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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第1章 〈龍の願い〉
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第1章3 始まり



「こぶ ぶ 」


 ボロボロの身なりで立ち上がり、ふらふらと歩き始めたミナトの口端からドス黒い血が溢れる。


 先の動きで内臓と筋を更に傷付けてしまったのだろう。

 それ程までに脳が課したリミッターを無視した代償は重かった。



 人ならざるものの血と血が渦を描いて混ざり合っていく。


 

 右肘から先が安定せず、ゆるく垂れ下がっている。

 また、内出血で赤黒く染まった歯茎と左半身は痛々しさを醸し出していた。


 また、左腹から腸がにじり出ているのだが、痒みどころか痛みすら感じない。

 


 破片を含め、大破した車が氷の様に溶けていく。



 体が震える。

 寒いのか。いや、そもそも温度を感じない。体温すらも。


 瞼が閉じてるのか開いてるのか、目の前の景色が本物の景色かどうなのか認識出来ない。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと死に向かう感覚を体に刻まれながら、ミナトは前に倒れ込んでしまった。



 ――眼前に藍色の球体が浮かんでいる事にも気付かず。



  ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「お父さん、今日はどこに行くの?」

 

「●●●、●●」


「そっかぁ……あまり面白くなさそう」


「●●●? ●●●●●、●●●」


「●●●●●●●。●●●●●」


「いや、でもさ――」


「……●●●? ●●!? ●●●●●!!」


「●●●●●●● ●●●! ●●、●●●! ●●――」



  ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 


「  はぁ っ   は ぁ  はっ はっ  は」



 過呼吸気味で起きた後、激しく咳き込むミナト。


 遠い記憶を見ていた。ある夏の記憶。


 いつも父が休みの日は決まって車で連れて行ってくれた。

 目的地は車に乗るまで聞かされないので、毎回楽しみ半分不安半分であったが、結果的に楽しんでいた。


 ――あの夏に戻りたい。あの夏だけが、生きる意味だった。


 しかし 今のミナトがどれ程 そう思おうが、そこには醜い現実と殺風景な心象があるだけだった。


 帰れない。もう何処にも戻れない。こうして いつまでも寝ている訳にはいかない。


 うつ伏せのまま唇を噛み締めたミナトは ぐっと握り拳を作り、腰から立ち上がろうとすると、横から覗き込む美少女の顔があった。


「え?」


「こんにちは」


 美少女の顔があった。


「え?」


「こんにちは」


 確認の為にもう一度 同じ展開を繰り返そうとしたが、その前に大声で「はっけーーん!!!」と叫ばれて強制キャンセルされた。


 突然の出来事にびっくりしたミナトは、いや、びっくりしすぎたミナトはそのまま尻餅をつき、齢19、腰を抜かしてしまった。

 祝 人生初。いやそんな事を言っている場合ではない。


「――良かった良かった! 生きてたんですね!!!」


 腰に手を当てて元気よく立ち上がったその姿は、この場には似つかわしくない、どこからどう見ても外人コスプレイヤーであった。


 ドレスの要素が掛け合わさった様な白い鎧を全身に纏い、右腰には漆黒の鞘を携えている。

 更に首をもたげてみれば、黄金の綺麗な髪と紫色の瞳、そしてNo屈託ニコニコ笑顔。可愛い。


「い、いや そうじゃなくて! あの……貴方は……誰なんでしょう?」


「あ、初めまして! 私の名前はルースです!! 気軽にルースと呼んで下さいね!!! ちなみにあだ名と一緒です」


「嘘でしょ? 無変換あだ名?」


 名前とあだ名が一致する場面に初めて遭遇したミナト。

 まぁ略そうとしても ルー か ス しかないので、どうしようもないだろうが。じゃあ普通に呼べ。


 その大声金髪美少女、並びにルースは突然、後方に手を振りながら「大丈夫だよ〜!」と声を張り上げて誰かを呼んだ。

 すると入口から、ビクビクとこちらの様子を見ながら、小柄で可愛らしい少年が入ってくる。


 そしてキョロキョロしながらルースの側まで駆け足で来ると、彼女の耳でこしょこしょと喋り始めた。


「えっと、ルースさん。色々聞きたい事があるんですがその前に……」


「何〜?」


「それ、危ない人ですよ。服汚いし……話をせず早急に突き出すべきです」


「えぇ!?」


「……」


 内緒話が機能していない事実はさておき、可愛らしい少年と目があって早々、とんでもない事を言われた。


 見た目に反して中々キツい事を言われたが、それは決して間違っていない。正しい判断だろう。

 陰口と暴力、それにあの目には慣れている。今更どうだって叫びはしない。


 しかし、それを機に2人はこちらを置いて話し始めてしまった。

 対して何もやる事がないミナトはその場に座りながら、どこか気品さ漂う白鎧がパチパチと炎に照らされるのを眺めていた。


 ――そう、眺めていた。



「――あれ、なんで僕、こんな場所に居るんだっけ?」




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