった。

  シ

 昨日よりも大きな今日の入道雲はミナトを釘付けにし、青々とした雑草は清風に吹かれて揺れる。


「ほら、もう少しで着くぞ」 ネ


 よそ見をしていた真邦に呼びかけると、小さな石階段を上っていく。シ        ヤ

 ずっと日に照らされていたからであろうか、足裏から熱がゆっくりと昇ってくる感覚があった。

 

 それもこれもこの夏のせいだ。

 真邦は四季の中で夏が最も好きなのだが、四十過ぎの父にとっては最悪の季節だった。  シ

 何をするにしても汗をかくし、家族から臭いとも罵られる。

 ケ


 歳をとったなと空を仰ぎながら思っていると、真邦から手をくいくいと引かれる。

 どうやら物思いに耽っていたらしい。


 ――純粋無垢な目を見ていると、全部殺したくなる。

         

      シ    

                   ネ

 このまま首を絞めて埋めたら腐るどころか蝿すら天に祈るどころか捨ててしまえ。

 肌が焼ける様な輩には鉄槌を喰らわしてやれ。誰もが悪で己だけが正義だそうでなければおかしい。

             ヤケ

 どうして自分だけがこんな目に。何故理不尽に暴力を振るわれなければならないのか。 

 全部全部この世界のせいだ。聖母も神も天使も仏も所詮肺から滲み出た老廃物の一部。助けを求めるだけ無駄なのだ。

 そう、全部全部。 ヤケシネ


 ――全部、焼け死ねばいい。



 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「う ぁ」


 ミナトは呻き声と共に目を開ける。

 どうやら気絶していたらしい。こんなのは初めてだ。余程強烈な快感であったのであろう。

 それを味わえなかった事を少し、いや、かなり残念に思いつつ、仰向けのミナトは物思いに耽った。


 昔の記憶であった筈だが、所々ぽっかりと穴が空いて気持ちが悪い。

 あるべき場所にある大切な何かが捨てられてしまった様な、本当に名伏し難い気持ち悪さだ。

 それに、鼓膜にこびりついた蝉の声が遠い夏の日を思い出させる。


「――もう、あそこに帰る事はないのにな」


 自傷的に微笑む顔には、夏特有の濃い影が纏わり付いていた。


 その時、はっと何かに気付いたミナトは勢いよく立ち上がる。


「っとと……そんな事思い出してる暇は無かった。早く戻らねぇと」


 こんな所で立ち止まっている場合ではない。


 上の階では取り残してきた少年が孤軍奮闘している筈だ。

 それに怪我人を守りながら、だ。

 いくら魔装具を沢山渡したところで時間稼ぎにしかならないだろう。


 この新たに入手した魔装具の能力。

 そして魔物召喚も使用可能になり、なんと言っても爆灯鼠という最強の武器を扱えるようになった。

 爆灯鼠は火を付けないと使い物にならないのだが、それもこの魔装具でカバーできる。

 つまり、今のミナトは以前と比べて戦闘力が桁違いに上昇しているのだ。


「だいぶ時間がかかってしまった……待ってろよ。今行くからな」


 ミナトは魔装具を握りしめると、全速力で走り向かった。




© 2022 風ビン小僧

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