72話:ベン一家、好転す(その1)
ベンの家の前まで来ると、予想通りの展開となっていた。
男たちが、若い獣人の娘を無理矢理、馬車に乗せようとしているところだった。
室内から娘を呼ぶ女性の悲鳴のような声も聞こえる。
娘を馬車の中へ押し込もうとしている男に蹴りを食らわし、娘を取り返した。
ベンに娘と家の中に入るよう有無を言わさず言う。
残りのクズどもをボコり、這う這うの体で逃げた奴らの後を楓に追わせる。
ベンにこのまま家から離れようと言い、ベン家族3人を連れて私たちは、ベン邸に転移する。
人手が足りないので急遽百合を呼んだ。
「いつお呼びがかかるかと待ってたっすよ〜。」と百合。
ベン家族全員に洗浄魔法をかける。
奥方ララを彼女の部屋のベッドに寝かせる。
ララの部屋に全員がいるまま、瑠璃がお茶を用意する。
少し落ち着こうと皆でお茶に口をつけた。
娘ルルの話では、借金のカタだと言われ無理やり家から連れ出され、・・その時に私たちが到着したと言うわけだ。
「私の薬代のせいで、ルルが。あなたも私のせいでお仕事を・・・。」と言うとぐうっと噎せ吐血した。
「ララ!」「お母さん!」
「はあ、はあ、、、み、なさん、う、つるから、出「移りませんよ。」ニッコリとジンフィーリアが言う。
ララを洗浄魔法でキレイにする。
「肺の病気なら喀血の血は、鮮血です。真っ赤ということです。ララさんの血は茶褐色です。
これは肺より下の胃腸からの出血ではないかしら。」
「「「え?」」」
そこへアラタが来登場する。
ララを見て、頷く。
(この女性個人を呪っている。)
(となると解呪で呪いは術者に還る、呪いが還ると死ぬかな?まあよいでしょう。)
「アラタ解呪して。」
ーーピシッーー空気が震える。
(術者を追える?)
(もちろん行ってくる。)
アラタが消える。
ジンはララに希凰桃を一欠片だけ食べさせる。
青白い肌の血色がよくなる。
「「!!」」
「ララさん、体調はどうかしら。」
「なんだか、楽になったような。あ、の、あなた様は?さっきの方は・・・。」
「少し、眠りましょう。」
(ベン、奥方とお嬢さんに私のことをサラッと説明したら、フィリア邸に来て。ここには瑠璃を残すから。)
(っ!!・・・は、い。)
「お待たせいたしました。」
「色々聞きたいことがあると思うけれども、全て片付いてからね。まず、息子のナートとライト宛に住所が変わったと手紙を書いて。」
ベンはハッとして、渡された便箋にすぐ書き、封をする。
「百合、これをギルドに託けてきて。」
百合は手紙を受け取り消える。
そこへアラタが男を連れて戻る。
「まだ生きてるのね。」
「一応ね。おい、顔を上げろ!」
「ベン、見覚えは?」
「!、妻を診た医者です。」
「「ビンゴ!」」
「おまえ、薬師とグルね?」
「ひいっ。」
「話さないと、指を1本ずつ切っていく。」とアラタが凄味のある声で言った。
男2人を連れて楓が戻る。
1人は貴族だった、伯爵家の三男だそうだ。
もう1人は、ベンもご存知薬師だ。
つまり、簡単な話だ。
術師・薬師・伯爵家三男は以前から連んでる間柄。
5年前から術師と薬師がベンから金を搾り取っているところで、最近ベンの娘を伯爵家の三男が見初めた。
「正式に妻にするつもりはないからのこの蛮行ですね。」と楓。
「ベンから騙し取った金は、もう使ってしまった?」
「「・・・。」」
「「ああ?」」
2人がビクついて、コクコク頷く。
「なら伯爵家に賠償してもらいましょう。」
「楓、この3人連れてお祖父様のところへ行って、訳を話して対処を頼んで。
それからベンを解雇した貴族に、『肺の病は謀略でした、ベンは悪くない』とお祖父様から伝えてもらって。」
「わかりました、侯爵邸へ行ってきます。」楓は男たちと消える。
(姫様、メイドたちが運転可能になりました。)と瑠璃。
(なら頃合いを見てララをお風呂へと頼んで。ルルを連れてこちらへ来て。)
「ベン、悪いようにはならないから、結果を待っていて。それとここの執務室とあなたの屋敷の玄関横を繋いでおいたわ。転移できるから使ってね。」
「?」
瑠璃とルルが転移してくる。
「ベンも一緒に元の家を片付けてきなさいな。行ってらっしゃい。」
(瑠璃、ベンにイロイロと説明しておいて、よろしく。)
転移魔法紋[通称:転紋]は、許可制となっている。
ベンを例にとると、ベンが許可すればべんの家族も使える。
一度に3人までしか飛べない設定になっている。
設定は、紋を弄ればいつでも変更可能だ。
カンタベル公爵邸とパーマー侯爵邸の転紋は、護衛の存在を考え一度に8人までの設定にしてある。




