73話:ベン一家、好転す(その2)
<ベン邸のメイド>
旦那様・奥様・お嬢様の部屋には、衣装が揃っていたけれど、ぼっちゃまたちの私物はなかったわね?
別居されているのかしら?
不思議な指輪をいただいた。
それに獣人には破格の給料。周りにこんなにもらっている獣人なんていない。
早く夜にならないかしら。あのお風呂に入ってみたい。
<ベン邸のコック>
厨房に案内されて驚いた。
こんな使いやすそうな設備ははじめてだ。
冷蔵できる箱があった。上部は手前に開くドア付き、下部は引き出し式だ。
一目で何がどこに入っているかわかる。
氷が出てくる箱もあった。四角と丸の氷があり、サイズ違いもある。
調理器具は使い方がわからないものもあったが・・・。
それにしてもこのような厨房で料理が作れるなんて、腕がなる。
瑠璃からベン邸の3人に通話あり。
事情があって、急遽もう奥様もお嬢様も屋敷にいる。でも、慌てなくてよい。
戻ったあと、自室が片付いてから奥様の部屋に顔を出して。
奥様は、少し体調を悪くされているらしい。食事に気をつけてあげてほしい。
それでも今日は調子が良さそうだから夜まで待たなくていいから奥様の入浴をお願い。
「「奥様、大変お待たせいたしました。湯浴みを致しましょう。」」
獣人は力持ちだ。ララを横抱きにして浴室へ向かった。
「さ、ルル、私たちはあなた方の家を片付けに行きますよ。」と瑠璃。
ララは、幸せだった。
浴室は夢のような空間だ。
メイドたちにされるがままに身を任せる。
髪を洗ってくれる石鹸の香りの良いこと!
着せられたナイトウェアも素敵。
お風呂上がりに果実水を飲んだ。なんて美味しいの。
「夕食まで、少しお休みくださいませ。」
ベンたちが選り分け収納に放り込んでいると、大家の声がした。
「今日こそは払ってもらいますよ。無理なら今すぐ出て行ってください。」
瑠璃が続けてとベンたちに目で合図し、大家を連れて外に出た。
「おいくらですか?」
金額を聞いた瑠璃は、2倍の額を渡した。
そしてサラッとベンたちを襲った災難を話し、「そのため家賃を滞納してしまった。それでも大家さんには事情など関係ないことはわかる、迷惑料です。
それと、家具等持ち出さないものの処理をお願いしたい。明日には処分していただいて結構です。」
と続けて言った。
家賃の2倍額をもらった大家は、満面の笑みで頷いた。
我が主人は、ものづくりが得意なのだな。いや、そんな言葉では表せない。
人知を超えているのでは?伝説級と言えばよいのだろうか?
馬車にも驚かされた。
そして私や妻たちの衣装の謎も解けた。
姫様が作ったものなのだからサイズは関係なく、着用した本人にピッタリサイズとなるのだ。
鬼人族の彼にも驚いた。初めて会った。解呪の礼を伝えると、微笑んで応えてくれた。
姫様の生い立ちも理解した。これから周りが騒がしくなることも。
妻のことも金のことも、ここ5年の悩みが何もかも解決した。
我が主人は恩人でもある。
誠心誠意お仕えしよう。
収納に入れるだけ入れると新居へ戻った。住んでいた家に残したものは、大家が処分してくれるそうだ。
瑠璃殿に家賃を渡そうとすると、これから姫様に振り回されるだろう私に、感謝を込めて。
迷惑料とでも思ってくれと言われた。
ありがたい。
娘と妻の部屋へ行くと、バラ色の頰に艶のある髪をした妻が。ルルと2人で驚き、嬉しさに涙した。
久しぶりに3人揃って食事をした。
その後の風呂は至福の時だった。
息子たちが帰ってきたら、驚くだろう。
姫様より5日後から勤務をするようにと仰せつかった。
荷物の整頓が終わったら、妻と娘とゆっくりしなさい、と。その間に、悪党どもの裁きが下るかもしれない、とも。
10日後、ベンは、ジンより指輪の代わりに、パワーアップしたバングルを与えられた。
ジンの眷属とも念話ができるものだった。




