170話:クロウの夢の中へ侵入
<ベスティア王宮、現在>
「それで?何しに来た?」
「えーっと、挨拶?」
「覗きがバレたことによる保身か。」
ぎくうっ「・・・。」
「ここに侵入出来たことが問題だ。・・ああ、敵意がないからか。」
「そ、その通り。」
(今後、許可してない見知らぬ者の侵入には警報を鳴らすか。)
「おまえは何者だ?」
(俺たちのことはわかっているようだな。ということは・・。)
「わかってるんじゃ?」
「おまえの口で言え。」
「俺様は、契約者だ。」
「誰の?」
(はあー、一度で話せよ。)
「・・そこで眠ってる黒猫を殺した、おまえたちが魔女と呼んでいたやつの。」
「「!」」
(やはりか。リアと話していた通り・・。)
(そのようね。)
ヒュン
「遅くなってごめん。」
「オロロ、助かるわ。」
(いつものリアの口調だ。)
(こいつらは、どこからでもぽんぽん転移してくるのか。)
「それで、おまえの正体は?悪魔ではないでしょう。」
「ほう?わかるのか。」
「まあね、6種見ただけではあるけれど。」
「俺様は、影。」
「影から派生した存在ってこと?」
「たぶんな。随分昔のことで忘れた。」
「能力は?」
「俺様は、契約者になぞって時を渡ることができる。」
「ふーん、便利そうな能力ね。契約者が死んだのに、因縁ある私たちの前にわざわざ姿を現したのはなぜ?悪魔じゃないんだから対価を受け取るってわけじゃないわよね?」
「そんなんじゃねえ・・・。(対価は契約者からしかもらわない。)」
じーっ
(うっ、こいつ、俺様を凝視しやがって・・。)
だらだら・・
(もしかして、冷や汗かいてるの?)
(ジン、こいつ、身の危険を感じてここへ来ただけだ。ジンたちが悪魔を簡単に屠ったからね。自分の契約が逆鱗に触れ、消滅させられるんじゃないかとビビってる。)
(そう、意外と素直なのね。)
「おまえ、名前は?」
「俺様には名など必要ない。」
「それでは、不便じゃない。じゃあ、シャドウってことで。」
「勝手に名付けるんじゃねえ!・・あ、ああ~。」
「うん?・・繋がったわね~。」
「ちっくしょう!何者にも束縛されることなく自由に生きてきたってえのに、何てことしやがる!」
「問題ないでしょ。用があるときに呼ぶだけよ。今まで通りに好きに生きればよいわ。」
「ちっ!」
(姿を現すんじゃなかった。下手を打った!)
「早速だけれど、シャドウ。クロウが目を覚まさないのはなぜ?デーロンと契約してたんだからわかるんじゃない?」
「・・記憶が抜かれ、その記憶は存在しないことになってたんだ。そこに、無理やり戻されたから、記憶の定着場所を強制的に空けてる。」
「いつ目を覚ますの?」
「記憶を辿り切ったら。」
「え・・。」
「そいつは、眠りながら、失くした記憶を疑似体験するのさ。それが終われば目を覚ます。」
「・・・。」
「古い記憶じゃなくて、今まさに体験したように感じるだろうさ。」
「何ですって?・・この世界での記憶よりも、前世の体験が鮮明に?」
「そういうこと。」
「クロウが辛い思いをするじゃないか!オブラートに包むとか、なんとかならないのか!」
「おっと、あんたも居たんだったな。前世は爺姿ですぐに死にそうだったから、契約者も手を出さなかったんだぜ。」
「・・・。」
「疑似体験と言ってますが、夢を見てるってことですよね。」
「瑠璃。」
「まあそうだな。実際に魂が前世に戻ってるわけじゃない。心体ともにこの世界にあるままだ。」
「であれば、クロウの夢の中に入って助力してはどうでしょう。」
「え?」
「姫さま、私たちは、サキュバスです。夢の中に入ることはお手のもの。」
「私は前世もやったことないけれど。」
「道理はわかっていらっしゃるはずです。」
「・・・クロウに負担はないの?」
「必ずしも精気を吸い取る必要はありませんので、何もしなければ無害です。」
「クロウの苦しみを和らげる?」
「そうです。」
「記憶の上書きにならないの?シャドウ。」
「元の記憶は、まんまさ。ただ、実体験か?夢だったのか?と曖昧に思い出すだけだろうよ。」
「夢の中で私が手を出しても、クロウには何ら悪いことにはならないってことで、合ってる?」
「おまえが、酷いことをしなきゃな。トラウマを植え付けるとかの。」
「そんな事するつもりはないけれど、結果的にやっちゃうかも?」
「こうやって話してるうちに、そろそろ前世の旅が始まりそうだぜ。」
「「「「!」」」」
「ジン、シャドウは嘘を言ってない。」
「姫さま、夢への導入をお手伝いします。それと、慣れておられないので、私の合図を見逃すことなく、クロウの夢から出てください。」
「瑠璃、タイミングを外したらリアはどうなるんだ?」
「夢の世界に囚われて、永遠に彷徨うことになります。」
「もしものときの解決策は?」
「・・クロウが同じ夢を見たら、道がつながり、戻ってこられるでしょうが、確率は低いです。」
(リア、危険を冒さないでほしいけれど、言えない。)ぐっ
「やってみる。瑠璃、手伝って。」
「はい。」
ジンフィーリアは、クロウの横に体を横たえた。
そして、意識を沈めていった。
「瑠璃、リアも眠っているのかい。」
「そうですね、眠っている状態に近いと言えます。が、自身の意志で行動できますから、クロウの夢にただ流されるということはありません。」
「傍観者ではなく、手を差し伸べられるんだね。」
「ええ。」
「俺様はもういいだろ。」
「いや、ここにいろよ。」
「俺様は、時を渡ることができるだけであって、現実でない領域には入れない。」
「クロウの夢の世界は、本来クロウだけのものだからだよ。夢はあくまで夢で現実ではない。」
「・・記憶の反芻は、何十年に及んだりしないよな?」
「それはない。100年経験しようが、時間の流れは外界とは違う。長くても2日だろうよ。」
(ほっ。)
「じゃあなっ。」
「あっ・・。」
「ロー、あいつにできることはない。ジンが帰還するのを待とう。」
「・・うん。」




