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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第2章  〈白なる葬願者〉
29/56

第2章21 前哨戦終了



「……すげぇな」


 アーチェインは槍型に変形したサンゼラを持ちながら、呆然と立ち尽くしていた。

 その理由は眼前の光景、ミナトが魔物の大群を素手だけで圧倒しているからだ。


「これが彼の実力か。成る程、あの人が執着するのも当然だな……それにしても、さっきの俺があんな風に見られていたとしたら少し傷つくなぁ」


 アーチェインはボソッと呟く。

 その評価を下されたミナトは徐々にではあるが、この進行を押さえつつあった。

 頭の中で透明なボーダーラインを決め、そこを越える魔物を片っ端から殴り殺し、踏み殺し、蹴り殺す。

 まさに鬼神。そう呼ぶのもやぶさかではないだろう。


 ――今のミナトは、ただの殺戮マシーンへと変貌しているのだから。


「ハハッ! ハッ、ハハハハハッ!!」


 ミナトは笑いながら、コボルトの右脚を掴んで筋を裂く。

 そして湧き出てくる鮮血を周囲に居る魔物達の顔にぶつけた。

 そのコボルトの胸を左手で貫きながら、オークの振りかぶりを避け、その肩を喰い千切る。

 直ぐに怪鳥に向かって吐き捨てながら、手に持ったままのコボルトを投げつける。


 続けてミナトは、熊の胸の中心を下から舐める様に殴る。

 そして、そこに左手を突き刺すと心臓を握り潰した。


 そこから右手を突き出してゴブリンの両目を潰した後、肋骨を指の間に挟み、勢いよく引き抜く。


 その指の間に三本挟んだ肋骨で、もう一匹のコボルトの首を刺すと、遠くにいる三匹のコボルトの首に投げつけ刺した。


 横からの噛みつきを避け、左手でその狼の顎を掴む。

 そして右手でスケルトンの眼孔を掴み、右足で大鼠を蹴飛ばし、そのまま掴んだものを前に投げ飛ばす。


「開放ォッ!!」


 トンだ笑みを浮かべ、左掌に《吸穴(きゅうけつ)》を開ける。

 それに重なる様に右手を広げ、その場に散らばる魔物の死体を一気に吸い寄せ集めると、片っ端から右手で触れていく。


 ――たった一回。


 それも一体だけの死骸であの状態に至ったにも関わらず、一度に大量摂取した快感は想像以上であった。


「ガガ ァ グ ゥウウウッ」


 涎を垂らし、両脚が小刻みに震える。

 吐き気が更に増し、自我の剥離が進んでいく。


 現実世界か異世界なのか、自分は何者なのか。

 ぐるぐると回る頭の中は誰にも覗けなかった。


 ミナトは欲望の赴くままに走る。


「ウ、ァアアッ!」


 蛇の首を鷲掴みにすると、床に叩きつけて頭を踏みつける。

 飛び散った血が目に入るが、瞬きせずにそのままオークの腹に膝蹴り。

 くの字になったその体に向かって両腕を振り下ろし、太い鎖骨を粉々に折った。


 背後に回った黒蛇と、前方から突っ込んでくる猪。

 それらを回転して受け流しつつ、それぞれの皮を片手で抉り掴んだ。

 二匹の魔物は苦痛の声を出す間も無く、何周も回し吹き飛ばされる。

 巨大蝙蝠と怪鳥達を磨り潰しながら、背中から着地する猪の腹を踏み破った。

 

 オークが吠える。

 そして腕を左へ振り抜いたが、その前に相手の懐に潜るミナト。

 半回転しながらオークの右腕を掴み、勢いそのままに後ろの集団に叩きつける。


 そうして眼下にきたオークの両耳を掴み、顔の中心に頭突きをした。

 たったそれだけで顔が陥没し、血が飛び散り、鼻の骨が潰れ出る。


 ヨロヨロと寄ってきたスケルトンは蹴り飛ばされるが、自身の体が崩壊するのもいとわず、ミナトの腕を掴む。


 ――だが、あまりにも非力であった。


 ミナトはそのスケルトンの手を掴みながら身を捻り、胴体ごと捩じ切る。


 ミナトは狼の首筋に噛み付きながら後ろに下がると大鼠を踏み潰す。

 その間に失血死した狼を右手で触ると、一番遠くに居るマンドラゴラの顔面に飛び蹴りした。

 そこで宙返りしながら巨大蝙蝠の顔に着地し、真正面のコボルトに飛びかかり肩を噛み潰す。


 ミナトの動きに対応出来ない魔物達は、次第にその数を減らしていく。

 あれほど不安に感じていた気持ちも、今や狂気と快楽に沈み消えてしまった。


 ――どうしようもない程に堕ちていく少年は、ただ只管に殺しを求める。


「もっと、もっとッ! ブチごろしてやるッ!!」


 ミナトは急に立ち止まると、その場でぐっと姿勢を低くして構えた。


 そして願う。

 今までの瞬間速度を超えれる程の脚力を。

 風圧と衝撃に耐えられる頑丈な体を。

 鉄だろうが何だろうが全てを貫ける手を。


 それと共に、体の中から溢れん程の力がミナトの全身を荒々しく包み込む。


 体が熱くなっていく感覚。

 身に余る高揚感に酔いつつ、前方に跳びながら右手を突き出す。


 ――たったそれだけで、この大群の4割が抉り消し飛んだ。


「うぶ」


 それと同時に、勢いを増した快楽と内臓からくる浮遊感に苛まれる。

 一瞬で奥の壁にまで到達したミナトは膝をつき、故に激しく嗚咽した。

 しかしその喉からは固形物、いや、胃液すらも流れ出る事はなかった。

 音だけが辺りに痛々しく響き渡る。


 一方、魔物の集団は依然変わりなく前進していた。

 普通なら負けを認め、取り乱しながら撤退する筈。


 だが、その選択肢すらも強制的に奪われたそれらは、匂いが強まっている方向に突き進むことしか出来ないのだ。


 ――突如、一心不乱に走り駆けるゴブリンの頭が破裂する。


「あのさ。俺の事を忘れてないかい? もしかしてミナト君の暴れぶりに気を取られてた? ――ま、聞いてないか」


 ミナトの圧倒的な戦闘力に魅入られる間もなく、魔物達は槍型のサンゼラに貫かれていく。

 頭、体、足、手。それぞれの傷が致命傷になりうる程に高速で突かれていた。

 もっとも頭か胸しか狙っておらず、一撃で屠っているのだが。


 アーチェインは、まるで事務仕事に取り組むかの様に半集中で殺戮を行っていた。

 少し知恵を付けたゴブリンは、殺される前に自身の武器を隙間から投げる。

 しかしながら、アーチェインにとって それは取るに足らない出来事であった。


 片っ端から打ち落としながら、丸腰となったゴブリンを優先的に貫いていく。

 生まれ落ちた瞬間から機能しているクチバシや牙ではなく、人間らしく厄介な器用さで武器を使うからだ。


「俺でも流石に兵隊に勝つのには苦労しちゃうからね〜。でも、それは戦術を使うからだけど」


 ただ只管に前進するだけの愚か者が勝つ道理など、ここには無い。

 当然の如く魔物の死骸は増えていき、あれ程に詰まっていた通路も広く感じるようになっていく。


 ――そしてついに、最後の一匹を殺した。


 あまりにも呆気のない最後。

 胸の中央から大量の血を噴き出しながら崩れ落ちるオークは、音を立てながら他の死骸を下敷きにした。


 アーチェインはサンゼラを縮めた後、少し歩き寄って汚れないようにしゃがむと、死んだオークの首筋に小さな注射痕を発見した。

 すっと目を細めると、右耳たぶを引っ張りながら思考を纏め始める。

 

(今回の件は事故ではなく、やはり事件か。なんでこんな事をするのかは不明だけど、混乱を起こしたかったのは確実だな。それに――)


 アーチェインは溜め息をつきながら立ち上がると、今なお苦しむミナトを遠くから見つめる。


 今回の異変で大きく変化した人物だ。

 急に発狂し、胸を掻きむしったかと思えば、急に蹲る。

 これを狂人と呼ばず、何と呼ぶのか。


 ミナトの背中から溢れる狂気を感じながら、アーチェインは人知れず警戒度を高めた。


 ――人は皆、最初から純悪なる種を持っている。


 出自、環境、挫折。

 それら三つの要素で芽吹き、開花する。そうして犯罪者は生まれる。

 だが、本物の狂人は自ら開花 "させる" のだ。


 それを心身共に理解しているアーチェインは、かつての惨劇を思い出してしまう。

 そしてそれに釣られたのか、胃の中がざわめき始める。

 アーチェインは落ち着く様に、自身の茶髪をガシガシと掻きむしったのだった。


「ふぅ……まぁとりあえずやれる事はやったつもりだし、既に連絡したから大丈夫でしょ」


 ミナトが魔物に噛みつかれていた時ぐらいか、アーチェインは本部に通達していた。

 そうでなくとも逃げた探検者達が騒ぎを起こし、直ぐに連絡は入ったであろうが。

 

 それにしても、あれ程の規模を全滅させたとは奇跡に近い。

 もう魔物の気配はせず、いつも通りの探検が出来そうである。

 ミナトは大きく変化してしまったが、それでも沢山の人を守れたのは誇らしい事だ。

 何人かは死んでしまったが、それでもだ。


 アーチェインは感傷に浸る間もなく、ミナトに近付いていく。

 一応、正気かどうか確認せねばならない。後の報告の為にも、その健康状態を知らなければならないのだ。

 ミナトの背中を優しくさすろうとした瞬間。


 ――床から蛸の様な触手が何本も突き出す。


「――っ!?」


 アーチェインはミナトを抱え、即座にその場を離脱した。

 直ぐにサンゼラを伸ばし、前方を警戒する。

 それら触手はぬめりを分泌した後、一気に地の中に潜り込んだ。


(生物には必ず気配という、小さな空気の唸りがある……だけど植物の様に静かだ)


 確実にそこに居る。しかし未だ何の気配も感じ取れない。

 アーチェインは幾千も修羅場を潜ってきたが、こんな経験はした事がなかった。

 あまりの不気味さに冷や汗をかく。

 

 撤退も視野に入れ始めた丁度その時、曲がり角に手がかかった。

 ぼとり、ぼとりと粘液を落としながら、濡れ滑らかな腕をその場に表す。


 どうやら逃してはくれなさそうだ。やるしかない。

 アーチェインは、未だぐったりとしたミナトを背後に置くと、サンゼラを更に伸ばして構えた。

 

 ――その時。

 腐った牡蠣を溶かした様な臭いが通路に一気に広がり、その全身を見せる。


「――なァァァぁぁぁんデ、避けッるかなァ?」

 

 顔のパーツが耳まで裂けた口以外に存在しない異質な"ナニカ"。

 そよ正体不明の怪物は切断された人の腕を噛み食いながら、――嗤った。




© 2022 風ビン小僧

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