第2章32 迷宮初探索
「ここが氷結の武器山か」
一人、やらかしミナトは見上げた。
目的地の外観は青白いレンガで構成された小型の砦だ。
その入口からは白い冷気がふんわりと逆出ており、極寒地なのだろうと考えられる。
絶対装備間違ってる。凍え死んじゃう。
そんな極寒砦が穏やかな風の中で突っ立っている。
それを踏まえると、やはり迷宮というのは不思議で興味深いものだ。
(なんだろ、誰も目を合わそうとしてくれない。……まさかさっきの見られてた? うわぁ納得ごめんなさい)
入口付近に警備員待機所の様な建築物があり、中にいる兵士が見張っていた。
それ以外にも屈強な兵士が沢山歩き回っており、あの怪物の影響を感じさせる。
だが、誰もミナトを見ようとはしない。
それに目を合わせようとしても露骨に目線を逸らされる。
やらかした場所とこの迷宮の距離はそう近くはない筈だが、偶然目撃していたとしても変ではない。
もしかして嫌われたのか。悲し。
(やっぱり危険って言われてたからか、人が少ないな)
兵士はいても、その他は居ない。
ルースがあんな必死になっていたのだから相当なものだろう。
その理由が単に迷宮自体の難易度によるものなのか、それかエスパッソの様なイレギュラーが発生したかのどちらかだ。
まぁ、どちらにしろ潜るのみだが。
「寒そうだなぁ……やっぱ丸腰で来る場所じゃないのかも」
ミナトは自分の服装をまじまじと観察しながら呟く。
流石に青長ズボンと白Tみたいな服ではキングオブ不安。
というか、そもそもそんな本気にならなくても良いのだ。
理由はナタの代わりを手に入れたいだけという、シンプルでとても程度が低いのだから。
待っていれば、またアーチェインが泣きながら買ってくれるかもしれない。
だが、早く行動しなければ手遅れになる様な気がするのだ。
漠然な危機感がミナトを突き動かしていく。
(よし、行くか。もう昼だし)
一応、ミナトは兵士達に会釈してから入っていく。無視されたが。
そしてすぐに冷気に身を包まれるのであった。だが――、
「寒っ! ……くないな。あれ? 意外と行けるぞこれ」
予想に反し、寒さは全く感じなかった。
そこに不気味さを感じるのが普通なのだが、ミナトにとってラッキー程度でしかない。
故に臆せず突き進むのみだった。
見回してみると、アーチ状の石柱が奥まで連なっている。
その部屋の真ん中には四角穴が大きく開いており、どこまで下に続いてるのかは見えない。奈落だ。恐怖者キラーだ。
落ちたら絶対死ぬので、なるべく近付きたくはない。
だが、そこには螺旋状の階段が設置されているので、強力な魔装具を手に入れる為には我慢する必要がある。
あまりの深さに驚きつつ覗き込んでいると、視界の端でプルプルと揺れ動くものが映った。
「――お、スライムじゃん。水でふやけた冷えピタみたい」
なんだと見てみると、そこには水色のスライムが居た。
ぼぉっとしていると、いきなり飛んできて左腕に巻き付いてきた。だが何も感じない。
「なんだ? 死ね」
右手で叩き潰したミナトは、そのまま「開放」でスライムの残骸を吸い込んでいった。
「閉塞。ん?」
吸い寄せられる様にミナトは壁に近付くと、レンガの一つを押しこんでいく。
そのまま弄っていると横に窪みがあるのに気付き、そこに手を突っ込むと指先に何かが触れた。
硬い触感。
何だと思いながら掴んで勢いよく引き出してみると、それは鎖鎌だった。
「何だこれ……まさか魔装具か!?」
まさかの展開にミナトは大声で喜ぶ。
魔装具というものの、見た目は完全に変哲も何もない鎖鎌だ。
もしかしたらアーチェインが愛用するサンゼラの様な仕掛けが施されているのかもしれない。
だが今は、ただの鎖鎌だ。
気が済むまでくるくると回した後に振り上げると、壁が音を立てて削られる。
その削り跡を眺めながら思う。
「これは風の刃を飛ばした、のか。う〜ん、微妙だなぁ。結局ゴリ押しパンチの方が強いし」
アーチェインの魔装具と比べると、やはり威力は御粗末。
結局、ミナトは遠距離より近距離の方が似合っているのだ。
自身の拳を見つめながら、ミナトは「開放」と呟き、即座に使えない認定をされた鎖鎌を収納したのであった。
「もっと深く潜ったら良いのあるのかな」
ミナトは奈落を見つめながら考える。
ついでに、いちいち閉塞と口に出すのは面倒くさいので、左手に開け続ける事にした。
そして余所見をしていたところに、氷岩猪が衝突してくる。
横腹に一発だったのだが、ミナトはビクともしない。
そのまま背中の肉を噛み千切ったミナトは、顔をしわくちゃに萎めた。
「あんま美味くねぇな。まんま冷凍肉だ」
ミナトは両手を合わせて握ると、思いっきり振り下ろす。
すると、音を立てて体が逆の方向に折れ曲がり、目と鼻から血を流しながら絶命した。
右手で触れて変換し、素晴らしい快感と共に深呼吸するミナトは頭の中から女性の声が聞こえる事に気付いた。
《肉魂50を獲得》
(お、あの声だ。肉魂……まさか死骸の事を言ってんのか? しかも五十とも言ってたな。だとしたら――)
ミナトが考えを纏めている間に、血の匂いに寄ってきたのか、周りの魔物がぞろぞろと現れ始めた。
それぞれがミナトを視認し、近付いてくる。
――この魔物達を全て変換すれば、またあの快感を得られる。
「この迷宮にいる魔物全部変換してやるか」
獣の様な笑みを浮かべたミナトは、その群集に走り向かっていったのであった。
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「まぁこんだけ殺せば召喚も生成も、強化だって出来るだろ。知らんけど」
全身がまた血塗れたミナトは、手の甲でゴシゴシと顔を拭う。
かれこれ数分、目につく魔物から殺していき、同時に階段を降りていき魔装具を入手していった。
天井の隅に隠されていたり、行き止まりの壁に埋まっていたのもあり、ご自慢の勘が無ければ絶対に見つけられなかっただろう。
この能力を授けてくださった天と、自分を産んで育ててくれた両親に感謝すると共に、今までの成果を確認した。
「開放、よいしょっと。……でもこれだけかぁ」
床に出したのは、棘が付いた四角ハンマーと鎖付き鉄球。
思わず少ないと愚痴るミナト。
だが、アーチェインの言っていた事が本当ならこれは幸先良いのではないか。多分。
それに結構奥深くで手に入れた魔装具だ。
あの鎖鎌よりかは役立つであろう。
早速これらの能力を試そうとワクワクした矢先、ミナトは急に足を止めて耳を澄ます。
「――何かいるな」
何かを察知したミナトは先の角を曲がる。
――そこには、異質で不気味な魔物が居た。
長さが不揃いの鋭い氷柱で覆われている背中。
小さな目玉が顔から溢れ出しており、口からは細かい舌が何本も力無く伸び切っている。
「くらえこのっ……ぐあっ!」
だが今、問題はそこではない。
あまりにも醜悪な魔物は鋭く長い爪で幼気な少女を掴み、叩き潰そうとしているのだ。
少年は大声を出しながら剣を魔物の腹に突き立てるが、全く傷を付けられずに叩き飛ばされる。
「や、めろ……止めろっ!!」
床に倒れた少年の叫びは無慈悲にも迷宮に虚しく響き渡り、誰の耳にも届く事はなかった。
――ミナト以外には。
ミナトは勢いよく飛ぶと、魔物の顔面に飛び蹴りした。
それに従って落ちる少女を抱えると、着地後、そっと下ろす。
「お前、良い肉魂になりそうだな」
ぽかんとする二人を余所目にニヤリと笑ったミナトは後頭部を掻いた。
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