第2章14 暴力的相性
「おぉい! 閉めんなよ! 出てこぉいっ!!」
(うるさ……)
ミナトは飽き飽きしながら浴室に向かう。
昨日はアーチェイン、今日は熱血系イジメっ子疑惑のミドル。どいつもこいつも血の気が多すぎる。
とりあえず、革ケース付きのナタを拾って「解放」と呟き収納した。いつでも直ぐに取り出せるようにだ。
にしても、この後の対応はどうするべきか。
素直に戦うか降参するか、そのどちらもトラブルの元になりそうなので心底嫌なのだが。
仕方なく腹を括るしかないのであろうか。
「何……?」
「やっと開けたな! さっきも言った通り、俺様と戦え!」
「間に合ってます」
「間に合わない! 俺様は新しい奴が入学してきた時、いつもこうしてるからな! 今更この習慣を変えろってったって無理な話だ!」
(クソアーチェインが……)
元気良く笑うミドルとは反対に、静かにうんざりするミナト。
それもそうだろう。誰もアーチェインに対し、教わるとなど言っていないのだから。
勝手にセミナーやら講座やら知らないが、本人の意思関係無しに加入させられては困る。
使い方が合っているかは知らないが、クーリングオフをこれほど行使したい日はなかなか無いだろう、と密かに思うミナトであった。
目を細め、斜め上を見るミナト。ミドルはその反応をあまり快く思わず「おい!」と叫び、ミナトの意識をこちらに戻した。
ミドルは案外と構ってちゃんなのかもしれない。いや、熱血系イジメっ子構ってちゃんとか完全サイコパス。
勝手に心の中で震え上がったところで、ミナトは既に諦めムードを醸し出していた。
何故なら、こういう種類の人間は自身の意思を突き通さないと気が済まない事を知っているからだ。
抵抗しても無駄。ミアリアペアが良い例だ。げに恐ろしや。
「戦うって何処で? さっさと終わらせよう」
「お? やる気だな! だけど、さっさとで終わる程俺は弱くないぜ!」
「いや、俺はアーチェインに勝った。それで十分だろう」
「なっ!? あの野郎に……益々やる気が湧いてきたぜ!」
駄目だこりゃ。
ミドルはアーチェインの生徒だと睨み、この発言によってあわよくばビビって退散してくれないかなという淡い希望だった。
だが、逆にやる気に火を付けてしまったようだ。
策士策に溺れるとはこの事。もうドアを閉めても突き破ってきそうだ。
「早くやろうぜ!」
「分かったよ……」
「よっしゃ! 早速行こうぜ、先に行ってるからな! 逃げんなよ!!」
「あ、え」
ミドルは、まるで玩具を買い与えられた子供の様に目を輝かせながら奥に行ってしまった。
ベットの上でゆっくりしてから行動しようと思っていたミナト。
であったが、何しろこの宿の構造を知らないので、彼に付いていかなければ確実に迷子になる。
単に人に聞けばいいだけの話なのだが、コミュ障ミナトにとっては無理な話なのだ。
皆は既に忘れていたと思うが、ミナトは根っからのコミュ障なのである。
故に、ミナトは頭を掻きながら急いで付いて行ったのであった。
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「――ここが第一訓練場だ!」
(第一、ってことは第二第三もあるってことか……そんないる?)
ミナトが疑問に思いながら着いたのは、ミドルが言ったように第一訓練場という所らしい。
ここはアーチェインと戦ったあの場所と似ている。もしかして、あれも訓練場なのだろうか。
だとしたら、この町には四つも存在することになる。
それは単に血気盛んな奴らが多いからなのか、それとも何か別の理由があるからなのだろうか。
折角の事なのだ。今後、嫌でも付き合っていく必要のあるミドルに聞いてみよう。
話が弾むきっかけにもなるかもしれない。
「なぁ、この町には訓練場が多すぎないか? 迷宮、というものがあるからか? それとも他の理由か?」
「まぁそれもあるけどよ……知らねぇのか? 世界中どこも戦争ばっかしで最近もここの近くで始めやがったから、この町の防衛力を上げる為に建てられたんだよ」
「つまり戦闘員を増やしたり、そいつらを強くしたりする為ってことか」
「そうだ。ていうか今まで知らなかったのか? ははっ! ミナトは見た目に反して、意外と世間知らずなんだな!」
「誰が世間知らずだ。しかも俺の名前もう知ってんのか? 早いな、僕はシシメミナト。よろしく」
「んお? おぉ」
急にミナトから手を差し出され、少し困惑気味で見上げながら握手を交わした。
一人称が変わった事についてミドルは特に何とも思っていないが、ミナトの態度が不自然に軟化した事に不自然さを感じたのだ。
嫌な予感がする。
ミドルがそう思ったのも束の間、ミナトは手に力を込め――、
「シッ!」
「おわぁあぁぁあああっ!?」
――ミドルを天高く投げ飛ばした。
突然の出来事に、ミドルはくるくると回転しながら百点のリアクションを見せる。
普通ならその肩と腕は、投げ飛ばされた際の威力と風圧で捥げていてもおかしくないのだが、丈夫に繋がっている。
完全に不意打ちを食らったミドルは奥歯を噛みしめ、直ぐに体勢を戻した。
「にゃろっ……! 舐めんなっ!!」
ミドルは眼前にミナトを捉えると、気張る様に構えた。瞬間、その両手が火に包まれる。
それが揺めきながら球体になり、圧縮された。
何かを察知したミナトはミドルの元まで跳ぶ動作を止め、顔の前で両腕を守る様に重ねる。
「くらえ、連続ドンドン!」
「いや酷――」
酷いネームセンスとツッコもうとした時、殴る様に放たれた火玉がミナトの両腕に衝突して爆発する。
そのままミドルは両腕を動かし続け、たちまち土煙が辺りを覆った。その光景はまるで絨毯爆撃の様だ。
そして動作が終わった後、落下しながら少しやり過ぎたと汗をかき始めたミドル。
そして同時にこのままでは足が大変な事になると大汗をかく。
「う、うわぁあぁあぁああああっっ!!!」
為す術無いミドルは手足をバタつかせながら、頭から落ちていく。
恐怖で歪む顔と重力に逆らって上っていく涙。橙色の髪が後ろに飛んでいきそうだ。
無駄な抵抗として、叫びながらも地面に火玉を撃ち続ける。
少しでも落下速度が遅くなればと思っての行動だったのだが、空気抵抗も何も変える事が出来ずに地面に激突した。
「ふ、ふげ……」
まるでヒキガエルの死体みたいにぺちゃんこになったミドル。
その顔を上げると鼻の穴からツーと血が流れた。全身も擦り傷だらけで、おまけにそれら一つ一つの中に小石が入り込んでいる。最悪だ。
体を軋ませながらヨロヨロ立ち上がるミドルは、とりあえずどこも骨折していない事に感謝した。
「あー……ミナト、大丈夫か?」
先程から何もリアクションを示さないミナト。
土煙が晴れていけばいく程に余計に心配になるミドルは、ミナトが倒れているであろう地点まで歩いて行った。
全力は出していなかったとはいえ、相手の不意打ちに動揺して強めに火玉を打ってしまったのは否めない。
正直に言ってこちらが悪いと判断したミドルは、頭を下げる覚悟を決めて土煙の中に入る。
――その瞬間、死角から拳が飛んできた。
「――なっ! ぶ」
それを避けきれず、右頬に重い一撃を貰ったミドルは勢いよく転がっていき、土煙の範囲内から飛び出された。
天井を見つめながら思う。二回目。
心無い不意打ちが二回行われた。そして、その両方とも避けきれなかった。
今まで戦った中で最も卑劣な戦い方をする男だ。こんな人間には会った事もない。
流石に堪忍袋の緒が切れたミドルは、跳ぶ様に素早く立ち上がる。
「おいお前っ!! いい加減に――」
眼前に捉えたミナトは既に地面を一発殴り、互いの視界を覆う砂煙を発生させていた。
目眩し。瞬時にそう判断したミドルは、冷静に音を聞く。
そのまま全ての音を聞き逃すまいと警戒するのと同時に辺りを見回すミドル。
ミナトは低い体勢を維持しながら相手に走り向かい、その途中で右手で砂を荒々しく掴んだ。
こちらに走ってくる音を聞き、ミドルはタイミングを合わせて火玉を纏った右手を振るう。
だがミナトは真下に避け、手に持った砂を相手の顔に叩きつけた。
目潰しをされたミドルは、呻き声を出しながらも踵落としをしようと片足を上げたが、ミナトはそこに鋭い足払いをした。
浮かび上がるミドルの体、その腹にミナトは体を投げ出しながら頭突きをする。
そして吹っ飛ぶミドルを追いかける様に、両手で着地したミナトは手だけで加速し、今度はミドルの顔に頭突きをした。
更に鼻血が飛び出す。
空中で仰け反るミドルは、その勢いのまま壁に背中から激突した。
意識が乱雑に混ざり、ぐったりとして動けないミドルにトドメをさす為にミナトは歩いて行く。
「お、前……ひ、卑怯、だぞ」
「すまねぇが、これが俺のやり方だ」
ミナトはそう言うと相手の顎を蹴り抜いた。
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