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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第1章 〈龍の願い〉
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第2章3 人生初尋問? 半拷問?



 黄土色に近い色の石造りの建物で、目の前にそびえ立っているからであろうか。

 とても巨大な岩が地面から突き出し、奥から吹いてくる風をせき止めているような感覚がする。

 威圧感が凄まじく、厳粛な雰囲気だ。


「すげぇ……美がすごい」


 思わず声を漏らすミナト。

 もし地球にこの建物があれば、世界遺産登録が決定していたことだろう。

 にしても、美がすごいとは何なのか。全員聞いていなかったので真意は闇に葬られてしまったが。


 周りの視線はというと、ミナトと周りの兵士に向いている最中だ。

 子供から老人、中には「なんだ? 逮捕か?」や「物騒だな」という声があったが――、

 

「――おいあれ! あいつ、噂の"白竜"じゃねえか……!?」


 誰が言ったのか、人数が多すぎて判別できなかったが男の声だった。

 ミナトは頭にハテナを浮かべた。白竜、とは何であろうか。

 思い出そうとしたが、ミナトの記憶には既に存在していないのである。


 周りの視線が好奇から恐怖に変わっていく。

 母親は自分の子供を抱いてその場から立ち去った。

 到底売れなさそうな物品を必死に販売している中年の男も、思わず陳列棚から身を乗り出してミナトの姿を拝もうとする。


 そういった人々が増えていき、軽い騒ぎになってしまった。


(うわぁ……人多いなぁ、俺を誰と間違えてんだろう? 見る限りだと、あまり評判が良くない奴と勘違いしてるような)

  

 もしかして、あの残酷非道な廻神教の関係者だと民衆に間違われているのか。

 その可能性があることにミナトは頭を抱えた。

 身寄りも学もないミナトがこれから生きていく上で、風評被害などは致命的。

 ミナトにとって、まだこの兵士達や美男に勘違いされるのは良いが、これから関係を持つかもしれない人達に勘違いされるのだけは嫌なのだ。

 

(もう、ルースさんしかいねぇな……)


 これからも彼女に頼っていこうと決心したミナトに、興味を惹かれ始めた民衆は近寄りだす。

 しかし既にミナト達は階段を上りきる手前まで進み、玄関までの距離が短くなっているので、群がられる前に入れるであろう。

 だが、一人の少女だけは違う。血相を変えて民衆の波を掻き分けてミナトに迫る。


「君っ! 止まりなさい!」


 ミナトに黙れと怒鳴った髭面兵士が、こちらに走ってくる少女を発見して立ちはだかった。

 ミナト以外の人間は更なる展開を期待、もしくは杞憂してどよめく。

 その兵士は体で少女を受け止め、ミナトからなるべく遠ざけようとするが、その少女は構わず叫ぶ。


「私の兄を知りませんか!? お願いします! 探しているんです! あなたもっ…あの迷宮にいたんでしょう!? お願いします! お願いっ……!」


 少女は茶髪だった。


「――いい加減にしなさい! その話なら私達ではなくエレタ迷宮管理協会に行きなさい!」


 兵士が止めている間に建物から別の、といってもその兵士と比べて小柄だが、出てきて少女を奥に引き離していく。

 少女は最後までミナトに叫んで抵抗するも無意味だった。


「行方不明者の妹、ですか。一体どこから情報が漏れたのか……」


 美男は呟く。

 現在、ミナトがあの場所に居たことは怪我をした探検者以外知らないはず。

 ということはその内の誰かが喋ってしまったのだろうか。随分と内密な話が好きな者がいるものだと溜息をついた美男。


(うーん……兄、か。血が繋がってるなら茶髪なんだろうけど、そんな人、見かけたっけなぁ)


 ミナトは欠損した記憶をなんとなく漁るが、誰にも照合しなかった。

 そんなことよりも、これから自分はここで何をされるのかが心配だ。拷問、とかではなければ良いが。

 不安になりながらもミナト達は、建物内部に居る職員が玄関の扉を開け、入る。


「これまた、凄いな……」


 外観とはまた違った美しさだった。

 純白の材木、水晶の女神像、黄金のシャンデリア、そして気品溢れた青い衣服の職員達。ザ・最高級ビルディング。


(なんだかこんな格好で恥ずかしいな……服、服が欲しい……)


 急に自分のジーパン姿がみすぼらしく思えてきたミナトは、ようやく周りの視線を気にし始めた。

 だが、美男は構わずにガンガン進む。どうか早く着いておくれ。


(ていうか、なんとか警備かんたらって言ってたのにヒョロヒョロの奴ばっかしだな。いやまぁ、俺もだけれども)


 警備、というからには屈強でハゲ頭の男、横にいる奴のような人物像を思い浮かべていた。

 なのだが、そういう人物はどこを見回しても存在しない。


 まぁ、ルースのように華奢な体に見えて常識外れの強さを持つのが、この世界の住人の特徴であるのかもしれないが。


(ん? なんだあれ? 肖像画か?)


 ミナトの目に入ったのは白の壁に飾られた5枚の肖像画。

 左から男、女、男、女、男だ。


 なんだかリズムがいいし、その絵から強そうなオーラが出ている。

 しかし、左から二番目の女性の態度が悪すぎる。

 タバコ吸ってるし、正面を向いてすらいない。

 それに金髪だし耳に見たことないピアスもしてるし、確実にヤンキーだ。


 この世界にもヤンキーがいることに謎の安心感と恐怖を覚えつつ、もし可能なら会うことがないように祈るミナトであった。


(ていうか、なげぇ。どこまで連れて行かれるんだよ)


 流石にミナトも疲れてきた。

 景色を楽しめるといっても、それは最初の数分間だけ。


 数十分経った今、苦痛に変わってきている。

 さっさと終わらして、さっさと解放して欲しいと思っているから、というのもあるだろう。

 また階段。廊下。また階段。


「やっとかよ……」


 ボソリと愚痴を零したミナトは、今までのとは違う両面扉の前に立たされていた。重厚感+豪華な両面扉だ。


 校長室を思い出し、なんだか緊張してきたミナト。

 だが構わず、扉をノックする美男と全身に力が入っている兵士達に連れ添いながら中に入る。

 

「――君が例の少年か」


 艶が出ているテーブルの上に、組んだ手を置いてミナトに喋りかけた中年の男。

 その外見はゴリラみたいな体格で、品のある深緑色の服を着ている。

 言うなれば、ゲームに登場してくる指揮官役のキャラだろうか。


 ついでに顔には大きな傷や細かい傷が古く刻み込まれており、刃のようにキツイ目つきもしている。

 故にミナトはビビリ縮み上がり、うんともすんとも言えなくなってしまった。


 結果、ミナトは無視したということになってしまい、周りの目が一層厳しくなった気がする。

 とは言っても美男達もビビリ縮み上がっている様な気がするので、おあいこ という事にしておこう。


「座りなさい」


 ミナトは言われた通りに目の前にあるソファーに座った。


 部屋の内部をじっくり観察する余裕などない。そんなことすれば死んでしまうような気がしたからだ。

 じっと、お行儀よく膝の上に手を乗せて相手の話を待つミナト。


「君は、廻神教(かいしんきょう)を知っているな?」


「は、はい……先程、あの、そこの方から聞きました」


「――そうか」


 酷く冷たい声色だった。そして――、


「――っ!?」


 突然、ソファーの布を突き破ってミナトの全身を拘束した。

 何事かと自分の動きを押さえ止める物体を見ると、それは岩だった。

 だがその形は、まるで粘土の柔軟さを感じさせる。


 ミナトは何とか動こうとしたが、脚も手も、首ですらピクリとも動かせない。

 必死で滑稽なミナトを眺めながら、ゆっくりと席を立つ中年の男。


「お前は誰だ? 何故あの迷宮に居た? 侵入方法は?」


 その男は、先程とは打って変わって酷く暴力的だ。

 動けないミナトを横から蹴り飛ばして床に転がす。

 そして矢継ぎ早に質問すると、ミナトの頭を前から踏みつける。


 ミナトは自分の鼓動が速くなっている感覚を覚えながら、次の展開を考えていた。


(やばい殺されるどうしよ、ここで正直に話すか? だけど信じてくれるか分かんないし内容次第で殺されるかもしれない)


 こんな状況だ。

 何が正解なのかを明確にしながら返答していかないと、自分の首は確実に飛ぶだろう。


 ここに居る誰もがビビってミナトを助けようとはしない。孤立無援だ。


 ミナトの考量の時間を沈黙と捉えたのか、中年の男は右腕をパッと伸ばす。

 すると、ミナトの身長と同じくらいの大剣が吹っ飛んできた。

 そのまま柄を掴むと、ミナトの頬にヒタリとあてがう。


「答えろ。――時間は無いぞ」


 殺意を剥き出しにしながら、刃先に力を込め始める。


 ――ついに、ミナトは決心した。


「――僕は異世界から来たんです! 日本というとこから来ました! 気付いたらその迷宮とかいう場所に迷い込んでいたんです俺は何も知らない!」


 ミナトは途中、声を裏返しながらでも叫んだ。

 

 自分は決して、そのカイシンキョウというものと関係を持ってはいないことをアピールする。

 顔を踏んづけられているため、相手の顔は見えない。


 ――だが、それでも、相手の憤激の糸を千切ってしまったことだけは理解した。


「ふざけるなよ、――小僧っ!!」


 ミナトは岩に包まれた腹を思いっきり蹴られた。

 そのまま兵士達を横切り、両面扉の方向に吹っ飛んで天井に近い壁に激突し、跳ね返って落下した。


 痛みはない代わりに、何故という思いがミナトの頭から溢れ出る。

 そして容赦無く迫りくる巨男。

 そして以外にも、その巨男を止めようとしたのは美男であった。


「お待ち下さいドル様! 流石にこれ以上はっ……」


 巨男の視線を遮る為に目の前に立つ美男。

 彼は焦っているようだ。


 この後の対応、そして何よりもミナトが死んでしまっては取り返しのつかない事態へと陥ってしまう。

 それだけは回避せねばと、己の恐怖心を抑え込みながら進言した。だが――、


「黙れっ! あの餓鬼は何かを知っている、その何かを聞き出すまで続けるまでだ」


「あくまで可能性の話、殺してしまってはその可能性ごと掻き消えてしまいます!」


 震えを抑えながら渡り合う美男。


 その努力が身を結んだのか、徐々に中年の男の頭が冷えていく。

 ミナトは(なんとかなった)と顔には決して出さず、心の中だけで安堵しながら展開を見守る。


 空気は先程とは打って変わり、とはいっても未だピリついてはいるが、息がスムーズにできるぐらいには軽くなった。


 中年の男は手に持っている大剣を床に叩き刺すと、短く悪態をついて部屋から退出した。

 おそらく、ついカッとなってしまった頭を冷やしに行ったのであろう。

 同時にミナトを拘束していた岩は溶けて無くなってしまった。


 驚くべき性質だとミナトがまじまじと見ていると、視界の端から手が伸びてくる。

 何事かと手を差し出してきた人物の顔を見ると、意外にもあの美男だった。


「手を」


「あ、あぁはい」


 なかなか自分の手を掴まないミナトに痺れを切らしたのか、急かすように短く言った。

 ミナトは少し申し訳ないと思いつつ手を取ると、荒々しく立ち上がらせられた。


 やはり、こいつへの評価は変えない方針でいこうと決心するミナト。先程の申し訳なさも没収だ。


「酷い目にあった……」


「――――」


 ミナトが愚痴を零すと、美男は黙り込む。

 どう口止めしようか迷っているのであろうか。


 ミナトにとってはどうでも良い事であるし、誰かに言いふらすつもりもない。

 だが、この男がどう行動するのか気になるので、あえて何も言わない。

 まぁ、土下座をされても困り果ててしまうだけだが。


 最終的に何をすれば良いのか分からなくなってしまったミナトは、アタフタモードへ突入した。


 それに対して美男は――、


「君達、その少年を待機部屋に連れて行きなさい」


(絶対謝らねぇつもりだなこいつ)


 美男は何事もなかったかのように兵士達に指示した。

 謝ればこちらの非を認めることになる、と考えたのだろう。


 いや、見てる限りただ単純に謝りたくないように思えてきた。言いふらしてやろうか。


 ミナトがそう思っている内にも、別の部屋に連れていかれている。

 入った途端に別の奴がまた襲ってきたら嫌だなぁと考えていると、背後からドタドタと走ってくる音が近づいてきた。


「ミナトさああぁーーんっ!!!」


「ル、ルースさん……」


 デジャブ、共感性羞恥。

 この世界でもそれらに出会えたことに妙な安心感を覚えつつ、ミナトは自分の顔を手で覆ったのであった。



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