172話:見守りに徹す
[魔女の家]
え・・!
あっ、た。
見つけてしまった。
ゴクリ。
家の中をこっそり覗いてみたが、誰もいなかった。
そりゃそうよね。
家まで来られただけでも奇跡だわ。
見つけたクロウは、心なしか元気がなさそうに見えた。
もしかして、私のことを思い出してくれてる?
ジャスティンとまだ出会わないなら、クロウの前に姿を現しても・・いや、やめておこう。
数日後、クロウがピンチに陥った。
鳥の魔物に捕まったのだ。
彼の背中には鋭い爪が食い込んでいる。
クロウを捕まえて再び空中に戻った鳥は、巣へ持ち帰るつもりなのだろう。
彼は、ここからどうやって、逃れたのだろう。
クロウの姿がどんどん小さくなるのを見て、酷く焦ったジンフィーリアは、鳥を撃ち落としてしまった。
そして我に返り、急降下するクロウを魔法でそっと地面に降ろした。
ガサガサ
待ち人が来た。
気を失ったクロウを抱きかかえ、彼は家へ急ぎ帰っていった。
ホッとひと安心したものの、ジャスティンの家までクロウの無事を確かめに行ってしまった。
クロウは、手当をされていた。
ホッとすると、ふと悪戯心が芽生えた。
さっき撃ち落とした鳥の魔物を持って魔女の家に行ってみた。
転移をしようとしたが、この世界で使うのは危険だと思いとどまった。
(やはり、問題なく着いた。)
ガシャーン!!
そして、ジンフィーリアは、窓から鳥の死体を投げ込んだのだ。
当然だが何の反応もなかった。
毎日、ジャスティンの家を覗き見していた。
傷の深かったクロウは、威嚇する気力もなかったようで大人しく看護されていた。
ジャスティンも甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
「君の名前だけれど。(黒毛だからクロってのは安直だよな。)・・クロウってのはどうかな?」
(あ、クロウが驚いた顔をしている。そうだったジャスティンが名付けたんだった。でも、あそこにいるクロウは、私のせいで名前を知ってて・・。)
クロウがジャスティンに懐いて、幸せそうな顔を見せるのにそれほど時間はかからなかった。
前世の自分に嫉妬しているジンフィーリアがいた。
ジンフィーリアは3日に1回は、魔女の家に様子見に行っていた。
そのうち、3日連続、魔女の家を監視してみたが、やはり、住居人の姿を見ることはなかった。
その足でジャスティンの家に向かうと、ジェイがいることを知った。
精気のない表情をしていたジェイが日に日に明るくなっていくさまを第三者視点で眺めていた。
当初、クロウは、ジェイに素っ気なくしていた。
が、ジェイが作る料理に胃袋を掴まれ、気を許すようになっていった。
ある日、魔女の家で、あいつを見た。
鳥の死体が投げ込まれていたことに言及し、怒りながらブツブツ独り言を言っていた。
「!」
(驚いた。クロウの世界なのに、私の悪戯を魔女が把握している。)
後日、ジャスティンが街へ行くとき、跡を付けた。
そして、魔女がジャスティンを睨めつけて見ている場面に遭遇した。
魔女は普段から独り言が多かった。
「私と同じで、人から蔑まれ、インチキだ、詐欺師だと罵られている。」
(親近感のようなものを覚える。)
魔女の心の声までジンフィーリアには聞こえた気がした。
またある日は、笑い声の耐えないジャスティンの家を、魔女が鋭い目つきで見ているのをジンフィーリアは見てしまった。
魔女はジャスティンが家の外に出てくると、踵を返して森の奥に向かった。
「(同じ境遇かと思って)仲良くしてやろうと思ったのに、家族がいるじゃないの!あの男にはいるのに、なぜ自分には誰もいないの?」
そう言い、涙を流す魔女を見てしまった。
ジンフィーリアは、なんとも言えない気持ちになった。
それからも、ジャスティンの姿を追い続ける魔女を見かけた。
(うわあ、これぞストーカー。)
ジャスティンの名を出してはぶつぶつと独り言をつぶやく魔女に気持ち悪くなった。
「そうか、あの男のことが好きになっていたんだ。独り占めしたいと思うこの気持ちが恋!」
(ひいっ、なんか違う。)
「恋人同士になったとして、あの黒猫と爺は邪魔。消えてもらおう。」
(・・・なんて勝手な。)
「彼のことを一番理解できるのは私しかいない。彼は私を選ぶはず。それから、二人を追い出せばいい。」
(妄想も甚だしい。)
魔女の見た目は、ジンフィーリアにはわからなかったが、街の人々は、好き勝手言っていた。
「薄気味が悪い。」
「不細工。」
「醜女。」
「見られたら、呪われそう。」
これも不思議。クロウの記憶なのに。
・・あ!
クロウは良く出掛けていた。
彼女の街の評判を知っていたのだろう。
そして、ジャスティンを付け回していることも知っていた?
私が見ている場面にクロウの姿が見つけられないだけで、本当は居たのかもしれない。
[唐突な告白]
「ジャスティン!」
「・・どちら様ですか?」
「え?・・・私のこと知らないの?同じ、森で暮らしてるのに。(そんなはずないわ!)」
「知りません。初めて会いましたよね。」
「!」ブルブル
(間違いなく、互いに目を合わせたのも、面と向かって話したのもこの時が初めて。
それなのに、どうしてこの女は、驚いて、動揺してるの??)
「わ、私は、あなたの苦しみがわかる。あなたもわかってくれるでしょう?だから、恋人同士になるのは必然よね。」
「は?・・心の内がわかるとか、恋人同士になるのが当たり前とか、知らない人に言われるのは理解不能なんですが。」
「(彼が私に向かってこんな事を言うはずがない!)ジャスティン、私はあなたのことが好き、愛してるの!だから、一緒に暮らしましょう。」
(怖すぎ。あ、クロウ!・・そう、この仰天発言を聞いてたのね。)
「自分には既に愛する家族が居て、毎日が充実している。失礼する。」
「え・・・。」
(なんでよ?なんであんなに冷たいの?)
ギリリッ
(現実を無視して妄想を膨らませてる。・・知らなかった。勝手に拗らせた、ただの迷惑野郎じゃない。)
デーロンは、今生のジャスティンを見ても何の反応もなかった。
記憶を持たずに転生するのはそういうことなのだろうとジンフィーリアは納得した。




