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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第1章 〈龍の願い〉
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第2章9 そんなに信用ならない?赤ちゃん



「あーちぇいん、さん……何故、急にそのような措置を?」


「うーん、丁寧……!」


 ミナトは冷たい視線を相手にぶつけながら尋ねる。

 あまりにも話がうまく進みすぎているからだ。確かに魔導機を持っていれば何かと便利なのだろうが、それはあくまで自分から取得した場合の話。

 知らない男から与えられた場合は、まず警戒することから始めるべきだろう。日本で沢山習ったリスク回避。用心大事。

 哀れなアーチェインは、超が付く程に警戒するミナトを刺激せず、その警戒を解くように軽く話しかける。


「まぁまぁ、そんな怖い顔しないでさ。まずは笑おうぜ? 君には何より笑顔が似合う!」


「なるほど」


「心からの想いが なるほど だけで片付けられてしまった!」


 スタートダッシュで失敗したアーチェインは、元気よく顔を片手で覆った。つくづく陽気な人物なだと、ミナトは足先からつむじまで観察しながら思う。

 こんなタイプは今まで見たことがないし、話したこともない。もちろん日本でもだ。なので、こういった未知の種類の人間への脳内マニュアルは存在しないのだった。

 ミナトは静かに溜め息をつくと、アーチェインを凝視して話の先を促す。

 目の前からガン冷えの視線に曝されていることに気付いたアーチェインは、苦笑いを浮かべた後にジェスチャーを交えながら事の顛末を説明し始める。


「エレタ警備組合内での問題行動が外に漏れちゃってね。ほら、君、酷い目にあったでしょ?」


「えぇ。今度何かあったら訴えようかと思ってました」


「ははは……まぁ無理もないよな」


「それで? それが反省の印ですか?」


 ミナトは辛辣に、アーチェインの左手にある魔導機を指差す。

 先程からミナトが堂々と冷ややかにする理由。それは、あの一方的な暴力と態度に理不尽さを感じたのもある。最もミナトにしてはいけない事柄の一つ。

 そしてお詫びの品として魔導機。これでチャラに出来るという傲慢ぶった勘違いもまた、ミナトの反感を買う理由だった。


 ――シシメミナトは、決して善人ではない。


 アーチェインは困った様に自身の茶髪をわしゃわしゃと揉みながら、この後の展開を思い浮かべる。


 魔導機。様々な厳しい試験を経た後にようやく手に入れられる探検者の証。それが過程を吹っ飛ばして入手できるのだから、とてつもない豪運だろう。

 故に異世界の住人ならここで喜ぶのだ。それこそ、全てチャラにしてくれるぐらいに。だが、シシメミナトは地球人。その常識が通じる訳もなかった。

 色々な未来を想像し、最終的に出した結論。それは――、


「――迷宮に行こう! 一緒に!」


「……え?」


 アーチェインは親指を立て、歯をキランとさせる。しかし、あまりの論理の飛躍にミナトは唖然するばかり。

 魔導機を手に入れた以上、迷宮には潜れるのだろう。だがしかし、この男と一緒に行くメリットが分からない。ルース達と共に潜ればいいだけだからだ。なのに、何故この男はこうも自信満々なのだろうか。

 ミナトが固まっていると、アーチェインはチャンスと見たのか、早口で畳み掛ける。


「俺はスペリアの中でも結構有名な方なんだ! 無料で戦闘指南もしてあげるし、迷宮での過ごし方も教えてあげるからさ! ねぇ、どう!?」


「ち、近いですって……」


「無料だからさ! 魔物の事も教えてあげるよ! あ、もちろん魔物の素材もそのままあげるしさ!!」


「だから近いっ……」


 興奮しながらじりじりとにじり寄ってくるアーチェインを手で押し返すミナト。

 鼻息がかかる距離だ。熱い心から発せられているのか、熱気も押し寄せてくる。もしかすると、いや、もしかしなくても、このタイプは自分に合わないかもしれない。ミナトは押し返し続けながら、そう思った。


(どうしようかな)


 ミナトの欠点は押しに弱いこと。強引にいけば断りきれない性格が残っていた。――ルース達の服選びの時は例外だが。

 故に、ミナトは相手を押し返しながら悩み始める。確かに、アーチェインの提案した条件の内容は良いかもしれない。

 いやしかし無料とは怪しすぎる。タダより怖いものは無い、父からの教えだ。

 やはりこの男は怪しい。信用ならない。そう結論を出したミナトは目を細める。だが後もう一押しのところまで来ているのは確実だった。


「決めてくれた? ――あっ」


「……」


 アーチェインはそこで漸くミナトから歓迎されていないことに気付き、気まずそうにゆっくりと離れる。しょぼくれて後頭部を掻いた。

 その光景を見たミナトは日本に居た時のセールスマンを思い出す。よく炎天下の中で歩き回っても尚、熱量を失わずにニコニコとしていたものだ。

 最終的に仕事には就けなかったが、もしも自分が将来、そういうセールスマンになっていたのかもしれないと思うとゾッとする。

 突然ブルブルと震え上がったミナトを不審に思うアーチェイン。


「いきなりどうしたんだい? 何か不安な事があるなら――」

 

「いえ大丈夫です」


「たはは! 速攻で言葉を返されてしまった!」


 素早く出されたミナトのNo &左手の平に対して、元気よく目を覆うアーチェインは大声で笑う。

 本当に、ポジティブ思考の極まりの様な人間だ。きっと何処の世界でも生き抜いていけるに違いない。

 なんとなく目線を柵の外に外したミナトは、既に夜に近い時間帯になっていることを思い出す。そしてヒヤリとした。


(寝る所どうしよう……!?)


 全く予想もしていなかった箇所にパンチを喰らったかのような衝撃が走る。

 衣食住。衣の部分はクリア済みだ。だが、食住の存在を完全に忘れていた。

 腹は減っていないし、未だに眠くなっていないので失念していたミナト。異世界に来て野宿などとは、真っ平御免だ。

 ルース、に頼めば用意してくれるのだろうか。今日の昼には服屋に連れて行ってもらい、一式を買ってもらった。ならば家も買ってくれる、いや、借りてくれるのかもしれない。酷すぎる考えだが。

 しかし、それは流石にミナトのプライドが許さなかった。男のプライド。本音としては、名実共にヒモ男になりたくないのである。


 迷惑を掛けるなら他の人に分散しながら掛けることを決めた最低人間は、苦渋の選択だが、アーチェインに一つの希望を勝手に託すことにした。


「アーチェインさん、結局俺にどうして欲しいんですか?」


「ん! そうだね……うーん」


 ミナトは遠回しに話を進めることにした。優位なのはこちらなのだから、上手くいけば宿借りの権利ぐらいは勝ち取れるだろう。もしかすると相手がボロを出して、やはり偽物だったか、という展開にもなるかもしれない。ミナトがコミュ障だったことやアーチェインが本当に信頼できるのか不明な点が不安材料だが。


 アーチェインは唸る。相手もまた、言葉選びを間違えれば駄目だということを認識している為であろう。

 ――良い感じだ。このまま悩みに悩んで、こちらにとって最適な答えを出してくれたのならHappyWIN-WINだ。ミナトは無料で宿に泊まれ、アーチェイン側は一先ずの問題解決なのだから。

 ミナトが相手の返答をじっとりと待っていると、アーチェインは指をパチンと鳴らして返答する。


「――全部何もかも許して欲しいかな!」


「すごい傲慢」


「ついでに、言っていいのか分かんないから言うんだけどさ!」


「言うなよ」


 無茶苦茶だ。超前向きな人間は必ずバカだという呪いでも存在するのか。

 超常的な理屈を感じずにはいられないミナトは、思わずツッコんでしまった。本来はツッコミキャラではなかったはずだが。

 アーチェインは間髪入れずに話す。 


「君はもう逃げられない! なぜならミナト君は既に探検者の一人だからね! 勝手にこの町の外に出たり、変な行動をとったりすると罰則が付く!」


「な、そんな――」


「――ついでに、この魔導機を壊したり無くしたりしたら罰金だからね」


「え? ちょっ」


 アーチェインはそう言うと、ミナトの右手をすっと掴み上げ、ずっと掴んで生暖かくなっていた魔導機をぽんと置いた。

 あまりのスピード感に着いて行けていなかったが、日本の場合で例えた場合、独特なルールを持った会社に強制的に就職させられて強制的にそのルールに従わさせられるといった感じだろうか。

 それこそ監視ではないか。こんな人権を無視した命令、十中八九あの暴力糞ゴリラの仕業だろう。いや、そうに違いない。慈悲無し義理無し意気地無し。

 決して許さないと心に今一度誓ったミナトに、怒りのオーラを感じたのか、アーチェインは元気よく語り出す。


「まぁ安心したまえ少年よ! 取って食おうとはしないし、衣食住も揃えてある! はっはっはっは!」


「……」


 とりあえず衣食住の問題は無さそうだ。しかし嫌だ。こんな衣食住の勝ち取り方を聞いたことも見たこともない。完全に掌の上で踊らされている感覚だ。

 軽く丸め込まれた。やはりミナトには交渉人のスキルは存在しない。その原因として思い出すのは日本での日々。

 頭空っぽの状態で空想し続けた結果がこれであるのならば、何か一つでも熱中しておけは良かったと後悔するミナト。だが、もう遅い。遅すぎたのだ。

 ここは異世界。後悔している間にも、天と社会はミナトを見放し続ける。日本という揺り籠の中で親指をしゃぶっている期間は終了したのだから、当然と言えば当然なのだが。


「――無料で全てを勝ち取れる機会が与えられたんだ。俺だったら赤ん坊の様に吸い付くけどね!」


(いきなり来るなぁ、この人……)


 この強気。アーチェインは本当に、本物の探検者の一人なのだろう。いや、なのかもしれない。

 ただ、自分が今居る団体に昇級制度が存在するのだから、上り詰めていくのも一つの手なのかもしれない。させてくれるかは別として。ミナトは天井を見る。


 衣食住。登り詰めてLIKE A HERO。モテモテ。豪邸住み。王様になる。

 今後も思いつく、あらゆる可能性を全て相手に潰されてしまうことを予見しながら、ミナトは夢想した。

 だが未来なので、まだ分からない。

 

 ――今は、そのことを喜ぼうではないか。



© 2021 風ビン小僧

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