96話:サブローの回想
<サブロー>
わけがわからない。
なんでこんなことに。
目の前にいるのは夜行性の肉食獣ヴェロキラプトル、そして自分の腕や足も同じということは俺も・・・。
中生代・白亜紀後期に転生?それとも魂だけ転移?
あれ?俺って、何?どういう存在??
いまいち同族(?)と意思の疎通ができない。
ただ肉を食いたがっていることは、わかる。
肉食なのに、どうして手に入らない?
・・・あ 〜、そういうこと。この世界では、俺たちが底辺、最弱なんだ。
武器はこの足の爪くらいか。
同族は、萎びた鳥のような顔をしているけれど、痩せてるということかな。
孤独だ。
ある日、美味しそうな匂いがした。
だから、昼間だというのにひょっこり隠れ家から出てしまった。
ケモミミのある赤ん坊が宙に浮いている、下半身丸出しの・・。
あ、そうだ!俺は、、、人間だった。
この赤子の親がそばにいるのか。
着ているものから見て、原始人じゃない。文明があるんだ。
でも、オムツというものはないのかな。
この状態が当たり前の世界なのか?赤ん坊のうちは、下半身に何も身に着けないのか?
側には、誰もいなさそうだ。
近寄ってみよう。
あ、よかった。怖がられていない。
な、何か話さないと・・「ケケケケケ。」ああ、この声しか出ない。
え、赤ん坊の片眉が上がった。
あ、あ~、消滅させてしまった。
な、なんかもの凄く腹が立って怒りが突き抜けちゃった、みたいな・・?
・・・え、誰?親か?やばい!
はあ、はあ。びっくりした。この体って結構速度出るね。おそらく競走馬並みだ。
消すくらいなら、食えばよかった。
せっかくの肉が・・・。
腹が減った。
風呂に入りたい。屋根のあるところで布団で寝たい。
夜になった。この世界を知ろうと思い、森から出て歩いてみた。
そして、愕然とした。
・・・もしかして、ここ、箱庭?
誰かが作った狭小な世界に入れられたのか??
出せ!出してくれ!!
ある晩、スライムに捕まった。
溶かされると思ったら、桃をくれた。
それを食べたら、頭の靄が少し晴れた。
スライムから念話が来て、眷属になるなら衣食住を保証してくれると言う。
なる、なるから、風呂に入りたい、ふかふかの布団で寝たい、と必死に訴えた。
そして、箱庭から出られたと思ったら、また箱庭だった。
でも、人間に戻れた。
鏡で自分の姿を見た。これが元の姿か確信は持てないけれど、違和感はない。
そのあと、貪り喰われた・・。
ここの箱庭で、誰かの記憶を見た。
わかる。この記憶を持っていた誰かは俺の同郷だ。
まだ思い出せないことは多いけれど、もういいんだ。
風呂に入れるし、布団で眠れるから。
ヴェロキラプトルには戻りたくないけれどね。
ジンに・・、一族のトップに命令されてもこれだけは、きけない。
人間に戻れなかったらと思うと、恐ろしい。
そして、現在、歌って踊るスラ忍たちを見ている。
絶妙だ!
手裏剣、クナイ、忍術。
本物の忍者は見たことないけれど、忍者であってるんじゃないか?
衣装は自前らしいけれど、作詞・作曲、振付、武器は全部ジン作なんだよね。
トンファーかあ、あ、ジンも使えるんだ。
なら俺も使えるかな。
ヌンチャク捌き、すげえ!! 「あちょー。」って。
いや、それ、忍者じゃない。
・・・スラ忍すげえ。本当に忍者が好きなんだな。
好きこそ物の上手なれ、か。
素直に心から称賛できる。子供達に人気だなあ。
俺も手裏剣ほしい。ジンに頼めば作ってもらえるかな。
俺は、なんの仕事ができるかなあ。
突出した眷属たちが多すぎて、足りない人材などいないかもしれない。
これ以上、戦闘要員は不要だろうし。
あ、色々デザートが出てきた。
食いに行こう。
ワラワラ集まってきたな。
周りを見ていると、自分と同じ何だなと思った。
美味しいものは心を豊かにしてくれる。
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「話がある。」
「王国のギルマスじゃあないの。(なるほど、ギルマスの友人はギルマスか。)
収納尻尾の話でしょう?」
「は?」
「違うの?」
ジンフィーリアは、収納魔具の件を先日帝都のギルマスと話して、今日了承をもらった話をした。
「あんのやろう、俺にも教えろっつうの!・・・あ、おい!この野郎!話がある!!」
(あ、行っちゃった。
ギルマス同士仲が良いのね。)
「ねえ、ラース。あなた、自分がどういう種族か知ってる?」
「知らん。」
「ええ〜。」
「ジンだって、生まれた時から自分が人間と知っていたか?周りから言われてそう認識したんだろ?」
「おっしゃる通りです、ラース先生。(目が視えなかったし。)」
「わかればいい。」
「あ。」「あ、ゾンビ報酬の・・。」
「さ、猿?」
「姫に猿とは無礼っすね〜。」
「私は、何と言われても平気よ。ラースに言ったんだったら許さないけど。」
(うはっ、威圧感パネエっす。))
「ラースに言ったんすかぁ?」
「「 ・・・。」」
(ど、どうしよう。)(どう答えるのが正解なんだ?)
「ふーん?・・姫ちゃまに言ったん?」
コク
(え、自分何頷いて・・。)
「ならいいわ。蛇の蒲焼きは どうでした?」
「お、美味しかったです。」
「それは、なにより。大したおもてなしはできませんが、どうぞごゆるりとお過ごしください。」
ジンフィーリアは、消えた。
「っ!」「!」
「ケイン、おまえが余計なことを言うから、何も話せず・・。」
「ご、ごめん。つい本音が。でも、うまく収まったと・・・。」
「はあ・・・。」
(威圧は、個人攻撃ができるから便利だよなあ。周りから見たらなにこいつびびっとん?となるっちゅうわけよ。)
「ヴィオ〜。ミルク飲みましょう。」
ヴィオはすぐさまジンフィーリアの元へきた。
「・・・んく、んく。」
「おいしい?・・そういえば、ラースはメエとモウ、どっちのミルクが好きだったの?」
「(グフォッ・・。)こ、甲乙つけ難い。」
「さすがね、あの2人。」
双子「姫さま、兄ちゃんが呼んでる〜。
ジン「そう。・・二人ともワンピースがよく似合ってるわ。テックの見立ては流石ね。
双子「エヘヘ。収納にデザートいっぱい詰めた。王子も兄ちゃんに入れろ!って言ってたよ。
ジン「まあ、二人とも賢いわね。あまるなら劣化する前に収納しないとね。もったいないわ。
(王子のせこい言動は聞かなかったことにするわ。)
双子「でしょう、へへん。兄ちゃんは、こっちだよ〜。
双子たちがジンフィーリアの手を引いた。
双子「兄ちゃん、連れてきたよ〜。
ジン「はい、連れてこられました。
アーフィン「あー、すまない、呼んだのは・・
アベル「あの、兄の遺品を届けてくださってありがとうございました。
ワインのお気遣いも嬉しかったです。料理もどれも美味しくて。
ジン「わざわざありがとうございます。
アベル「それと、その、見舞金もあんなにいただいてしまって・・。
ウィル「僕も、感謝しています。あの、母がよろしくと・・。
ジンは、二人ににっこり微笑んだ。
「「っ!」」
立ち上がっていた二人は、湧き上がった感情を誤魔化すように、座った。
ジン「あら、金じゃないの。あれからすぐ解雇されたの?
((ブフォ・・!)) (まだ、『金』呼びは続くのか・・・。)
金「・・そうです。侯爵本人は、結局来ませんでしたけどね。
ジン「・・帰りは、私が皆さんを送りましょう。王都のスラムに用があるので。では、これで。
(((スラム?)))
(剣聖と聖騎士もいたわね。陣営に取り込めたのかしら。)




