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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第1章 〈龍の願い〉
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第2章10 嫌々紀



「ところで、君の階級は一番下のファシル級からだよ! 一緒に高め合っていこう!!」


「あ、あぁ……はい」


 魔導機をズボンのポケットに入れ、夢想していたところに元気よく、コーチが言うセリフの様な横槍が入る。衣食住などを揃えておいて、階級については出し渋るのか。

 ミナトは相手側からドケチ臭さを感じ取りつつ、夢の世界から現実に意識を戻す。そこでようやく外が夜に切り替わっていることに気付いた。


 この階層に窓は無い。しかし、柵から見える下の階の奥の方から少しだけ差し込んでいた光が弱まり、それに代わって闇が侵攻していた。

 気温も少し下がった様な気もする。夜の異世界もまた、風情があるのかもしれない。いや、それよりも――、


(ルースさん、俺のこと忘れてない……?)


 ミナトは心の中で涙を流す。少女二人仲良く帰っているかもしれない可能性に、何故か自身の父の事を思い出したのであった。

 もう少し仲良くしておけば良かったかなと反省するミナトは俯いて溜息をつく。


 アーチェインは、急に雰囲気が変わった相手を心配して顔を覗き込もうとする。

 だが、ミナトのじとっとした湿度がある視線とぶつかり、ゆっくりと元の体制に戻った。まるで反抗期の娘と中年の父親の様だ。


「……もう夜だね! うん! ……あれだね、ここにいるのもあれだから外に出よう! はっはっ」


「いや俺、待ち人なんで無理です」


「ま、待ち人? 待ち人って誰なんだい?」


「ルースさんです」


「――あぁ! ルースちゃんね! あぁはいはいあの子か!!」


 変な空気が流れた後、アーチェインは場をなんとか明るくしようとミナトに話しかけた。

 今の時間帯、これからの行動の促し。しどろもどろになりながらも、必死に決死に笑いかけたが、ミナトの冷徹さに撃沈。無情である。


 しかし、アーチェインはミナトの話の内容に一筋の光を見つけ、少し興奮しながら質問する。コミュニケーションを取れる可能性があると考えたのだ。

 ミナトは相手を警戒しながら冷たく答えるものの、アーチェインは反対に陽気な反応をする。手を一回叩いた後に、何回も頷きながらミナトを指差した。取っ掛かりがあったことに感謝アーチェイン。

 

「知っているんですか?」


「あぁ勿論! この町では一番有名な女の子さ! あの子は優しいよ! 俺だけでなく周りにも優しくしてくれるから勘違い男が続出さ! 勿論俺もその一人さ! はっはっは!!」


「へ、へえ〜……」


 勘違い男がここにも一人。多分誰よりもたちが悪い野郎だ。

 ミナトは自分が思っている以上に落ち込んでしまう。きっと、ルースが微笑んでくれるのは自分だけだと思い込んでいたからだ。ショックの極まり。


 この町の童貞集団とジジイ集団が天使に弄ばれていると発覚したところで、アーチェインは突然「やれやれ」と吐息混じりに呟く。

 ミナトは何か文句でもあるのかと睨む様に見たが、相手の顔は儚げで此方を向いてもいなかった。

 どうやら勘違いだったようだと柵の外を見遣るミナト。


「また一日が終わる……俺の魅了が月よりも突き抜けることに、夜が熱狂するね」


「は? え? ……はぁ?」


 キメ顔アーチェインはそう言って、自身の茶髪をさらりとかきあげる。同時に揺れたピアスが嫌な光り方をした。

 まさか怪文書の朗読がされるとは夢にも思わなかったミナト。その口から三回も挑発的な疑問が出た。引く。ドン引きだ。意味が分からない。


 そろそろアーチェインの頭を本気でしばいても良いのではないかと本気で思い始めた瞬間、館内に女性の声が響いた。どうやらもう閉館らしい。

 もうそんな時間が経っていたのかと気づくのと同時に、眠気が全くないことに少し恐ろしさを感じた。


「……ミナト君、本格的にルースちゃんから忘れられてないかい?」


「いや忘れられてませんよ来ますよ絶対」


「いや、でも――」


「来ます来ます来ますよ絶対」


「そ、そうかい……ならいいんだけどさ」


 ミナトの圧に苦笑いアーチェイン。本気の心配だったのだが、逆に反感を買ってしまったようだ。反省アーチェイン。

 ミナトの方も、そんなこと言われたら最初考えていた可能性と相まって不安になってしまう。本当にルースの記憶から自分が抜け落ちていたら、それこそ自害案件なのだから。


 そんなこんなで二人は螺旋階段を下っていく。その最中、相手の雰囲気が微妙に変化した事を後ろにいるミナトだけが気付いた。何か行動を起こすに違いないと予想して身構えるミナト。また怪文書朗読だったら突き落とす。

 そして予想通り、アーチェインは階段を下りきったタイミングで口を開いた。ミナトと目が合う。


「……なんで手を上げてるんだい?」


「あ。これは気にしないでください。それで何か?」


「うーん……? まぁ、いっかぁっ!」


 下りてくるミナトが胸の位置にまで手を上げていたことを不審に思う。だが誤魔化されたので、とりあえずこの出来事は心の中にしまっておくことに決めたアーチェイン。実に哀れである。

 しかし、今から提案される内容はミナトを驚かせ、尚且つこの空気を一変させる。


「あのさ……お願い、というか申し込み? なんだけどさ」


「はい。なんでしょう」


「――俺と戦ってよ!!」


「え? えぇ? えっ今からですか?」


 突然の対戦提案に思考が付いていかないミナトは、黒髪の上にクエスチョンマークを出しまくる。

 急に何を言い出すのか。目的が分からなさすぎる。ついに頭がおかしくなってしまったのか、いや、元からか。

 アーチェインはそんな相手の心中内での陰口などつゆ知らず、なんとか元気よく自分の計画の中にミナトを持ち込もうとする。


「そう今から! いいでしょ別に? まだ迎え人であるルースちゃんも来なさそうだしさ! はっはっは!」


「いや、でももう夜ですよ? こんな時間にそんな都合良く開いている場所なんて無いし、それに戦う理由も無いでしょう?」


「いやそれがあるんだなぁ、実はっ! 俺と君が戦う理由は二つもある!」


 静かになりゆく館内に響き渡るアーチェインの溌剌とした声。暗澹たる夜の中に対してアンバランスな様子だ。しかし気にせず、ミナトを誘う。

 ミナトに至っては、我関したくないといった状態。何故、わざわざ此奴と戦わなければならぬのだと憤慨しそうだ。しかも二つも聞かねばならないと来た。全くである。

 従って手を突き出し、Noと叫びたいが、アーチェインは例えこちらが嫌がっても話しそうなので、正直に諦めることにした。


「二つって……?」


「まぁまぁ、嫌がらずに聞いて欲しいんだけどさ! 試験と君への興味が重なっちゃってさ! どうしても俺と戦って欲しいんだよ!」


(――試験?)


 試験とは、一体何を試すのであろうか。強制的に入らされた協会が課すものなど一笑に付したいところではあるが、あの筋肉糞ゴリラ野郎のことだ。またいちゃもん以上の事をしてくるに違いない。

 それに、合格したら何か特典が貰えるかもしれないし、丁度自分の力試しも出来る良い機会だ。素直に同意しておこう。興味の件については悍ましいので聞かないことにする。


「――あと、一緒に高め合って行こうとお互いに約束したしね!」


「いいえしてません」


「いいやしたね! 君はあぁ、はいと言った! 二回も同意してくれたんだよね!?」


「流す、という言葉を知ってますか?」


「勿論! 液体の話だよね?」


(こいつまじで……)


 同意したくなくなってきた。アーチェインは馬鹿なのか、それともミナトを馬鹿にしてるのか判別がつかなくなってきたところで職員が来る。

 立ち止まっている邪魔な二人をさっさとどかしたいのであろう。もう閉館時間はとっくに過ぎているからだ。

 あと騒音のことも注意されたが、これはアーチェインのせいだ。実際、職員は人差し指を立てて説教している。

 怒られてやんのとバカにするミナトは、漸く溜飲を下げれたことで笑顔を取り戻した。

 取り戻せたことで職員から「何笑ってるんですか」と注意されたが。


「す、すみませんでした……」


「いやぁ、ちょっと……まぁ、あれだね! うーん、すみませんでした」


 みっともなく謝る二人。とぼとぼ歩いて出て行く二人。そして夜空を見上げる二人。仲が良いのか悪いのか。

 夜風に震えるアーチェインは盛大にくしゃみをした。


「大丈夫ですか? 魔法とかで温まったらどうですか?」


「うーん! お、俺は風魔法なんだよね! あー! ミアちゃんが居てくれたらなぁ!! へ、ヘックションっ!!」


「寒がりなんですね」


「いや、これは誰、誰でも寒いよ……ルースちゃんもさ、まだ来なさそうだしさ! 早、早く建物の中に入ろうよおっ!! ううううっ」


「もう分かりましたよ……戦えば良いんでしょう? まったく……そこですよね?」


 ミナトはやれやれと歩いて行く。茶色のレンガ作りの建築物が乱列した中で、直ぐにミナトが同じ見た目なのに目的地だと判別できたのは、入り口から爛々と明かりが漏れ出していたからだ。本当にこの時間まで営業していることに、若干の不愉快さを感じるミナト。

 違ったら恥ずかしいが、アーチェインは何処か嬉しそうに後ろを着いて来るので十中八九そこで合っているだろう。

 しかも、使うのは風魔法だということが分かった。闘う上で必要な情報だ。もし、リアと同じくらいの威力を出せるのなら脅威だが。


(こんな奴がリアさんと同じぐらいの威力を出せたら、なんか腹立つなぁ……)


「今、何か酷い事思ってなかった?」


「いえ何も」


「思ってたね絶対」


 思うに決まってる。しかし何故、自分の心の内が直ぐにバレるのだろか。ルースにも言われたが、顔に出るのであろうか。情けない。見るなアーチェイン。

 悔恨の極み状態に陥ったミナトは、壁に規則正しく並んだ、まるであの美男の様な貴重面さを感じさせる灯りに、思い出しイラつきをしつつ、大部屋に出る。


 ――そこはまるで闘技場だった。人は誰も居ない、アーチェインとミナトの二人だけの筈だが、人々の熱気が上から下まで充満していた。

 音も反発しており、何よりこの場所はお椀型なので、まるで自分が金魚鉢の中に居るかのような錯覚に陥る。


 思わずミナトは見上げながら中心に立つ。より一層、光が強くなった気がしたのである。

 そんなところにアーチェインが「初めてかい?」と声を掛けてきた。どうやらこの場所についての説明が入るらしい。


「この場所はね、よく俺の生徒が使ってる場所なんだよ」


「生徒? 先生やってるんですか?」


「あぁ! こう見えても俺、教師なんだよね! しかも大絶好で大絶頂な人気の教師なんだよね!!」


 そう言ってドヤ顔するアーチェインだが、教師を務めていたとは驚きだ。にしても、"こう見えても"と発言していたことから、多少なりとも自分はウザいという自覚はあるのだろうか。実際ウザいし。

 そろそろ可哀想になってきたアーチェインだが、そううかうかともしてられない。目線を戻すと、いつの間にか両手に二つの木刀を持っていたからだ。

 いつも通りニコニコ顔だが、何処か雰囲気が変わった。こちらに投げられた片方の木刀を掴みながら、ミナトは警戒する。


「――さて、始めようか」


「付き合ってあげてる身にもなって優しくしてくださいね」


 かっこよくキメたアーチェインに冷たく反応を示したところで、嫌味っぽく戦いが始まる。



© 2021 風ビン小僧

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