07話:王都へ
居間へ行くと、皆集まったままだった。
「お、おじょ『ジンは大丈夫だ。何も問題ない。』
取り残されていた一同は、ジンフィーリアと楓を交互に見ている。
『皆、今までのことに色々疑問があるだろうが、適当に想像してくれると助かる。そしてこれからのこともな。』
「「「えええ〜」」」
「一を聞いて十を知るってやつですね。」
(いや、なんか違わないか。まあ、自分筆頭に眷属たちも面倒くさがりだからな。繋がっている我らは、阿吽の呼吸でやれるし。時々暴走する者もいるが私に良かれと思っての行動だから叱るのはなぁ。。。)
『どうしてもということなら、個別に質問してくれ。(答えるかはわからんがな。)』
『紹介する、眷属の一人楓だ。』
「メープルと呼んでください。」
「「え、かえで「メ・ー・プ・ル・です。」
(楓は姫さまが名付けた。認めていないものには呼ばせたくないんだな。) (注 : ジルバ心の声)
「私は万能従者です。一族たちからも一目置かれている存在です♪よろしくお願いします。
一応お伝えしておきますが、私の一番は姫さまです。侯爵も王族も教会もどうでもよいです。」
ロイドが渋い顔をした。
ミリアは心強い味方が増えたと喜んだ。
『で、王都行きの件だが、別荘メンバーからは護衛二人のみの同行とする。』
「え、いやです!私もお嬢様について行きます。」
『ミリアはここに残ってくれ、ジンの決断だ。』
ジンフィーリアはミリアに向かって意思表示する。
ミリアは、納得できなかった。
しかし、ギルに言われて渋々引き下がった。
王都で拘束される可能性がある以上、少人数で行動する方がよい。
闘えないミリアの存在が負担になることは理解できた。
だが、色々と本当に色々と、別荘メンバーは納得できなかった。
* * *
王都へ向かう日となった。
居残りメンバーに挨拶を済ませ出発した。
御者はイーグだ。
馬車の中で、皆ゆったりと過ごしていた。
「それにしても、この馬車は色々と凄いな。しかもメープルの個人持ち物とは。」
「ふふふ、至高の方の作品ですから当然です。」
馬車の中は、外観からは想像できない広さだった。
キッチンも寝台もある。
そして、ほぼ揺れない。
馬車自体が時空魔道具なのだろうと予想される。
ラースはジンフィーリアに抱っこされてミルクを飲んでいる。
そんなラースをジンフィーリアは慈愛の表情で見つめている。
飲み終わると立て抱きにされ、背中をトントンと叩かれている。
「げっふうぅ。」と太いおっさんのようなゲップが聞こえる。
ジンフィーリアは口元を拭ってやり、頰に愛おしそうにキスをした。
【護衛長:ギル視点】
お嬢様に愛されて、ラースは幸せだ。間違いなく。
顔が真っ黒で、目がまん丸な黄緑色で表情筋があるのか?と思ってしまうほど無表情だ。
美少女とゲテモノの図。異様な光景だ。
「メエかモウがいてくれると楽なんですが。」と楓。
『時が来たら呼べばよい。』
とても気になるが敢えて質問はしない。
王都までは、全て侯爵家に指定された宿に泊まった。
魔物や盗賊にも遭遇せず、気味が悪いほど順調だった。
宿に着くと、お嬢様は部屋に入り出発までそこから出ることはない。食事も部屋に運ばれる。
食堂には交代で私とイーグが行く。それにメープルも参加する。
一応、他の宿泊客等を警戒するためだ。
どこにでも空気の読めないアホ勇者というものはいるもので、どの宿でもメープルに絡んでくる。
男好きのする(若いのに妖艶さも持ち合わせている)美女なメープルは、勇者の心をバッサリと切る。
翌朝の出発時に絡んできた者は、ラースをけしかけられ、恐慌状態に陥る。
それを虎兄弟とメープルが愉快そうに見ている。
【護衛:イーグ視点】
夕方王都の侯爵指定宿に着いた。高級宿だ。
2階の部屋に案内された。
翌朝、侯爵たちの訪問があった。
侯爵はお嬢様を見て一瞬動揺したがすぐに平静さを取り戻した。
従者は惚けていたが侯爵に促されてハッとし、お嬢様に向かって、
「明日の昼2時に予約を入れてあります。私が同行いたしますのでご安心ください。明日30分前にお迎えにあがります。こちらも護衛を連れてきますのでお嬢様側の護衛は一人でお願い致します。」と言った。
ギルが何か言おうとしたのをお嬢様が手で止め、従者に向かって頷いた。
侯爵たちは、帰っていった。
侯爵は綺麗な顔をしている、さすが貴族といったところか。
そして、守護獣とラースの存在は見事に無視していた。
だがお嬢様にも一言も話しかけなかった。
『どうせクソムカつく事しか言わないので、無言でよかったんだよ。』とジルバ。
(メープルが激昂したらその余波で宿が潰れるわ、魔力測定前に面倒ごとは起きないに越したことはない。)
『人間観察でもしに行くか。』とのゴウルの言葉で皆立ち上がり階下へ降りた。
すると、女将が足早にそばに来て「外出はお控えください、旦那様のご指示です。」と言った。
しばらく無言で睨み合っていたが私たちは部屋に戻った。
メープルがお嬢様と見つめ合い、その後部屋の2階の窓から外に飛び出た。
「お、おいっ。」慌てたのは私とギルだけでお嬢様たちは涼しい顔をしていた。
外出を止められるのはもちろん想定内だったが、強行したらきっと強面の奴らに止められたんだろうな。
あいつらすぐに動けるようにしていたからな。
ロイドからお嬢様は侯爵の知人の娘としか聞かされていないし、詮索するなとの無言の圧力もあった。
ただの知人、というわけではないな。
お嬢様が別荘に来た日、別荘番の夫婦は、お嬢様を見て涙ぐんでいたから訳知り。
ロイドとミリアはもちろんのこと。