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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第1章 〈龍の願い〉
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第2章7 異世界最新情報



 ミナトの独り言は誰にも聞こえず。

 故にデロバッサは、田舎から上京して来たと自ら言った哀れな少年に手取り足取り教える事にした。


 デロバッサは指を空中でくるくるしながら説明し始める。

 それをミナトは後を付いて行きながら耳を澄ました。


「迷宮ってのはね、いわば結晶の延長線上にある物質の集合体と考えられているんだよ」


「結晶?」


「そう、結晶みたいなもの。だから珍しい色や模様とかが壁とか床にあれば削り取られて売られるんだけど……まぁ、それは置いといて。世界各国に存在してる迷宮なんだけど、実は未だ謎が多いんだ。あ、そこ絵本の区域ね」


「ん? あぁ、うん」


 いきなり大図書館の説明も入ったので少し驚いたミナト。

 どうやら、デロバッサはこの一回で全てを説明するつもりらしい。


 きちんと覚えていられるのか不安だが、折角、懇切丁寧にしてくれているのだ。

 最悪、ここの構造だけでも覚えておこうと決心したミナトであった。


 デロバッサはそんな記憶力事情などつゆ知らず、自身の記憶を噛み砕いて続ける。


「まぁ謎が多いって言っても、まだ確信を得られてないだけで粗方分かってるんだけどね」


「へー、色んな天才が頑張っているんだなぁ……」


「そうなんだよ。フレアンジの一人が頑張ってくれたおかげで一気に研究が進んだんだ」


「ふれあんじ?」


 ――またもや聞き覚えのない単語だ。


 ミナトは頭にハテナを浮かべる。何かの研究機関の名前であろうか。

 だが、何かの集まりであることは確かであろう。

 なんとかかんとかの一人だとデロバッサは言っていたのだから。


 シャンデリア型の明かりに二人は照らされながら、ミナトは新情報に心が躍るような、頭を痛めるような感じがした。

 どうにも自分の記憶力は人並みらしい。


 デロバッサは説明兼会話を楽しみながら、自身のサラサラの灰色の髪を揺らす。

 

「まさかそれも知らないの? まぁ良いけど。フレアンジは、四人の天才達で構成された階級を指す言葉だよ」


「たった四人だけ?」


「されど四人。エレタ迷宮管理協会が誇る"最強"の四人さ。たった一つだけ枠が空いてるけど」


(エレタ迷宮管理協会? うーん。確か、あの時に聞いたなぁ。その協会の名前)


 ミナトは今までの情報を整理する様に自身の頬を掻きながら、過去を思い出す。

 ミナトが連行されている最中、茶髪の女の子が必死に兄の行方を尋ねてきた。

 確か、一人の兵士がその時にその少女を引き剥がしながら、その団体について言っていた。

 よく憶えていたなと自画自賛するミナト。記憶力はまだ捨てたもんじゃないと思えて嬉しい気がした。


「沢山の人がフレアンジに昇格しようとするんだけど、全員諦めて今の階級を甘んじて受け入れる。それだけ条件が厳しいんだ」


「ふーん……その沢山の人も別の名が付いた階級に?」


「そうそ。ファシル、ダバス、スペリア、フレアンジの順に偉くなっていくんだよ」


「ん? ふ、ふぁ……ダ、スペ?」


「別に覚えなくて良いさ。フレアンジさえ覚えれば問題ないよミナトっち」


 デロバッサはそう言うと少年らしく笑う。ようやく年相応になった気がする。

 ギャップ萌えというやつなのか、ミナトは完全に彼に心を鷲掴みにされつつ、今までの情報を少し整理。


 結晶に分類される 迷宮 という物質の塊は世界各国に存在。それらに秘められた謎も直ぐに解明されるとの見解。そこに大きく貢献した天才。彼らが所属しているエレタ迷宮管理協会。


 なんだか下手くそなラップっぽくなってしまったが、こんな感じだろうか。

 まだ知るべき情報が沢山残っているだろうに、この疲労感。先が思いやられる。


 苦手で勉強をサボり続けていた社会や日本史とは違い、異世界についての情報ならば楽しく覚えられるだろうし覚えたくもなるだろうと考えていた。

 だった筈なのだが、どうやら完全なる勘違いだったらしい。


 ミナトが、やはり自分は勉強が苦手らしいと自覚したところで、二階に行く為に螺旋階段を上がるところだ。


「ちなみにこの大図書館は屋上、三階から一階、地下一階から三階まであるよ」


「デカっ……!? そんなお金何処から――」


 固い音を鳴らしながら歩く二人。

 本独特の匂いが強まってきたところで、デロバッサは唐突にこの建築物の構造について話す。

 ミナトは驚きすぎてつい生々しい事情を聞きそうになってしまった。急いで口を閉じたが、子供にそんな事を、悪気はないが、聞いてしまったことを後悔する。

 デロバッサはまた子供扱いされたことを察し、ミナトの顔を見つめながら金色の目を細めて無言の抗議をした。


「……ほらほら、前見て歩かないと躓いちゃうよ? はい可愛い可愛い」


「ぼくちん君より年上なんだけど」


 誤魔化すミナト。早口で何か言われたが無視無視。可愛い可愛い。

 デロバッサは不満げだが、やれやれと頭を振ると前を向き直す。


「だいぶ話が逸れちゃったけど、迷宮は維持費無しで莫大な利益を生み出す最高の舞台。魔物の素材やら、さっき言った、珍しい模様と色を削り出して売ったりとかできる。けど――」


「けど?」


「たまに 展開場(てんかいば) と呼ばれる、危ない状態になることもあるんだ。……まぁ、これを説明するには沢山の専門的な知識がいるから詳しくは説明できないけど、簡単に言うと、迷宮という箱が作られるより前に魔物が溢れ出しちゃう現象のことさ。――だから、この世界には魔物が溢れかえってる」


 最後の一言は行き場のない怒りのような、冷たくなった儚さを感じさせる声だった。

 あまりの変化に静かに驚いたミナト。

 小さな体から発せられるとは思えない程の人間性と理性であった。

 デロバッサはやってしまったというように「ごめんごめん」と言い、また赤と白の水玉模様のふざけた衣装が放つ雰囲気に馴染んでいく。

 ミナトはその一部始終を間近で見ながら、少しだけ自分の過去と少年の今を照らし合わせたのであった。


「まぁ、なに、迷宮についてもっと知りたいのなら、そこに行くべきだよ。とはいっても、ミナトっちは絶対にそこに行くしね」


「……?」


 珍しく言葉に詰まるデロバッサの、どこか断定的な物言いにミナトは疑問に思う。

 何か知っているのだろうか。

 それが自分にどう繋がってくるのか、ミナトは勘ぐろうとしたが何の情報も頭には入ってこなかった。


 いつもお世話になっている勘が使用できない事をもどかしく思いつつ、ミナトは螺旋階段を登り切った。


「この図書館……迷宮のおかげで建った大図書館。古いけど心地良い、――僕の唯一の居場所」

 

 デロバッサは年季の入った柵をゆっくりと摩りながら、しみじみと呟く。

 一人称が悲壮的に変化した理由を今のミナトが知る訳もなし、二人の間に独特な雰囲気が流れる。

 ミナトは手持ち無沙汰になり、両手で胸辺りにある手すりを掴みながら見下ろす。

 そこにタイミングよく真下に現れた老爺が、なんとなく向けたミナトの目を釘付けにする。


「――獣人?」


 ミナトがその答えに至った理由。それは、紛れもなくその男性の頭に動物の耳が生えていたからだ。

 白髪がほぼ埋め尽くした犬のような耳。だが、人間の耳も付いている。

 そんな次のファンタジー要素に運良く触れることができたミナトは喜ぶ、かと思われた。


 だが、実際、彼の心に浮かんだのは――、

 

(なんだ、あれ)


 不快感。ミナトは確かにそう感じた。

 圧倒的な異質感と異物感。こんなに気味が悪いという感想を抱いたのは初めての経験だ。

 ミナトは見下ろしながら、少しばかり恐怖する。

 しかし、それら全てを声には乗せない。


 ――もしそうすれば、それはきっと拒絶へと繋がってしまうだろうから。


 ミナトは口をぐっと閉じる。

 この感覚は自分だけかもしれないと、馬鹿な行為だが、ミナトはデロバッサの方を向いた。

 

「ミナトっち。その心掛けは正解だと思うけど、じゅうじん と呼ぶのは止めといた方がいいよ? ま、あのおじいちゃんの耳遠いから聞こえてないけど」


 いつの間にか、おちゃらけを取り戻していたデロバッサは柵から手を離し、ミナトに体を向けると優しく忠告した。


 ミナトは自身の内面を見通されていたことに、驚きと罪悪感を背負いながら、何故 獣人 という単語がタブー扱いなのかが気になった。

 どれだけ心が重くなろうとも、興味は湧くのだ。


 ミナトはデロバッサを見つめて話の先を促すと、デロバッサは目を閉じ、やれやれと溜息をつきながら回答する。


「今さっき、ミナトっちが悪気無く言った じゅうじん って言葉。多分、獣に人だと思うんだけどね……合ってる?」


 下に居るであろう老爺の事を気に掛けながらミナトは小さく頷く。

 デロバッサはミナトの反応をしっかりと見た後、話を続ける。


「歴史上において彼らは長く奴隷にされていた。人間のね。そして、自分と彼らの差を明確にする為に差別と蔑称を与えたんだ。――それが従人(じゅうじん)。従わせられる人々で従人って訳さ……後々二つに内部分裂を起こし、その片方が革命戦争で圧倒的な差をつけてあらゆる国々に勝ったことも覚えておいてね」


「そんなことが……」


「そうそ。ま、気を付けてよ。――ちなみに今、危ない方は爪族(がぞく)だからね。ルイン帝国と並ぶぐらい危険視されているんだから」


「うへぇ……」


 あのご老人の耳が遠いことに感謝したミナト。

 話を聞く限りだと彼らの中で穏健派と革命派に分かれたのだろう。

 だが、何処に革命派が居るか不明な以上、黙っておくことが先決だ。

 ミナトは身震いしながら心に深く刻み込んだのであった。


「――ところで、俺はなんでここに案内されたんだっけ?」


「……ぼくちん、言われるまでそのこと忘れかけてたよ」


「……」


「ごめん、やっぱほとんど忘れちゃった」


 そう言うと、照れ隠しで自身の後頭部を撫でるデロバッサ。ミナトは優しく目線を送る。


 デロバッサは諦めたかの様に「ま、いいや」と背伸びすると、直ぐ近くにある沢山の本棚の方に歩いて行く。

 忘れ去った事柄については、あまり気にしないスタンスで通すようだ。


 廻神教(かいしんきょう)爪族(がぞく)やら展開場(てんかいば)、しれっと言われたルイン帝国。


 この異世界を蝕む危険因子の存在を一通り聞いたミナト。

 故にどうしても、この世界が殺伐とした雰囲気に包まれている事を感じざるを得なかった。


 そんな中でも、デロバッサを目で追っていたミナトは、後ろを向いた彼に手招きをされる。


「どうしたの?」


「ミナトっち、人気の無い所に案内するよ」


「それはありがたい」


 ミナトはデロバッサの華麗な思いやりを心の中で称賛・感謝しながら進む。

 この子は将来で気の利く男性No.1として、巷を超えて地球上で人気になるであろう。ここは地球ではないが。


 その時は、この子の兄代わりの存在として周りに威張ろうと思う。

 その為にも、必死にどうやって好感度を上げるか、デロバッサの一ファンは悩み尽くすのであった。


 ――なので、ミナトが人目を気にしている事を何故知っているのかはどうでも良い事なのである。



© 2021 風ビン小僧

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