27話:ラース危機一髪
ジンフィーリアは、アーフィン王子を無視して、まっすぐテックに向かった。
テックが立ち上がり、
「本当にありがとう。金は必ず返すからそれまで二人を頼む。」と頭を下げた。
「お金のことは、気にしないで。もう二人は奴隷から解放されているから自由よ。」
テックが目を見開いた。
双子がほら、もうないよ。姫さまが消してくれたのと肩を見せる。
「何から何までありがとう。」とテックがまた頭を下げた。
件の令嬢は、声まで極上だ。一度聞いたら忘れられない声質。
次紹介するね。姫さまの守護獣なんだよ。
(なに?守護獣だと。)
金の髪と瞳の獣人の子供がゴウル、銀の方がジルバ。
これはまたやたらときれいな獣人の子だな。
令嬢の瞳も金色で守護の子供たちも金銀の美しい瞳。
ん?守護獣と言ったな。
テックが双子に守護の獣人てことかい?と聞いている。
「ううん、獣の姿にもなれるの。」
「ゴウル、ジルバ見せて。」とキラキラした瞳で言う。
二人は軽くため息を吐いて、変身した。
「「「おおおお。」」」
子虎の姿に。獣化姿も美しい。キラキラと光っている。
なんだ?金も驚いている?知らなかったのかと目を向けるとコクコクと頷く。
「次は、猫ちゃんだよ。」
色っぽい美女(瑠璃)が抱いていた服を着た猫を降ろす。
と、二足歩行でトコトコとテックのところまで行き、
「初めまして。鞠といいますにゃ。」
「「「「「喋った」」」」」
本物だ。
「あれ?ドラゴンの二人は?」
「呼べば来るわよ。」と令嬢。
「「せーの、蒼〜、紫蘭〜。」」
と、突然水色と桃色の小さなドラゴンが現れた。
小さな羽を使って飛んでいる、いや浮いている?
金色の精巧な作りの輪を嵌めている。それぞれの色の石が埋め込まれている。
この足輪だけでも相当な価値がありそうだ。
誰かがクリスタルドラゴンだ!と言った。
本当だ。透明な宝石のような鱗に覆われている。
「キュイキュイ」「ピュイピュイ」と可愛く鳴きながら緩く飛んでいる。
い、癒される。孤高の存在のドラゴンの幼生がこんなに愛らしいとは。
一生分の驚きを今日だけで使い切った気がする。
皆、もっと近くで見たい、触りたいとそわそわしている。
もちろん私もだ。
王子の私がことごとく無視されたけどな!
「でね、兄ちゃん。めいんでっしゅのラース!」(メインディッシュな。あのインパクトを最後に持ってくるのは流石だ)(注 : 金心の声)
「あれ、ラースは?」
「おかしいですね、一緒に来ましたよ。」ともう一人の艶っぽい美女(楓)が言う。
ゴウルとジルバが耳をピクッと動かした。
瑠璃が窓をバーンと開けると、守護獣たちが窓から飛び出して行った。
別荘の方が騒がしい?
見ると令嬢と美女二人がいない。いつの間に。
「私たちも行くぞ!」
皆で別荘へ向かう。
「二人は鞠とお留守番にゃ。」
「キュウ」「ピュウ」
注目を浴びていたのに置き去り感半端ない子龍たちであった。
少し前。
シールとバカ王子たちは、ウッドデッキでお茶していた。
シールは本当は第二王子の方へ行きたかった。
(第一王子といるとHPがガリガリ削られる。と多くの人が思うらしい。)
ラースはその一行のいるすぐそばの木に登り、甲虫を興味深げに見ていた。
がすぐに飽きて、木から降りようとして近衛の目に留まった。
「うわああああ、化け物だ。」ラースの顔をバッチリ見てしまい、とっさに叫んでしまった。
近衛たちは王子を守るように輪になり、鞘から剣を抜いた。
ラースはピカピカ光る剣に興味を示し近づき、長い指を剣に向けた。
魔法攻撃が来るのではと身構えるものたちがいる中、最初に叫んだ近衛がラースに切りつけた。
が、そこに人化した虎兄弟が割って入り、事なきを得た。
ラースを抱えて、剣の間合いから離れたのだ。
アーフィンたちが到着した時には、
「こんなに愛らしいのに、化け物なんてひどいわ。」と言うジンフィーリアがラースを抱きしめ額に口付けていたところだった。
うん、異様な光景だ。
美少女と顔の怖い生き物。絶対に愛らしくない。
色んなものが介入し、シールやバカ王子たちが惚けている間にジンたちは速やかに去った。
アーフィンたちもさっさと後を追った。
「「「ハッ。」」」
我に返ったウッドデッキの面々。
化け物→美獣人の子供たち→化け物に愛おしそうに口づける美少女
「シール、あれらは一体なんだ?いや、あの妖精(?)は知り合いか。」
(妖精を知り合いかと聞くバカはいない。やはりアホだ。)




