41話:皇帝の得意顔
[皇帝陛下の幸せな日]
定例会議のはじまる直前、皇帝は臣下より皇太子からのメモを受け取った。
『妖精猫が来た。
私は会議には欠席するがよしなに。
会議室に妖精猫が行くかもしれない。』
と書かれてあった。
会議が始まり、本日は皇太子が諸用で欠席と説明された。
誰が見ても明らかに、今日の皇帝は様子がおかしかった。
ソワソワしながら、何度も会議室のドアをチラチラ見ている。
? ? ???
コンコンとノック音が聞こえた。
ドアに近いものが、「会議中だぞ、誰だ?」と言った。
するとドアが開き、「ディル〜」とかわいい声が聞こえた。
皇帝の愛称呼びにギョッとなった面々だったが、二足歩行の服を来た猫がトテトテと皇帝に向かって歩いていく。
護衛も咄嗟のことで反応できず、固まっていた。
その猫は、皇帝の前まで来ると「ディル〜抱っこ。」と言った。
皇帝は満面の笑みで鞠を抱き上げる。
一同は呆気にとられる。
「鞠っていうにゃ。甘いお菓子が食べたいにゃ。」と可愛くねだった。
皇帝は、「休憩とする、お茶の用意を。」と言って会議をぶった切った。
皇帝は、鞠に手ずから菓子を食べさせる。
「美味しいにゃん。」
「ディルにも、はい、あーん。」と言って皇帝も鞠から食べさせてもらう。
皇帝の表情は、気持ち悪いほど緩んでいた。
最初は驚いていた面々だったが、途中から皇帝たちを羨ましそうに見ていた。
それに気づいた皇帝は、フフフ、羨ましかろ?と悦に入る。
「鞠がライルを助けてくれたのかい?」
「違うにゃん。でもその子に会いたいにゃん。鞠、ひとりぼっちにゃん。」とうるうるした瞳で上目遣いに見る。
(くうぅ、なんてかわいいんだ。あー幸せ。)
「その子を見つけたいにゃん。」
「そうか。」
「鞠、弱いから、ダンジョンが怖いにゃん。だから一緒に行ってくれる人探しているにゃん。」
(((なにぃー)))(((私を誘ってくれ〜)))(((騎士団にいる息子を同行〜)))
皇帝は考え込む。
「帰るにゃん。」
「もう帰ってしまうのか。」とてもとても残念そうな声だった。
すると、皇帝の耳元に口を近づけ、皇帝だけに聞こえる声で囁く。
「今日は、キラに頼まれたら来たにゃん。」
「キラがディルのこと大切って言ってたにゃん。」キラリーン♡鞠の必殺スマイル炸裂。
(ぐはっ・・・。もう死んでもいい。)
そして、鞠は消えた。
臣下の一人が代表して「陛下、今のは?」と。
「妖精猫の鞠である。我に会いに来たのだ。」とドヤ顔で言った。
ブハッ!!!
キラの部屋で皇帝と鞠の一部始終を見ていたメンバーは、大笑いしている。
あざとい、鞠、あざと過ぎる。
ライルがキラ皇太子に、
「兄上、これでよいですか。」と言う。
キラは、大変満足だった。
これで父上に色々な要求が通りやすくなった、と。
ちなみに、鞠の目を通して映像を具現化していたのはゴウルである。
演技指導は、瑠璃。
皇帝は、鞠を思い出してはニヤニヤしたり、だらしない表情で惚けたりしていた。
事情を知らない周りのものは、引いていた。
知るものは生温かい目で見ていた。
キラ皇太子もこの日幸せだった。
子ドラゴンたちと鞠を堪能した。
聖獣たちは触らせてくれなかったが。
[ラース、眷属になる!]
ここが私の原点よ。
このゲートに近い場所に居を構えているのが同族たち、まあ眷属ね。
ここでは、好きにしていてよいわ。
ラースにバングルが嵌っていることを確認して、ジンフィーリアはそう言った。
体がここに馴染んだら、付属界の森で鍛えるといいわ。
一瞬で黒焦げになることもあるし、体を真っ二つにされることもあるけど、ね。
魔法を覚えてもいいし。
師は沢山いるから教えてもらうといいわ。
その代わり、師にはきちんと対価を払うのよ。
払い忘れると、貪り喰われるのよ、師たちに。
ラースの人化した姿は、人間離れした美しさだった。
存在感も半端ない。
前世の知識に照らし合わせると、吸血鬼と精霊の中間といったところか。
納得したら、私の元へ戻ってきてね。
待ってるわ、ラース。




