23話:新護衛への嫌がらせ
新護衛たちの朝は早い。
なぜなら、ジンフィーリアが日の昇る前に動き始めるからだ。
(実は嫌がらせである。)
日が昇る直前には森の入り口近くの広場まで移動している。
日が昇ると同時に、どこから響いているかわからない軽快な曲に合わせて踊り始める。
楓も鞠もゴウルもジルバもラースも一糸乱れぬ振り付けで2時間踊りまくる。
ジンフィーリアにいたっては、ランニングにホットパンツという服装だ。
時々ギルたちも瑠璃の隠蔽魔法を使って見に来て、大笑いしている。主にラースを。
踊りがうますぎて笑えるのだ。
そしてバカにしていた。
主に間抜けな護衛黒を。
ねっとりとした嫌な視線を隠すことなく、毎朝下半身を膨らませている。
あいつ、アホだ、クズだゴキブリだと言いたい放題言われていた。
黒のクズな視線に負けることなく、光り輝いているジンフィーリアたちであった。
最近ラースとは会話が成立していた。
ラースは人語こそ出ないが、味方たちと意思疎通はできていた。
鞠はラースの言葉も理解していた。
鞠は誰にでも愛される存在であった。
ラースは愛されるか視界から遠ざけられるかの両極端な存在だった。
踊り終わると、コテージにて風呂に入る。
門は通り抜けられるのだが、ラナに頼んで開いている門として擬態してもらっていた。
ラナに頼まれた翡翠が頑張っていい仕事をしていた。
最初は3人とも門外で待ちぼうけだったが、翡翠が許可するようになり金と茶は入れるようになった。
黒は自分だけ入れないので、懲りずに毎日門に入ろうとしていた。
都度強烈に拒絶され弾かれていた。
それをラースが、黒に見えるように馬鹿にして挑発していた。
ある時は鼻をつまんで、おまえ、くっさいくっさいとジェスチャー。
バーカ、バーカと聞こえてきそうな表情で見る。
緩慢に拍手するようにして腹を抱えて黒を指差す。
ラースはジンフィーリアより、黒は敬う必要がないから何をしてもよいと言われていた。
知能の高いラースは、勉強家だった。
どの表情が黒を怒らせるかと研究し尽くしていた。
ラースは、昼間一人で森へ入っては、甘く美味しい木の実を取ってくる。
気が向くとそれを金や茶に渡す。
そして二人が食べるまでじーっと見ている。
最初は怪しくて食べられなかったが、先に根負けした茶が食べた。
とても美味しかったのでラースに礼を言った。
そして次に見つめられた金もダラダラと冷や汗を流していたが意を決して口に入れた。
普通に美味しかったので驚いてラースを撫でた。
ジンフィーリアがラースを盲目的に愛していることをラース自身知っている。
ラースを蔑ろにしたものはジンフィーリアに口を聞いてもらえなくなる。
流石に黒もラースに馬鹿にされていることはわかっていた。
仕返ししてやる気満々だった。
だからラースが森に向かうと、護衛の仕事をほっぽって後をつける。
しかし、見失ってしまう。
ある時、森の入り口で、ラースが指をプスっと地面に刺すことを繰り返していた。
黒は気になって近づいた。
ラースが攻撃することはなかったので、安心して背後からかなり近くまで寄った。
ラースが土に指を指す。
そしておもむろに黒の方に振り向いた。
口のそばまで持ってきた指には太いミミズが刺さってウニョウニョ動いていた。
それをパクッと口に入れ、咀嚼途中で、にちゃあと口を開けて黒に見せた。
黒は、おええぇと吐いた。
しばらくはその光景を夢に見て、魘される黒だった。
護衛を放置していることをロイドに注意され、ラースを追って森に行くことはなくなった。
朝のダンス中、曲の間奏にわざと黒に向かってラースはにちゃあという口を見せていた。
ジルバから聞いて事情を知っているギルたちは腹を抱えて笑っていた。
コテージに招き入れられ、ギルたちと話すようになった金と茶もミミズ事件のことを聞き、黒にわからないように笑っていた。
金と茶は毎日楽しいな、と思うようになっていた。
ラナは、名付け後しばらくして、本当の翡翠に気づいた。
ある時、浴室から悲鳴が聞こえ護衛たちとラナが駆けつけると、ナーナたちが裸で転げ出てきた。
風呂の湯が血のように赤いと言うのだ。
ラナたちが確認すると確かに赤い。
そして湯の注ぎ口が白く光っていることに気がついた。
近づいてみると湯の効能が書いてあった。皮膚病や切り傷に効果あり、と。
ラナはハッとした。
昼間、料理中に食材でかぶれたのか手のひらが痒くなってしまった、そして指を包丁で切ってしまった。
それをひとりで呟いていた。
「翡翠なの?私のために?」
「是」と感じた。
ジワリと涙が浮かび、ありがとうと言うと翡翠が照れているような喜んでいるような感覚が伝わってきた。
お嬢様が言っていたのはこういうことだったのだと理解できた。
自分に寄り添ってくれる翡翠が大切な存在であると改めて思った。




