71話:バトラー:ベン
<バトラー希望:ベン>
求職ギルドの知人から、よい就職先を紹介できそうだと連絡が来たのが昨日。
雇ってもらえるとありがたい、いや、雇ってもらえるよう努力しよう。
雇用してもらえなければ、息子たちに迷惑をかけることになる。
父として、それは避けたい。
ここなのか!
なんて広大なお屋敷だ。
敷地内の一角にも、立派な屋敷がある。離れだろうか。
庭も美しく整えられている。
逆側には、奥の方に木とロープで作った建造物がある。何に使うのだろう。
その手前にある建物の屋上には水が張ってある。
[フィリア邸にて、ベンと面談]
「はじめまして、この邸の主人ジンフィーリアと申します。早速来てくださって大変助かります。
お名前と家族構成は伺っておりますが、こちらから質問してもよろしいですか?」
「はい。」
「では、先の貴族家を退職された経緯を聞かせてください。」
「・・・私の妻が獣人であることを旦那様が知ったからです。旦那様は元々獣人がひどくお嫌いです。」
「18年お勤めでしたね?結婚されたのは最近・・・のはずはないですね。」
「はい、結婚して19年になります。・・その、妻はハーフでして見た目は人間なのです。
妻自身も知らなくて、次男が獣人の姿で生まれた時にわかったことです。娘も獣人の姿です。」
「あなたは、奥様が獣人と知って別れようとは思わなかったのですか?」
「確かに驚きましたが、妻を愛しています。子供たちのことも。」
「では、急に知られることとなったわけですね?」
「はい、息子たちは冒険者をしておりまして、家を出ているのですが、誰かが娘を見かけたようでして。
しかも妻の病気のことも旦那様の知るところとなりました。」
「誰かが意図的に耳に入れたようですね。で、その病気というのは?」
「っ・・・・・。(言えば雇ってもらえないだろう。でも嘘はつけない。)
肺の病気でして、移るのです・・。
旦那様は、私から移りたくないと仰って。もし既に移されていたら殺してやると言われました。」
「移る?病気はいつからですか?」
「5年になります。」
「有効な薬がないのですか?病気の見立ては誰が?」
「薬師が紹介してくれた医師です。」
「あなた方の中で誰か移りましたか?」
「いえ、幸いにも誰も。」
「失礼ながら、薬は高価なのですか?今もその薬師から購入を?」と瑠璃が聞く。
「は、い。少し値打ちにしてくれて、助かっております。」
「薬を飲んでどうなのです?」
「よくも悪くもならぬのですが、やめたらひどい状態になるから続けるべきと言われました。」
瑠璃としばらく顔を見合わせる。
そのせいで、ベンの顔色は悪くなっていった。
「ごめんなさい、先に言っておかなくて。ここで働いてほしいわ。」
ばっと顔を上げたバトラーは、目に涙を溜めていた。
「移る病気と知っても?」
「ええ、問題ないわ。返事は?」
「あ、ありがとうございます。誠心誠意勤めさせていただきます。」
「よかった、丸投げできる。」
「は?」
「では、こちらの指輪をはめてください。」
「?」言われるまま指に。
瑠璃が指輪の利用方法を伝える。
「では、説明させていただきます。執事職は年俸とします。年が変わるとまた振込みされます。多少昇給があります。指輪をさわり振込金額をご確認ください。」
「・・・え?こんなに??なにかの間違いでは?」
「この姫様の執事は大変骨が折れます。迷惑料込みとお考えください。」
「・・・・・。」
「あ、そうそう、今のおうちは、持ち家かしら?」
「・・いえ。」(有難い、溜まっている家賃・薬代が払える。これからの心配もなくなった。)
「それは、よかったわ。」
「?」
「瑠璃、ベンを案内して。」
瑠璃殿に案内されたのは、離れかと思っていた立派な邸だった。
今日から私たち家族がここに住むという。
なんの冗談だ?
扉を開けると、メイド2人とコックがいた。
「だんな様・・・」
自己紹介をと瑠璃殿に促され、その後メイドの引率で邸内の部屋を見て回った。
私の部屋だというところには、3着の執事服や他の衣装も用意されていた。
妻と娘のクローゼットにも衣装が。
そして浴室にも大変驚かされた。
呆然としたまま、フィリア邸に戻ると、姫様が真剣な目をして私を見つめた。
「では、聞きます。あなたは、差別をしませんね?自分の目と耳で判断すると誓ってくれますね?」
「・・・はい、誓います。」
「では、こちらを。」
渡された書類を見ると、5年後にあの邸は私ベンのものになると・・・。
「5年勤めてくれたらあの家の名義をあなたに変えましょう。但し、怒涛の5年になると覚悟なさい。」
「!・・・・は、い、身命を賭してお仕えいたします。」
(やめて!命はいらないから。。。丸投げの代償だから。。。)
ベンは、この朗報を家族に早く伝えて安心させてやりたかった。
(なんだか嫌な予感がするから、ベンの家に私たちも行きましょう。楓、付いてきて。)
(はい!)
「ベン、奥様を診察させてほしいの。一緒に行くわ。」
「姫様は、治癒魔法が使えます。」
(病気は凰桃頼みよ?)
「!! あ、ありがとうございます」(治らなかったとしても、そのお気持ちが嬉しい・・・。)
馬車でベンの家まで向かうことになった。




