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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第2章  〈白なる葬願者〉
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第2章31 一瞬きの休息



 氷結の武器山。


 エレタ領内に存在する四つの迷宮の内、最も魔装具を入手しやすい迷宮の名だ。

 そして迷宮に深く潜れば潜るほど、その確率も上がっていく。

 エレタ迷宮管理協会直属、魔装具回収班も日々入り浸っている程、有益な場所だ。


 だが欠点としては、環境や魔物の戦闘力を含め、二番目に危険性が高い事である。

 だがそれでも、探検者の誰もが一攫千金を狙い、夢を見る場所であった。


 ――あの日までは。


 そう、それはシシメミナトがこの世界に迷い込んだ日。

 それまではダバス級、その上のスペリア級、魔装具回収班が入り浸り、毎日せっせと探索していた。

 変わらない日常、追い求められる夢。

 

 しかし、突然現れた巨躯の魔物が何もかもを破壊し尽くした。

 それ以来、任務を受けたスペリア級がこぞって殺しにかかったが、命どころか、傷一つも付けられずに死んでいくのみ。


 あまりの強さと被害に、フレアンジを派遣する案も出たが、計ったかの様なタイミングで廻神教の動きが活発化してしまった。


 もうフレアンジの力は借りれない。

 誰もが頭を抱えたが、幸運な事に巨躯の魔物が迷宮の上層には来れない事をダバス級が解き明かした。

 詳しく言えば、地下三階より上には来れない。


 結果、以上の事を踏まえ、エレタ迷宮管理協会は巨躯の魔物を討伐するまでの間、下層への立ち入りを禁止したのである。

 故にダバス級は勿論、スペリア級の人間も恐れ、あまり訪れなくなってしまった。


 まぁ要するに、今ではもう真の強者か死にたがりぐらいしか、その迷宮に潜る者はいないのだ。


 ――その恐ろしい場所に現在、シシメミナトが向かっている。


「ナタの代わりが手に入ったらなぁ……」


 ミナトは溜め息をつきながら呟く。

 アーチェインからプレゼントとして貰ったナタだったのだが、先程の戦闘でボコボコのボロボロにされた。

 もう使い物にならないのである。無常。


 泣き面アーチェインを頭に思い浮かべながら、ミナトは心の中で謝った。


「それにしても、あそこで武器を入手出来なかったら俺ステゴロじゃん」


 早く代用品を手に入れなければ。

 でなければ今後、ずっと素手で戦わなければならなくなってしまう。

 いくら頑丈とはいえ、それはごめん被るミナトであった。


「最近きな臭いし、魔装具があるだけあれば安心だろう」


 石畳の坂道を上がりながらうんざりするミナトは、あの横暴な大男を思う。

 ベンチに座っている内に何故か怒りの感情は消えたが、それでも不満は消えなかった。

 自分の右手を閉じたり開いたりするのを見ながら、ミナトは憂慮する。


(もしあれがアーチェインの上司だとしたら、この町の未来は暗いな。ていうか一回会ってたんだったら、この能力使えば良かったな。魔物召喚って絶対強いし)


 魔物召喚、物質生成、迷宮強化、そして肉魂(しっこん)

 どれ一つも理解は出来ないが、得たこれらの能力で何か行動に移せるのは事実。

 使えるかどうかはこれから潜る迷宮で分かるだろう。

 それにもし、ドラゴンやトロールなどを召喚したら、一発で尊敬されるだろうし。

 

 そんな、どこか能天気なミナトに声をかける人物が居た。


「――あれ? ミナト、さんですか?」


 澄んでいて聞いていると安心する、まるで鈴の音のような声。

 その方向を見れば、黄金の美しい髪に紫色の瞳をした天使が、はてと首を傾げていた。


 ミナトは夢心地に酔いしれながら「はい」と答える。

 めちゃ久しぶり。


「こんにちは! ルースです!」


 ――ルース。


 この世界に来て初めて会った恩人であり、ミナトが異世界人だと知っている一人である。

 そして可愛い。その一言に尽きる。


 手を上げて元気良く挨拶をするルースの側に、七歳ぐらいだろうか、こちらを睨む女の子がいた。

 彼女はルースと手を繋いでおり、同じく綺麗な金髪が穏やかな風に揺れる。


 ミナトはそれを見ながら、なんと羨ましいことであろうかとじわじわ嫉妬したのであった。

 自分も幼くなれば手を繋げるのだろうか。

 いや、今からでも遅くはない。ばぶんこばぶばぶ。きしょ。


 自らを汚物だと感じ始めたところで、ルースは「よいちょ」と女の子を抱き上げ、直球に聞くことにした。


「なんでそんなに見た目が変わったんですか?」


「……? 元々僕はこういう見た目ですよ?」


「え〜? 変わったよね〜メアリーちゃんゆんゆん!」


(ゆんゆん……?)


 女の子に頬擦りするルースは、突然訳の分からない質問をする。

 この世界に来た時から当然、姿形が変わる訳でもなく、顔面に大きな傷を負った訳でもない。

 故に、頭の上に大きなクエスチョンマークを掲げたミナトはただただ立ち止まるしかなかった。

 

 ミナトの反応に納得いかなかったルースは、こちらを警戒睨みをする女の子を抱きしめながら大きく揺れる。

 その間も女の子は無表情だ。若年ながらスルースキル高し。


 これ以上は何だかグダリそうな気がしたので、次の話題に移るミナトであった。


「ルースさんはここで何を?」


「わたち? わたちはこの町にずっと居る事になったから、こうしてメアリーちゃんと一緒にお散歩してるんです。やちやちこうろしゃんです!」


(えぇ? 一体何を言ってるんだ……)


 とりあえず、ルースはこの子と散歩中であり、この町に滞在し続けるようだ。

 その理由は不明だが、その知らせは素直に喜ばしい。


 それにしても、この言葉使いはルースの精神が溶けているみたいに思える。

 それもまぁ、良いのかもしれないが。きしょ。


 また自らを汚物だと考え始めたところで、ルースに「ミナトさんは何を?」と逆に聞かれた。


「僕は今から氷結の武器山っていう迷宮に行こうかと」


 当然何の事情も知らないミナトは、馬鹿正直に話した。

 てっきり、頑張ってくださいだとか後で感想聞かせてくださいねとか言われると思っていた。

 だがそのキモい妄想に反し、ルースの反応は至極当然のものであった。


「え、あそこに!? 危ないんですよあそこ! そんな丸腰で行ける所じゃないです! 丸腰じゃなくても危ないです!」


「え、そうなんですか? でもなぁ……」


「危ない危ない! 危ないこうろさんです!」


(えぇ? 一体何を言ってるんだ……)


 ルースは頭を横にブンブンと振り、ミナトをなんとか制止しようと試みる。

 それでも引き下がらないミナトに、今度は頭だけではなく体も振り始めた。

 抱きしめられている女の子も、それに従ってブンブンと振られるが、相変わらず無表情だった。やはりスルースキル高し。


 ――だが困った。


 このまま走って逃げても良いが、彼女はそのまま追っかけてきそうだ。というか、絶対に追いつかれる。


 どうしようか、ミナトは頭をポリポリと掻くと、はぐらかすのには十分すぎる能力を有している事に気付いた。

 早速ミナトは腰に手を当てた。


「――僕、魔物を召喚できるようになったんです!」


「え!? 凄いじゃないですか! ランセンカちゃんの出身地の人達ぐらいしか出来ないんですよ!? 是非、是非是非見せてください召喚してみてください!」


 掛かった。

 随分とすんなり誤魔化されたルースは興奮しながら催促する。

 それに呼応したミナトは、元気よく右手を突き出してポーズ。

 ここで一発キメれば、今までの失態を全部吹き飛ばせる。大丈夫。これからは英雄として生きよう。


 そしてミナトは漫画で見た、最強最悪マジカルドラゴンの全身をイメージしながら右手に力を込める。


 今だ。


「――召喚!」


 ――何もおきない。


 ミナト達を横切る、そよ風で舞った枯れ葉。


「……」


「……」


 「なんだアイツ」という男の声、変人を見るかの様な周りの目がミナトの胸を貫く。

 沈黙が二人を包み上げるのは、それ程の時間をとらなかった。


 そういえば、この世界に迷い込んだ最初の頃も同じ事をしたような気がする。

 デジャブか。これがデジャブなのかそうなのか今教えてくれなくても。


 気まずい空気が流れる中、女の子はミナトに冷たい目を向けながらも、ルースの服の裾をわしわしと掴み揺らした。


「……お姉ちゃん行こ」


「……そうだね! じゃ、じゃあミナトさんこれで! 危ないからその迷宮には行っちゃ駄目ですよ!」


「……」


 決定的な一言。

 それはミナトの心をくじ折るには十分であり、ルースを走り退散させる爆弾でもあった。


 ただ一人残された、出涸らし泣き虫孤独なミナト。

 とっても綺麗な青空を上見ると、和やかな風に吹かれる。


(――うゎあぁあぁああぁあっっ!!! 絶対に変な奴だと思われうわっはぁあぁぁあん)


 急に勢いよく膝と手をついたミナトは、この世界で一番の後悔と黒歴史を刻んだのであった。

 いや、そんな心配しなくても元々変な奴と思われているだろうが。


 だが、いつまでもこんな事をしていても仕方がない。さっさと行ってさっさと帰ってこなければ。

 一通り嘆いた後にゆっくりと立ち上がり、強く拳を握った。

 その間にも当然、周りからは不審者扱いされている。


「くそ……行ってやる。行ってやるぞ僕は」


 半ばヤケクソになりながらも、心強く決心したミナトであった。



© 2022 風ビン小僧

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