34話:リリの血縁者たち
リリの父母に早いうちにフィリアを会わせることにした。
最近夫人の体調が思わしくないと聞いているからだ。
早速、リリの実家に書面を送る。
夕方、前侯爵夫妻(リリの父母)が怒涛の勢いでやってきた。
「カンタベル公爵、リリが亡くなっていたことがわかり、それを知っている人が滞在しているというのは本当なのか。」
「本当です。それよりも夫人は体調が悪くて伏せっていたのでは?起きてよろしいのですか。」
「大丈夫よ、リリのことならどんな情報もほしいわ。天に召される前にわかって嬉しいわ、心残りなく逝けます。」
「リア・・・」前侯爵が涙ぐみ夫人を抱き寄せる。
[少し前の侯爵邸]
前侯爵あてのカンタベル公爵からの書面。
すぐにリリのことだと理解する。
12年以上前にリリが死亡していたことがわかった。
そのことを知る人が現在公爵邸に滞在している、と簡潔に書かれていた。
体調を崩してベッドから離れられなくなった妻の元へ行く。
ベッド横に膝をついて妻の手を握る。
「あなた?」
「辛いことを伝えなければならない。」
夫のただならぬ様子に理解する。
「リリの・・リリの死亡が確認されたのね?」
ホロリと涙が頬を伝う。
夫は苦しそうに頷く。
そして、その情報をもたらした人物が公爵邸に滞在している。
今から会ってくると伝える。
「あなた!私も参ります。連れて行ってください。」
無理をさせたくなかったが、妻の気持ちは痛いほどわかった。
美しく聡明な愛しい娘。新婚旅行から帰り、私たちのところに一泊した。公爵は水入らずでどうぞと気を遣ってくれ先に帰った。
至福のときを過ごし公爵邸に向けて見送った娘。まさかその途中で拐かされ行方不明になるとは。
公爵も私たちもひどく後悔した。
数年過ぎ、独身の公爵への縁談話は凄まじい量だった。
公爵は頑なに首を縦には振らなかったが皇帝の命令で7年前に妻を娶った。
娘のことを思い5年もの間、結婚しないでいてくれたのだ。もう十分だと思った。
娘の足取りは全くつかめず今日まで来てしまった。
妻はもう長くないと自分でわかっている。お願いだ、私を置いて逝かないでくれ。
「お会いしていただく前に、ざっと話すことをお許しください。義父上、義母上。」
「まだそう呼んでくれるのか、ありがとう。」
「リリは今も私の妻です。」
ジョゼも頷く。
「なんと、リリは記憶喪失になり、ザクセン王国の貴族に強引に妾にされた、と。」
「侯爵家の娘を平民扱いか!その貴族、殺してやる。」
「あああああー、リリ、リリ。」
息も絶え絶えになり、嘆き続ける妻を夫が抱き寄せる。
「義母上には、もうこれ以上は・・・。」
「いいえ、いいえ。私は知らねばなりません。」
前侯爵が先を促すように肯首する。
そして、臨月のリリが正妻に階段から突き落とされ、そのまま出産し死亡した事実を知る。
今度こそ夫人は気を失った。
妻をベッドに寝かせ、手を握りながら、
「子は?リリが産んだ子はどうなったのだ?リリと一緒に死んだのか?」目を真っ赤にして公爵に尋ねる。
「いえ、産まれるには産まれたのですが。」
「なっ!目も見えず口もきけない状態で産まれたのか・・・。無理もない!妊婦が階段から突き落とされたのだからな!!」前侯爵は怒りで血の涙を流さんばかりだった。
そこへ、現侯爵(リリの兄)が通される。
「父上!あっ母上!」
「クリス・・。」
「帰宅して家令から話を聞き、たまらず・・。ライル、突然ごめん。」
「構わないよ。」
クリスも妹のことを大切に思っていた。
公爵がクリスにかいつまんで話す。
クリスも怒りに我を忘れそうだった。




