42話:彷徨える森の異変
冒険者をやりながら情報収集もいいわね。
現場の声が大切よね。
お父様から昔遭遇したという妖精猫のことを聞く。
道案内してもらい出口へ進んだ。
視界が開けるとそこは、最初に入った帝国のダンジョンではなかったんだ。
ザクセン王国の彷徨える森の入り口に立っていた。
運が良かったと思う。
(そうね、下手したら異界へ飛ばされていたかもしれない。
もしかしたら生死のわからない状態で閉じ込められたかもしれない。)
「その妖精猫は、話していた?」
「口を動かしていたが何も聞こえなかった。」
「姿は見えていても壁があったのかもしれませんね。」と楓。
「たまたま空間と空間が近接したのかもにゃ。」
「徒労に終わるかもしれませんが、ザクセン王国から離れる前に彷徨える森に行きますか?」
「そうね。」
公爵邸には、キールが名付けた『フィリアワールドの住人』が出入りしていた。
「では、お父様、向こうを片付けてきます。」
「本当にうちの者を付けなくて大丈夫かい?」
「はい、不測の事態に陥った場合、私たちだけの方が危険がないのです。」
「気をつけるんだよ。」
ニッコリ頷いて翡翠館へ戻る。
ジンたちが去った公爵邸にて。
「頼めるかい?」
「指輪の5人全員で向かって宜しいでしょうか。」
「それで頼む。」
「ふー、あの娘は本当に・・・。」
[ある影のもの]
俺は元々ジョセフィーヌ様の家に雇われていた。
ジョセフィーヌ様から、「夫となるライル公爵が影のものを数人紹介してほしいと言う、おまえ、配下を連れて行ってくれないか。」と話があった。
雇い主が公爵家になるだけなので別に構わない。
俺たちは獣人だ。
獣人の扱いはひどく、一般の仕事では低賃金で働かなければならない。
俺たち3兄弟と従兄弟2人の5人で仕事をこなしていた。
ライル様は、雇うではなく、できれば子々孫々仕えてくれないかと仰った。
ただ、先はわからないから、カンタベル家の子孫に見切りをつけて離れるのも構わない、と仰る。
俺たちは、帝都内に屋敷をもらった。
そして、1年分の金をもらった。
情報に応じて追加で報酬も出してくださる。
仕事中の移動手段や宿代も経費としてもらっている。
今までは根無し草で、一つのところで長くは暮らしていなかった。
余裕ができて、回復薬を買う金が十分にあるので、怪我を癒すまで働けないということがなくなった。
5人で暮らしていたが、スラム近くで怪我をして倒れていた獣人の姉妹を助けた。
傷が癒えてからは、家事をしてくれている。
5人で話して、給料を払うことに決めた。
私たちに与えられた任務は、5年前に誘拐された公爵夫人リリアンヌ様の捜索だった。
時が経ち過ぎていて手がかりはなかった。
それでも貴族家をひとつひとつ調査し、他国も調査していた。
ある国にはハレムがあり、妻となった者たちはそのハレムから出ることは許されない。
危険であったがそこを調査対象として調べはじめていた。
もうお仕えしてから7年。
結果を出せないでいた。ハレムの調査が終わり該当なしとの報告をライル様にした。
今までありがとう、これからは他の仕事を頼む、と仰った。
優秀な君たちが探しても見つからないということは、もう死んでいるのだろう、と。
それを認めたくなくて、と泣いておられた。
俺たちもその事実は考えていた。
でももし見つけられたら、どんなに喜んでくださるだろう、ライル様のそんな顔を見たいと思った。
リリアンヌ様のお子が見つかったと聞き、偽物ではないかと思ったがライル様が間違いないと仰る。
しかも自分の子だと。
リリアンヌ様のご両親は、娘に似ているとジンフィーリア様に仰っていた。
公爵家の令嬢なので姫様でよいだろう。
この姫様、規格外過ぎる。
12歳と聞いたが16歳くらいに見える。老けているというのは言葉が違うと思う。
一種独特の存在感がある方なのだ。
人外のものを数多く従え、創造魔法が得意と仰る。
世界を飛び回っていた俺たちだが、妖精猫・聖獣・クリスタルドラゴンは初めて見た。
姿を隠して観察しているがとても不思議だ。見ていて飽きない。
そして、俺は、ライル様から指輪をいただいた。
ただの指輪ではない。
離れていてもライル様と念話ができる。
ライル様の腕輪リリと繋がっているらしい。
実は俺も指輪にエンと名をつけた。
いつもの5人でいただいたばかりの指輪を見せながら話していると、指輪が5つに増えたのだ。
なんとなく4人それぞれに指輪を渡す。
驚いたことに5人の間でも念話ができる。
ライル様に話すと、フィリアの作ったものだからねと笑っておられた。
他にも何か隠密行動に特化した機能があるかもしれないよ、と仰る。
一度、姫様に指輪のことをじっくり聞きたい。
ポータルとポータルを中継して姫様たちを追う。公爵家の財源、半端ない。
キール様が名付けたフィリアワールドの住人は、転移を使い一瞬で着くらしいが本当だろうか。
「ラナ、またお世話になるわね。」
「お嬢、姫様お帰りなさいませ。」
「ラナ、ゴタゴタが済んだら帝国へ移住するわ。皆に、今後どうするか決めるよう伝えておいて。」
ラナは一瞬驚いた顔をし「わかりました。」と言った。
先に森へと向かったジルバから映像が届く。
「じゃあ、皆、彷徨える森へ行くわよ。」
到着と同時に手の中に指輪が。
皆!戦闘態勢!!
「なんですか、あの金ピカのフルアーマー、しかもフルフェイス。」
「ふふっ、勇者コスプレ。中身は第2王子密偵の金。」金だけに金ピカ
「では、あのロングソードは聖剣バージョンですか。」
「当たり。」
「それにしてもゾンビ系の虫ですか。」
「くちゃい、吐きそうにゃ。」
「金!!それ聖剣だから、聖なるイメージで光放出!」
「え、え、えと、聖なる光!!」
(うわあ、ひねりも何にもない。)
オーロラにような光が溢れ、ゾンビ虫が動かなくなり崩れていく。
おおおお!!!
「ジェイさんの記憶にあったテントウムシのでっかい腐りモノ、と言ったところでしょうか。」
「口からどろりとした液吐いてたにゃ!」
「ジンフィーリア!」第2王子たちがわらわらと寄ってくる。
気がついたら囲まれていて、第1王子は奥へ逃げ近衛も追っていった、と。
奥、、、はあ・・・。
そこへジルバが戻る。
『まずい!境界に大量のゾンビが押し寄せてる。結界が決壊する。』
王子たちが蒼ざめる中、
「ブフッ。」と金。(けっかいがけっかい。)
『金、大活躍だな。』
「この装備凄すぎます。」
「勇者バージョンにゃ。」
「この中で冒険者ギルドに登録している人はいる?」
いないか。まあ、アーフィン王子がいれば、信用してもらえるだろう。
「時間がないけれど、一般人(眷属でない第2王子たち)を転移させて大丈夫?」
『我なら大丈夫だろ。おまえら行くぞ。』
一瞬で一行が消える。
「あ、金ピカも行っちゃいましたね・・・。」
アーフィン王子たちは、一瞬で別荘まで戻ってきた。
「「「え??」」」
『ぼさっとするな!!冒険者ギルドまで伝令急げ!ゾンビのスタンピードだ!!』
ゴウルはコテージに行き、ギルたちに、何が起こっているか説明する。
『ここが最終防壁となる!!外には出るな!俺はジンの元へ戻る!』
「別荘の者たちは・・」
『おまえの判断で、ここへ移動させろ。』




