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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第2章  〈白なる葬願者〉
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第2章20 再堕の羽で飛び立つ



「なっ、ちょっ! アーチェインさん!?」


 あまりの急展開。

 直ぐに現場は大騒ぎとなり、次々に探検者が酷く殺されていく。

 ミナトは指示を仰ごうと振り向くと、アーチェインはいつも通り、馬鹿そうにニコニコしていた。


「落ち着いてよミナト君! 何人もボコボコにした君らしくもない!」


「い、いや、まぁ――」


「大丈夫さ! 言ったろ? 俺が付いてるって。あと、ここには君と俺ぐらいしか戦える人が居ない! ――さぁ! 俺達 "二人" が抑えている間にみんな逃げて!」


「えぇええっ!?」


 人生で二番目ぐらいに大きな声が出たミナト。

 それもそうだろう。勝手にしんがりを務めさせられたのだから。横暴アーチェイン断固反対。


 アーチェインの言葉を聞いた者達は早速行動し始める。

 仲間が目の前で悲惨な最期を遂げ、顔に鮮血が飛び散った中年も居る中、我先と上に逃げていく探検者達。

 それと同時に魔物の軍団との距離が縮まってくる。


 人と魔物の壁に挟まれ、逃げようにも逃げれないミナト。

 しかしアーチェインが言う通り、今までの行いを思い返してみれば大丈夫かもしれない。


 そう考えて腹を括るしかない。今が人生で初めての困難だろう。

 いざとなれば全部アーチェインに擦り付けて逃げればいい。RIPアーチェイン。


 ミナトが落ち着こうとしている間にも魔物の軍団はやってくる。

 赤黒い毛をした狼、外見がハシビロコウに似た怪鳥、巨大な黒蛇に、顔が二つある巨大蝙蝠エクセトラ。


 ミナトは小さい頃に読んでもらった絵本の1ページを思い出しながら、この世の終わりを悟るのであった。


「さぁ、丁度良く魔物が現れたところで ぶっちゃけの本番だよ! ――頑張ってね! ミナト君!」


(あくまでも生徒なのに、最前線に向かわせるのかよ……)

 

 半ば投げやりアーチェインは、サンゼラを頭上で回して槍型から鞭型に変化させていく。

 それに伴って暴風が更に強まっていく中、その回転速度が極限まで高まった瞬間、馬が啼く様な音が辺りに鋭く鳴り響いた。

 同時に、粗く刻まれた魔物達の体がボトボトと落ちていく。


「……え?」


 一瞬の出来事。


 気付けば、アーチェインは既にサンゼラを振り下ろした後だった。

 そのモーションを全く目で追えなかったミナトは、ただただ呆然する。

 続けてサンゼラを振り回して魔物を片っ端から切り殺していくが、その手元はブレて視認出来ない。


「は、速……」


 あの時と全然違う。簡単に勝てたとばかり思っていたのだが、単に本気を出していなかっただけなのか。しかも、未だ余力を残している気がする。

 少し肝が冷える感覚を覚えつつ、舐めプをされていた事実が判明してムカつくミナト。


 見返してやりたい。

 アーチェインが奮闘するも、魔物の大群が徐々に距離を詰めてくる中、呑気にそう考えていた。


 汚したくないので靴を脱ぎ、裸足になったミナトはナタを握り直す。

 自分にもまだ少年の様に負けず嫌いな部分があったとは、恥ずかしいような嬉しいような。

 そんなどこかむず痒い思いをしながら、ミナトは勢いよく魑魅魍魎に突っ込んでいく。


「ここから先へは行かせねぇ、よっ!!」


 ミナトは左にナタを振り抜くと、青い血飛沫と共に二匹のコボルトの頭が横に両断される。

 その脳みそごと頭を掴むと、横から咬みつこうとした狼の顔面に叩きつけた。


 怪鳥がその一瞬を狙い、ミナトを上から踏み潰そうと羽を広げながら急降下するが胴体を貫かれる。

 続けて他の魔物達の胴体に穴が開いていき、彩り豊かな血がその穴から噴き出したのは約一秒後だった。


 ――圧倒的な強さ。


 しかし、続け様に死んでいく現実に怯まない魔物達は突き進むのみだった。

 だがそれでも二人は止まらない。


「らぁぁあっ!!」


 右足で巨大な蝙蝠の腹を蹴飛ばし、その下にいた大鼠の頭を踏み潰すミナト。

 その流れで一回転し、周りの怪物達を切り刻む。


 様々な色の血と臓物が壁、天井、床に飛び散っていく。

 

 一通り蹴散らしたミナトは真正面に跳び、人型の魔物の顔を掴むと床に叩きつける。

 鮮血で顔が濡れるが、構う事なくそのままナタを振り回した。


 狭い道で行動を制限されている魔物達が一匹、また一匹とその命を散らしていく。

 ミナトは一旦顔に付いた血を拭っていると、その隙を狙った猪が咆哮を上げながら走り向かう。


「油断厳禁!」


 アーチェインがサンゼラを鞭型に変化させると、突進してきた猪の四足が音もなく消し飛ぶ。

 それは当然バランスを崩し、魔物の大群に突っ込んでいった。


 ミナトは感謝する間も無く、コバルト達の噛み付きを避けながら立ち上がる。

 そして左足を軸に勢いよく蹴り抜き、コバルト達は一つの玉となって壁に激突する。


「どんだけ、いんだよっ!!」


 ミナトは横に居た、もはや何色か判別できないスケルトンを縦に叩き割りながら、次々と現れる魔物の数に嘆いていた。


 ちなみにアーチェインの猛攻により、上から血と臓物の大雨が降り続けている。窒息しそうだ。

 お陰で飛行型の魔物に気を取られずに済むが。

 

 ミナトは頼もしさを感じるのと同時に、オークの股下に滑り込みながら、その左アキレス腱を断ち切る。

 そして流れる様に左手で狼の尾を掴み、襲いかかってくる魔物達の顔面や脚に叩きつけていく。


 狼の全身がいい感じにひしゃげてきたところで、奥で震えているスライムに投げ飛ばす。

 それと同時にその尾を切り飛ばし、直ぐにゴブリンの首を刎ねようと右腕を振るうが――、


「あっ」


 全身血塗れになってしまったミナト。もれなく手もビチャビチャだったので、ナタが滑ってすっぽ抜けてしまった。

 そのナタというと、あらぬ方向に飛んでいき、運良くマンドラゴラの胴体に深く突き刺さる。

 

 急いで取りに行こうとするミナトであったが、量が邪魔をする。

 その内のゴブリン二匹が槍を突き出そうと構えた。


「貰うぞ! 開放 閉塞っ!!」


 咄嗟の判断を下したミナトは、馴染みの能力を使用する。

 二本の槍はゴブリン達の手から強制的に剥がされ、ミナトの新たな武器となった。


 刃の部分に気を付けて握ると、力の限りに打ち下ろし、一直線にいる魔物群を地面に叩きつける。

 しかし、槍を逆手に持っていたので真ん中で折れてしまい、少しのダメージしか与えられていない。


 故に直ぐに起き上がってきた魔物達は遂にミナトに噛み付く。

 左肩、腹、胸、足首。それぞれが食い千切ろうと必死に牙を食い込ませようとするが、ミナトの頑丈な皮膚の前には全くの無意味だった。


「汚ねぇ、なぁっ!!」


 ミナトはそのまま回転すると、そのスピードに耐えきれなかった魔物の牙が根元から折られていく。

 そうしてそれらは、ミナトを囲む魔物の束に飛んでいったのであった。


 しかし、アーチェインは何をしているのだろうか。自分を守ってくれる筈ではなかったのか。

 ミナトは振り返りながら睨むと、アーチェインはてへぺろをしながら魔物を虐殺していた。


 相変わらずその場から動かず、サンゼラを高速で操っている。

 こちらに気付かない程に熱中していたのかもしれない。やはり戦闘狂であったか。


 頭上からまた白い臓物が落ちてくる中、約束そっちのけで熱中するアーチェインに超ドン引きしたミナト。


 そこに容赦なくコボルトが背後から飛び掛かってきたが、軽々しく避ける。

 直ぐにその首に腕を回し、抵抗される間も与えずに骨を締め折った。


 そして、文字通り腕の中で生き絶えたコボルトを間近で見たミナトはある事に気付く。


(――ん? 注射痕?)


 コボルトの首筋に小さな、本当に小さな注射痕。荒々しく打たれたのか、その箇所は紫色に変色していた。

 その場で見回せば、死体とミナトの周りを囲む魔物達にもある。


 そういえば魔物の目が血走っており、唾をダラダラと流し、血管が脈々と浮き上がっている。

 そして目に血が入ろうとも瞬き一つすらせず、いつ自分が死ぬか不明な状況下でも全く怯んでいない。


 ――異常だ。


 嫌な予感がしたミナトは視線を戻し、アーチェインに直接指示を乞う事を決める。

 まずは、ここら一帯の邪魔な魔物を殺して退かさなければ。

 両手に持つ槍を滑らせ、背後にいる熊の両目を穂先で突き抜く。

 ミナトは続けて、痛みで荒ぶる熊の背中に飛び乗ると柄を掴んだ。


「おら動けっ!!」


 ミナトは柄を荒々しく前に動かすと、熊はその方向に向かって他の魔物を蹴散らしながら突進する。

 しかし視力を失った状況下、足元は臓物と血溜まりのぬめりが酷かったのか、熊は途中で横に転んでしまった。


 その拍子にミナトは空中に放り出され、手足をバタつかせるも、為す術なく自然落下し始める。


「ちょぁ、え。やば」


 ――視線の先。

 そこには四肢を切り落とされた猪が倒れており、外に剥き出しの牙が上を向いていた。


 危ない、死体を避けなければツノに刺さってしまう、吸い込んで無くさなければ。

 刹那に様々な考えが混線した結果、ミナトはただただ右手を突き出す事しか出来なかった。

 鋭い牙と右掌が触れるのと同時に、"猪の体は音も無く消え去った"。


 ――その瞬間、莫大な力が全神経を通る。


「ぁ ア? ぁ、ぁ」


 ぶっ飛ぶ。吹き飛ぶ。脳からバグった快感が溢れ出して止まらない。

 冷蔵庫にしまったマグロは腐っていないだろうか。夏の蜜柑はちゃんと星形に剥けただろうか。

 殺さなければ。殺さなければならない。だったら父さんと母さんと一緒に心中しなければ。ひっきりなしの重低音が胸の底から響き渡って終わらないから。


 ――ミナトは狂気に包まれる。


 当然の如く着地に失敗して頭から壁に激突したミナトは、そのままその場で蹲った。


 クリアになっていく頭と、脳がぐちゃぐちゃに回し混ぜられる感覚。

 その想像以上の気持ち悪さに嘔吐しそうになるが、ミナトは自身の髪をぐちゃぐちゃに掻き乱して平静を保つ。


「ぁは ハ ハ」


 ――数えて三十秒程であろうか。


 その間にも同じ姿勢を続けていたミナトは、腹を空かせた魔物達にとって格好の餌だった。

 故に背後から巨大な蛇が何匹も大口を開け、その体を呑み込まんとする。

 しかし、それらの側頭部は銀の筒に貫かれ、その勢いのまま壁に固定された。


「ミナト君! 大丈夫かい!?」


 遠くからアーチェインの声が聞こえる。だがもう、ミナトは誰が叫んでいるのか分からなかった。


 次第に自我という必要不可欠な要素が宇宙全体に溶け出していき、死というものが鮮明に濃く描写されていく。


「ハハ……ハハハハハッ!!」


 自我が剥離していく感覚に溺れながら、ミナトは近くに居たゴブリンの顔を両手で掴む。

 するとそのまま横に裂きながら、声が枯れてしまう程に笑ったのだ。

 鼓膜をつんざく断末魔。それを聞きながら、魔物の大群に向かい走る。


 ――その姿はもう、志々目真邦(ししめみなと)ではなかった。



© 2022 風ビン小僧

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