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ダンジョン・イン・アナザーワールド  作者: 風ビンくん
第1章 〈龍の願い〉
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プロローグ 異端者の行進



 ――全てが、憎かった。


「ハは はは ぁ  あはは  ハ  」


 呪われたこの体と、その中で眠る片割れの事も。


「 はァッ  ハッ   はは ハ  

                 ハぁッ  はハハ ハ                   はハ       は    」


 だから死のうとした。けど出来なかった。

 常に邪魔されて邪魔されて邪魔された挙句、積み上げてきた何もかもが無駄になった。


「ーーあぁ、見えるかァ? クソも垂れねぇゴミカス。これがテメェの望む世界そのものだァあハ  ハ  は」


 塔のてっぺんに着地した後、自分の口が勝手に開く。

 そして、眼球から伝わるその世界というものは輝かしい平和などではなく、吐き気を催す程の地獄であった。


 夜空を煌々と照らす大火に包まれた都市、腹の底まで響き渡る絶叫。

 城壁の外では数多の巨人が兵士達を踏み潰し、内側では白い怪物の集団が子供達を噛み漁っている。


 ――こんな、こんな惨劇を自ら望んだというのか。


          あり得ない。


 いやあり得ない。あり得ない。あり得ないあり得ないあり得ないえない

 あり得なあり得ないあり       な

    ありえない      得なあり得な

 なあり得なありえな


「――最後だ。最後にもう一回だけ言ってやるよ。他人を不幸にしか出来ねぇミジカス。5分間。5分間、この体の完全な主導権を渡せ。そうすりゃ、俺がさっさと終わらせてやるよ」


 そこで自分の声だとは思えない程の邪悪な嗤い声が夜空に響き渡った。

 聞き馴染みのない音によって、縮こまった鼓膜が一気に広がり、外野の喧噪が頭を突き抜けていく。

 

 ――分かっている。全て僕の責任だ。


 片割れの凶暴性にかこつけて、あらゆる責任から逃げ続けていたのは僕だ。

 この弱い心が折れるのが嫌で嫌で、目を逸らしていたツケが今この状況を作り出している。

 結果、皆が傷付き痛め付けられ、自分にとって大切な人達が意味もなく喰い殺された。


 価値の無い臆病さで人が死ぬ。


 このまま何も出来ず失うのみならば、もういっそ――、


「ひヒ ヒ  ッ 」


 ――奪う痛みを、壊す罪悪感を、せめてこの手の中だけで。


「――それで良い」


 瓦礫が崩れる音 肉が裂かれる音 女子供の泣き叫ぶ声

 鼻腔の奥まで痺れる火災臭 


 チカチカと光る火 柱 



 閃光 のような   魔法の軌跡

                  空に  舞い



  全てが  鈍く、遠のいて ゆ   

                       く



「――――」


 突如、糸が切れたかの様にダランと頭と腕が垂れ下がった。


 その隙を狙い、怪物が塔の根元から何匹も何匹も高速で壁を這ってくる。

 暴食表す大口を開き、唾を撒き散らしながら奇声を発して這い寄ってくる。


 ――既に塔を覆い尽くす程の大群。

 そして遂に その内の一匹が無数の牙を覗かせ、丸ごと飲み込まんとした その時――、


「 ィぃい ぃ いイぃ    イ   ィッいイぃ

            いイ

   い                イい

リ リ り リり りィ アァあ ア  あァ   あア 

イ        ぃいイ ぃア  ァア

  あ   ッ  ッリ    ッ リ  りぃ   リ

            あ

 ア     !!       ア      ぃいィ

       イ   !      あ     

    あ          あ     ア   アぁ

   ブ チ 殺しッてやるよ   

               墓 ァ 崩しィい

      イ              いいィ いイ   イ い い イい    ッ

     イ              リィ  リ

             いッ ッッ!!  

  !      !              !!

                      !

                           」


 ――瞬間、怪物の顎が ごりんと 斜めに引き裂かれる。


 そして流れる様に手を組んで振り下ろすと、土煙と共に塔が一気に上から崩壊した。

 伴って薄汚れた血潮が噴き上がり、この夜空を紅く染めていく。


 地の底にまで響き渡る、酷く暴力的な轟音。

 たった今、怒り 悦び 衝動 その全てが一時の理性から解き放たれたのだ。


「――召喚 爆灯鼠 × 1億ッ ! !!」


 ばっと広げた両手から黒鼠がボゴボゴと勢い良く溢れ出し、天を覆い尽くしてゆく。

 友情、愛情、知識。そんなものは必要ない。ただ無秩序な暴力を振るえれば良い。


 ただ殺す。そこに それ以上も以下もない悦びがある。


「ハ ヒゃ  は は   はッ ッ!! !  あぁ楽しいなぁッ 

      面 白ぇなァッ ッッ!! !  !!



 ――さァ 最期まで殺し合おうぜ 今度こそな」



 瞬間、狂気を孕んだ目の中に更に瞳が、まるで大きな気泡を潰した時の様に爆発的に増えていく。

 そして生存本能とは真逆のシステムに支配されたその短躯らと共に、真っ直ぐ瓦礫の山を突っ切っていった。

 

 ――ただ、グチャグチャに暴れ回る為に。



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