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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第1章 〈龍の願い〉
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第2章5 絵本の中に現実は眠る



 地面は石のような、目が粗いレンガのようであり、通り行く人々の服装は民族を感じさせる。

 その顔は西洋風ではあるが少し違う感じもさせる、地球には存在しなかった顔立ちだ。


「あー……やっぱり綺麗だなぁ」


 ミナトは地を煌々と照らす太陽を見つめながら呟く。

 ルースを宥めた後、彼らはエレタ警備組合の外に出ていた。


 やはりこの天気、この雰囲気が良い。

 むさ苦しい男共+重苦しさより、容顔美麗のルース&キラキラな心地よさが精神的に良いのだ。


 ミナトが感動に浸っている最中、ルースが「あ、そういえば」と言って振り返る。丁度ルースと目があった。


「めろん、でしたっけ。この町には果物専門のお店があるので行ってみませんか? 私、その味知りたいです!」


 ミナトと迷宮で話した内容を思い出したルースは、自然に町案内を兼ねたリフレッシュを薦めた。

 ミナトは当然のごとくルースの提案を断らない、かつデートもできるので受け入れるのみだけだ。


 ――なのだが、それよりも少し引っかかることがあった。


「――めろん、ってなんですか?」


 聞いた事もない単語にミナトは不思議がる。


 この世界の果物の名前だろうか。

 何はともあれ試してみないことには始まらないので、早速行ってみることにしよう。楽しみだ。


 ミナトは、そう軽く考えていたのだがルースにとってはそうではなかったようだ。


「み、ミナトさん……まさか、その記――」


「――あ! ミナトく〜ん! ヤッホ〜」


 ルースの震える言葉を遮ってきたのは、少し遠くから来る、青色の髪を揺らしながら手を振るリアであった。

 ミナトは苦い顔をした。


「ちょっとちょっとミナトくん、私まだ何もしてませんよ?」


「げ」


「え?」


 ミナトは思わず声を出してしまった。

 特にリアに罪は無いのだが、どうしても彼女への苦手意識が顔を出してしまったのであった。反省反省。

 そんなこんなで、困惑しながらもルース達と合流したリア。


「それはそうと、ルースちゃんとミナトくんが元気そうで良かった〜。ルースちゃん、何の話をしていたの?」


「あ、小鳥の憩い場に行こうかなって」


「え、私も行く! 連れてって〜」


「じゃあ一緒に行こ!」


「げ」


「え?」

「こら!」


 またもや声を出してしまったミナト。

 今度は見逃してもらえなかったようで、じとっと凝視するリアに叱るルース。小さく丸まるミナトも追加だ。


 ミナトはルースと二人きりでデートできると期待したのだから仕方ない。

 だがもう19歳なのだから、こういう細かい箇所は直していきたいところである。

 

「すみませんでした……」


「うん、いいですよ! じゃあ行きましょう!」


 反省を示すミナトにルースは元気よく許す。

 それはまるで、先程感じた置いて行かれる悲しみを隠すようだった。


 一方、勝手に許されているミナトに少しリアは不服そうである。

 だが結局、何も言わずに三人は果物専門店、小鳥の憩い場 に行くことになった。


「――あ。言い忘れてました。ミナトさん、私達午後には迷宮に潜ります」


「いわゆる仕事ってやつですね〜」


「え!? そ、そうなんですか……うーん、どうしよっかな」


 大事なことを思い出し、申し訳なさそうに告げるルース。

 リアはルースと共に行動できることが嬉しいのか、微笑んでいる。


 対して、暇つぶしに何をすればいいのか困り果てたミナトは頭を掻く。

 一人ぼっちには慣れきっているが、それでもやはり少し寂しい。

 地球にはこんなに喋れる相手など存在していなかったからだ。


 悩んでいるミナトにルースは語りかける。


「でも大丈夫! ここには大図書館という場所があります。幸い目的地の近くにありますし、大きいので一目で分かります。そこにはありとあらゆる本がありますよ! ――私は行ったことありませんけど!」


「いや行ったことないんかい」


 反射的に関西弁でツッコんでしまったが、ミナトは大阪人ではない。だが笑いは起こった。

 自分には笑いのセンスがあるのかも、と思っているが、ミナトは日本ではただのコミュ障。

 今は多少マシにはなっているが、根本的にはコミュ障なのである。


 悲しい現実はさておき、やはりミナトの外見が珍しいからであろうか、周りの視線が集まっている。

 あの時の民衆はとっくに消えてしまっているようだが、これではまた、あの場面を再現してしまうことになってしまうであろう。


「ミナトくん大人気じゃないですか〜」


「冗談じゃないですよ……あいつ白竜じゃないか!? なんて言われたんですからね?」


 リアはミナトをからかうが、今回はツッコめない。

 心情的に無理だ。好奇の目に晒されるのは、案外しんどいものであった。


 ルースは周りをキョロキョロと見ると「あっ!」と声を上げて指を差す。

 リアとミナトの二人がその指の方向を見ると、そこにはデカい看板と鮮やかな服が置いてある建物があった。


「あれ服屋なのかな……? それにしても看板の字が読めねぇ……」


 ミナトがそう呟くのも無理はない。

 デカい看板に似つかわしい程に字が大きく書かれているが、全く見たこともない字なので理解不能。

 ミナトにとって、その店の宣伝効果はゼロであった。


 故に(もし怪しい店だったらどうしよう)という不安を抱いたミナト。

 だが、迷いなくその店に向かって突き進むルースとリアの背中を追うことしかできなかった。


「はーすっげえなここ」


 ふんわりとした良い匂いに包まれている店内でバカみたいになるミナト。

 見回すと、色とりどりの服が置いてあったり掛けてあったりしている。

 中には誰が着るのか分からない奇抜な服もあったが、素人目でも分かるほどオシャレな帽子もあった。


 生地を少し触ってみると、意外にもナイロンのようにツルツルしていた。

 この世界の生地は綿や羊毛しかないと思っていたミナトであったので、驚きである。

 

 ――にしても、何処にも店員がいない。


「ミナトさーん、こっちに来てくださーい」


 店員を探しているとルースの声がした。

 行ってみるとリアとルースが、彼女達が選んだであろう様々な衣服を手に取っていた。早技だ。


 そしてそのままコーディネート初体験、の前に少し確認したいことがある。


「お金は……?」


「もちろん私達が払いますよ? あっでも手に持ってるもの全部は買えないです……すみません」


「ミナトくんには世話になりましたからね〜。少しくらいはと」


 ありがたいことだ。だがしかし、罪悪感が凄まじい。

 リアは別として、ルースの善意は色々と胸にくるものだ。


 まだ会って一日も経っていない相手に手取り足取りしてくれるのがルースが人気者たる所以であろう。

 ミナトは到底敵わない。見習って欲しいものである。


 そうやってモジモジしているミナトを気遣ってなのかは不明だが、リアは着衣室にミナトを押し込んだ。


「じゃあミナトさん。これとこれと、これ、どうぞ」


「は、はい」


 カーテンの間から衣服が差し込まれると、ミナトは言われるがままに試着した。


「――いや絶対これじゃないでしょ」


 ミナトは思わず勢いよくカーテンを開ける。


 リアとルースは顔にハテナマークを付けているが、それはこっちがしたい事だ。


 頭には羽に覆われたシャンプーハットのような帽子。

 全身を包むのはワンピースになり損なったようなダボダボの紫色の布。

 つま先がゼンマイぐらい渦巻いている靴。

 それが今のミナト。


「あ! じゃあこっちかな、はいどうぞ!」


「はい」


 再度、ルースから服を渡される。

 一抹の不安を抱えながらミナトはカーテンを閉めた。


「もう店員を呼んでくれ」


 ミナトは勢いよくカーテンを開けた。

 頭には何かの頭蓋骨。今度は本物の白のワンピース。

 ほぼ裸足に近いほどペラペラなサンダル。

 それが今のミナト。


 ――二人揃って壊滅的なセンスだとは予想できなかった。


 抗議の視線を送りまくるミナトに対してリアが抗議し返す。


「体を包んでるから良いじゃないですか!」


「問題なのは包み方だよ!」


 見事に撃沈されたリアは肩を落とす。


「……これ付け加えたら可愛くなるかな?」


「そのリボンじゃ無理ですよ?」


 見事に撃沈されたルースは肩を落とす。


「いらっしゃいませー……」


 無気力な声と共にミナトの期待が高まる。 

 ようやくだ。ようやくまともな服が着れる、堂々と外で歩ける。

 目を輝かせながらミナトは声がした方向を向くと――、

 

「なんで?」


 男性店員は短パンに長袖インという、この店の中で最もダサい服装で出てきたのであった。



               ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「酷い目にあった……」


 ミナトは疲労困憊で店から出てきた。

 結局、無難に履きやすい青長ズボンと白Tみたいな服、黒髪黒目を隠せるように深いキャップを選んで買ってもらった。


 機能性重視で選んだのでオシャレかどうか分からない。

 だが、ルース達が選んだものよりも遥かにマシだ。


 後ろから二つ視線の圧がかかっているが無視無視。


「ミナトさん、すごい似合ってたのにね」


「ねー」


(どういうセンスしてたらあんな服検出するの?)


 女子二人の小声に対して心の中でツッコむミナト。

 今思えば、二回とも黒髪を隠せていない。

 どっちにしろアウトであった。ついでにあの店員のセンスもアウトだった。


「初めて自分で服を選んだなぁ、よりによってここでかよ……」


 ミナトが日本に居た時、毎日同じ見た目だった。

 狭い我が家には白Tが何枚も鎮座しており、何回も何回も着ていた。

 だからこそ、自然とこの服を選んだのかもしれない。


 そんなどこか悲しい理由はさておき、周りの目はごまかせているようだ。

 監視するかの様に見ていた民衆は、既にミナトを町の一部として見做している。


 とりあえずの課題を解決できたミナトは一安心したが、ルースが「あ」と言ったことで一気に不安になった。


「服を選んでたら時間無くなっちゃった……」


「ほんとだ。もうこんな時間」


「へー高いなー」


 ルース達は空を見上げる。

 その方向には遠くにあるが、確認できる程に巨大な時計塔があった。

 ビッグベンと比べたら、どちらの方が大きいのだろうか。

 呑気に比べているミナトであったが、段々と焦りが湧いてくる。


 独りには慣れていると思っていたが、やはりとても不安だということに気づいたミナト。

 この世界でミナトにとって二人は唯一の顔馴染み、居なくなってしまえば心細すぎる。


 どうしようかミナトが考えていると、不安が顔に出ていたのか、ルースは安心させるように告げる。

 

「大図書館まで付いて行きますよ」


「あそこにはミアも居ると思うし、多分大丈夫ですよ〜」


「え?」


 とんでもないことをさらっと言ったことに驚きだ。

 一応見知った相手がいるのは安心できるが、よりにもよってあのミアとは。

 不安に恐怖がプラスされたが、合わなければ良いだけの話。

 

 ――ミナトは絶対に会わないことを胸に誓った。



               ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「ここが大図書館……なんか大学みたいだな」


 建物の全体が茶色だったために安直な感想であるが、言い得て妙だ。

 賢そうな人間から頑固そうな人間まで、千差万別の人間達が入っていく。


「じゃあ私達はここで。終わったら迎えに来るのでそれまで待ってて下さいね!」


「いっぱい勉強してくださ〜い」


「お二人共、ありがとうございました」


 手を振って離れていくルース達に感謝と共に頭を下げながら、ある重大な失念に気付いたミナト。

 振り返り、見上げる。


「――俺、字読めねぇじゃん」


 だが決してここに来たのは無駄ではない。

 きっと、あいうえお表と同じものがあるに違いない。だって大図書館だもの。最悪、絵本で楽しむ。


 恥も外聞も捨ててやろうと意気込むミナトは、早速入口付近にポツンと置いてあった絵本を手に取った。


 こんな歳にもなって、と誰もが思うだろうが、ミナトは何故かそれに強く興味を惹かれたのだ。


 表紙にはTHE・絵本みたいなほんわかとしたタッチで、一人の男が剣を掲げているイラストが載ってある。

 字は分からないので描かれているものを見るだけだ。

 それでも、地球に存在している要素に触れることができた様な感じがして落ち着けた。


 その絵本の内容はというと、

 1〜2ページ目は、男が輝く剣を持っている姿に民衆が褒め称えているような図。

 3〜4ページ目は、同じ男が旅を続ける中で人々を助けてゆき、感謝されているような図。

 5〜6ページ目は、見るからに悪そうなやつが人を苦しめている図。

 7〜8ページ目は、民衆を背にして悪と対峙する男の図。

 9〜10ページ目は、空から無数の隕石が降りそそぐ中、男が光り輝く剣を掲げて悪と対決し、そして倒した図。

 11ページ〜12ページ目は、全員ハッピーエンド大集合みたいな感じだ。


(文字が読めればもっと面白いのになぁ……)


 見終わった後の正直な感想としては、出来が非常に良かった一方、文字が読めないのが非常に残念だ。

 早く異世界の文字を習得しなければ、と意気込むミナトの腰をちょんちょんと誰かが突く。

 はて、と思いつつ後ろを振り返ると、奇抜な衣服に身を包んだ少年が居た。


 そう、それはまるで――、


「ピエロ?」


 そう呟くのも無理はなかった。

 灰色の髪に金色の目、背は小さく小学生三年生くらい。


 そんな中性的な顔立ちで可愛らしい少年が、赤と白の水玉模様に覆われた、ふざけた衣装であったからだ。

 今日は何かとこんなのが多い。


「そのぴえろ、ってのは知らないけど多分そうだよ。それよりも、ぼくちんが描いた絵本見てくれた?」


 少年はピエロという単語の興味よりも、遥かに自作への評価が気になっていた。

 もしこの子が著者であるのなら将来が有望だ。

 ここはしっかりと褒めちぎって顔を覚えてもらおう。


 不幸なことに、いつの間にかリアの思考に似てきたミナトは膝を曲げて少年の目線に合わせる。


「ぼく、えらいね! 面白かったよ!」


 そう言ってミナトは少年の頭を撫でる。いや、撫で回した。

 少年はムスッとしながら手を払い除ける。


「ぼくちん、君より年上なんだけど」


 そういうお年頃なのだろうか。しかし可愛い。

 ミナトは払い除けられた右手を見つめながら、どうしても意地悪してみたくなってしまった。

 ミナトは少年のほっぺたを両手でふにふにしながら褒めちぎる。


「ぼく! えらいねぇ〜、最強だよ!」


「ぼふひん、ひみよりほしうえなんばへぼ!」


 またムスッとして手を払い除けるが、その手で少年を持ち上げた。

 そして人目もはばからず、一緒にその場でクルクルと回転する。


「えらいぞー、よっ世界一! 画力では天もかてねぇや!」


「ぼくちん! 君より! 年上なんだけどー!」


 ――そして結局、変装前よりも注目を集めてしまうのであった。



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