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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第1章 〈龍の願い〉
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第2章4 呪蛇は絡み付く



 美しい、きめ細かい黄金の髪を乱しながら子供のように走ってくるのはルースであった。

 ミナトの心中はというと、嬉しさ四割・恥五割。

 残りの一割は、どうやってスムーズに入ってきたのだろうという疑問だ。


「ルース様、ルース様! どうか、どうかお待ち下さい!」


 彼女の後ろから大勢の品の良い職員達が、馬鹿みたいに走ってくる。


 ――解決。いや駄目だろう流石に。


 ミナトの心中は焦り十割に変化した。


「ちょちょちょ、ルースさん! ルースさんってば、ちょっと!」


「あぁミナトさん、無事そうで安心しました!」


 とんでもない暴れ牛を、腕を開いて停止させたミナト。


 そして追いついた職員達はもれなく全員、膝に手を置きながら荒く呼吸している。なんともご苦労なことだ。


 それにしても、ルース"様"と呼ばれていた。彼女は相当高い地位にいるのだろうか。

 それともお客様、みたいに 様 を付けているだけなのか。


 しかし今は何より、何故ルースがここまで走ってきたのかを知る必要があるだろう。


「ミナトさんが心配でつい!」


 先手を打たれた。だが、なんと可愛げがあることだろうか。

 ミナトは嬉しくなった気がした。なんとも気持ち悪いものである。


 兵士達はというと、ざわめている。

 それは当然ざわめくだろうが、その話題はルースが来たという事実についてだ。

 「こいつ、ルースちゃんと仲良いのか……?」や「この子にあんな場面見せられねぇぞ」などと小声がミナトの背後から聞こえてくる。


(お? これはもしかして良い方向に向かってるのでは?)


 ミナトは期待した。


 あんなことがあったのだ、流石に疲れが出てきたような気がするので早く自由になりたい。もう嫌。


 そんなミナトを見て何かに気付いたルースは、こちらにズンズンと近寄り、今度は兵士達がオロオロし始めた。


 そしてミナトの手を掴むと、出口に向かって堂々と歩き始めた。

 あまりの急な展開に、ミナトも含めた周囲の人間達の思考が一瞬止まる。


「ち、ちょっと待ってくれよルースちゃん! そいつは連れて行けねぇよ」


 兵士の一人がようやくルースに待ったをかけた。


 現在のミナトは容疑者、廻神教という激ヤバ犯罪集団の一員として疑われているのである。

 内容が内容なだけに、そんなに好き勝手してもらっては困るのだろう。

 だがしかし、ルースは物怖じせず振り返ると――、


「――また殴ったんですね。あの人は」


 ルースが怒ったのを初めて見たミナト。

 怒っても可愛さが溢れ出しているがそれよりも、なんだか、とてつもない事を聞いた。


(え、また? またって言ったよね。え、じゃあ暴力を何回も振るってたって事? やば)


 もはや狂人だ。

 勝手に決めつけて痛めつけて、それを何度も行なったのであれば、異常の極みと言えるだろう。

 それを黙認している組織がこの世に存在していることにミナトは恐怖する、気がした。


 兵士達はたじろぎ、職員達もだんまりだ。

 ルースは改めて出口へ向かう。そんな時、またも声がした。


「――ルース様」


 美男だ。クソが。今更何をしようというのか。

 また理屈でルースを捻り潰そうとしているのなら、一部始終を外に居る民衆にちくってやる。


 そう決心したミナトは身構えるが、美男がとった行動は意外であった。


「申し訳ありませんでした」


 ――深く頭を下げたのだ。


 思わず呆気にとられ、まじまじと観察するミナトに対し、ルースは一瞥した後に直ぐ歩き始めた。


(ん? 色々と分からんぞ? どういうこと?)


 最初の態度と今の態度が180°違う。

 あれ程に高圧的だった彼が、今や恥や外聞も捨てて頭を下げている。

 あまりの変化に、ミナトの頭の中ではクエスチョンマークが大量生産されている。


 職員達の塊はルース達を避けるように散り、今度こそ、ルースの行動を止める者は現れなかったのであった。


(なんかよく分かんないけど、結果オーライでよし!)


 ミナトはただ一人、心の中でガッツポーズをしていた。

 やはり自分にはルースしかいないと再認識したミナトは、彼女にこっそり感謝する。


 ――今回も助けられた。


 ルースが猪突猛進でこの建物に侵入し、ミナトの手を引いた。

 尚且つ、ミナトの為なのかは不明だが、きちんと怒ってくれた。

 あれが決定打になって、狂人の追求から逃れられたのだ。ありがたい。


 それにしても、ルースは人気者であるようだ。

 あんなに堅物だった兵士達が、ちゃん付けで彼女の名前を呼んでいたし、彼女について慮っていた。

 まぁ、彼女の性格と外見を知れば誰でもファンになるが。

 ミナトもぞっこんである。気持ちが悪い。


「ミナトさん……ごめんなさい、あの人の所へ連れて行かれるなんて想像していませんでした」


 そんな中、ルースはミナトに謝る。

 おそらく、彼女はミナトが連れて行かれた時のことを悔いているのであろう。が、何も悪くない。


 ルースは前を向いている為、その顔を見ることはできないが、きっと沈痛な表情をしているに違いない。

 ミナトは少しでも彼女の後悔が晴れればいいなと、あの人について聞くことにした。


「あの人、ってどういう……立ち位置にいるんですか?」


 あの巨大筋肉男。

 初対面の時はいかにもトップという雰囲気を醸し出していた。

 実際、あんなに屈強で誰にも屈さないような兵士達もビビり散らかしていたので、強さも地位もそれなりにあるのであろう。

 ルースは「そうですね」と前置きしてから話し始めた。


「あの人はカイベト・ドルさん。昔、私もお世話になっていました」


「え。あんな奴にですか?」


 言ってから自分の失言に気づいたが、もう遅い。

 しかし、ルースも多少なりともミナトの気持ちと合致していた部分もあるのだろうか。


 何も言わず、愛想笑いだけをして話を続ける。


「エレタ迷宮管理協会とエレタ警備組合、それぞれの組織で一番偉い人です」


「え! さ、最高責任者とか会頭ってことですか……!? あれが? あれがですか……!?」


 またもや、言ってから自分の失言に気づいた。

 二度ある事は三度ある。次も同じ失敗をするに違いない。


 静かに肩を落とすミナトに対して、ルースは悲しそうに告げる。


「初めて会った時も怖かったけど、あんな酷いことはしなかったんです……最近から、何かおかしくなってて」


「そうなんですね…… 確かに、完全に無根だったもんなぁ、事実」


 きっとあの男も何か人に言えぬ事情を抱えているのであろう。

 哀れむと同時に、アイツが最高責任者のままでいいのかという心配も湧き上がった。

 今後、しつこく付き纏われないことを切に祈るミナトであった。


 ルースのテンションは相変わらず低いままだ。というかミナトが振った話題のせいでもある。


 こういう時にコミュ力の程度が試されるのだが、生憎、ミナトには無い。全く無い。


 なんだかもう訳が分からなくなってしまった。

 哲学みたいなことを聞き、深く考えさせ、そっちに意識を集中させて何もかもを忘れさせてしまおう。

 こういう安易な考えの元、適当に質問することにしたミナト。


「あの……えっと、ルースさんにとって人間って、なんですか?」


 酷い。自分の頭を抱えたくなる程に適当すぎる質問だった。

 

 だが意外にも、あまりに変だったのか、ルースはクスクスと笑ってくれた。

 空気が柔らかくなっていくのを感じながら、彼女は答えてくれた。


「難しいことは分かんないですけど、お腹いっぱいになったら幸せを感じられるのは、いいとこですよねー」


 なんとも彼女らしい可愛げのある回答だ。ほんわかする。

 

 ちょっとお馬鹿っぽいところがたまらなく好きなミナト。


「――あ! 今、私のことちょっと馬鹿にしましたよね! 顔に全部出てますよ! こら!」


 なんとなく振り返ったルースはミナトの顔を見て、プリプリと怒る。

 思っていたことが全てミナトの顔に出ていたようだ。

 記憶が一部無くなったとはいえ、その部分は全く変わっていないようであった。



               ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「クソッ……まただ。また抑えられなかった」


 誰もいない窓掛けを閉めきった部屋の中で、冷や汗と共に後悔を述べるのは カイベト・ドル。


 部下に止められていなければ、本当にあのままミナトを殺していただろう。

 残された時間が限られていることを、誰よりも深く理解している彼は次の手を打つ。いや、打たねばならぬのだ。

 

「アイツをこの手で殺すまでは、死ねない。退く気もない」


 木で出来た事務机に足早で向かったカイベト。

 机の上に固定されている、通信用の特殊な電話型の魔導機を荒々しく手に取った。


 数秒後に相手と繋がると早速、あれこれと指示した。

 相手が軽く了諾した後に一方的に切ると、やけに座り心地の良い椅子にもたれかかるように座る。


 その羽毛の心地よさを感じながら、もう一つ、机の上に置いている小さな写真立てを優しく手に取った。


「クロー……いつか、いつか必ずお前の仇を取ってやるからな」


 写真を見つめながら力強く、静かに宣言する。


 ――だが同時に、不安と恐怖を握り潰す様に胸を押さえたのだ。




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