169話:とある存在の言い訳
<とある存在>
「何が望みだ?」
(悪魔、なの?)
「はあ~、さっさと願いを言え。」
「・・・・・。」
「ないのなら去るぞ。」
「待って!願いならある。」
・
・
「話が長い!おまえの事情などどうでもいい。時間の無駄だ。」
「背景がわからないと、間違うじゃない。」
「俺様が?はっ、ありえん。」
(信用してよいのかしら。)
「・・で?おまえは、どうしたい?」
「二人が、来世で再会する時、私もその場で対峙したいの。」
「あん?(二人が巡り合えないようにしろ、でなく?)」
じーっ
びくっ
(ああ、そういうことか。自分の手で、また引き裂きたいと。幼稚なやつだ。
だが、面白いかもしれない。)
「よいだろう。契約成立の対価は、おまえの寿命だ。」
「いいわ。約束を違えないでよ。」
「俺様を誰だと思っている。(無礼な奴め。)」
「(ただの悪魔でしょ。)じゃあ、これからの流れを話すわ。」
「手短にな。」
・
・
「ペットが死んだ時点で契約成立だ。」
酷いことをされたら、当然、その相手を恨むもの。私のようにね。
彼の愛情を享受するものが憎らしい。
私に愛をくれないのなら、その相手を奪うまで。
つらい記憶は、消えない。
彼に、私のことを覚えていてほしい。いつまでも。
来世で、傷に塩をぬりこんでやるわ。
憎悪する対象として、私を彼の記憶に刷り込ませたい。
私のことを忘れるのは許さない。
命が尽きる瞬間でさえも、私のことを思い出すのよ。
忘れたくても消せない記憶をプレゼントするわ。
これが、私を拒絶した彼への復讐よ。
仮契約者は、予定通り、自分を袖にした男のペットを捕獲した。
恨み辛みを吐きながら、数時間に及ぶ拷問をしたあと、家に帰した。
実際は、家の前に投げ捨てた。
たかがペットの猫に、あそこまで嫉妬の炎を燃やし甚振るとは。
すぐに死んでしまいそうなか弱い存在に見えたが、足を切断されても泣き叫ぶこともせず耐えていた。
黒猫は、飼い主に会いたい一心で、いつまで続くともわからぬ責め苦を堪え切ったのだ。
おまえごときに何故名がある?許せんとかほざいていたが、ペットをペットと呼ぶやつはいないだろ?
ほとんど死体に近い状態だった猫は、仮契約者の呪術によって命を繋がれていた。
ポーションを使ったら即死のトラップが発動するようにしてあった。
それを猫に言い聞かせていたのだ。
「私は優しいから、死ぬ前に彼と話す時間をあげるわ。ポーションさえ使わなければ、すぐには死なない。でも、絶対に助からない。ふふふ。」
「・・・。」
「おまえさえいなければ、彼は私を選んだのに!」
グサッ!
「っ!!!」
うおっ、太い針を猫の目に!
俺様は何も言わないが、誰かが『報いを受けよ。』と言い罰を与えてもおかしくない所業だ。
いやいや、こんな危ないやつ、恋人にしたいと思うか?
無理だろ、俺様もパスだって。
人と猫が愛し合ってると思ってるのか。
来世を誓った仲とも思い込んでいるし。
すげえ妄執だな。
仮契約者の考え通り、事が進むとは思えなかった。
仕方ないから、少し修正を加える気で、死にかけの猫がいる家に忍び込んだ。
俺様は気づかれることなく、2人と猫のいる部屋にいた。
そして、猫が人語を喋ることを知った。
驚きすぎて、姿を現しそうになった。
ただの猫ではなかったのだ。
しかも、男は猫のために命をかけようとしたのだ。
黒猫が死んだ。
俺様は、契約成立の対価を受け取った。
「・・・成就後に対価を受け取りに行く。来世で会おう。」
黒猫が鍵で間違いない。黒猫と同じ時に設定すれば、契約者の望みは叶う。
契約者の死体を一瞥したあと、俺様は、時の流れに身を任せた。
俺様は、引く手数多だ。
契約したいと願うものは、星の数ほどいる。
人は、面白い、飽きない。
10年以上付き合うことになった契約者の状況を楽しんでいるうちに、来世の契約のことなどすっかり忘れていた。
ある時、黒猫が俺様の前を横切った。
「縁起悪っ。」
(ん?・・何か忘れてるような・・。)
「あっ!黒猫怨嗟の契約者がいたな。」
思い出しさえすれば、契約者を辿ることができる。
「・・・・・・・いた!」
契約者のキーパーソンたちは・・・。
んん?黒猫は、、どうなってる?
わからないなら、確認すればいい。
契約者の元へ行くか。
忘れていたことは、黙っておこう。
「魔族・・?こりゃあ、不気味なことになってるじゃないか。・・あの城にいるのか。」
(契約者だ。魔族に転生したのか。)
「誰だ?」
「よう。来てやったぜ。」
「・・何者だ?」
契約者は、スーッと目を細めた。
「俺様のことがわからないはず、ないよな?・・うわっ!!」
はあ、はあ、危なかった。
殺す気で攻撃してきやがった。
あいつの頭の中を覗いてやる。
・
・
あ~、前世の記憶がない。
来世へ持ち越すケース、今までなかったから・・やっちまった。
次からは、気をつけよう、うん。
・・って、どうすんだよ、今回のこれ!
このまま知らん顔を決め込んでも、構わないっちゃあ構わない。
俺様のことも覚えていないから、さっきのように攻撃してくるだろうし。
うーん、うーん・・・。
記憶がないくせに、黒猫に既に接触してやがる。
俺が放置してたのにも関わらず契約者の意志で関わりをもち、要が済んだら殺そうと決めている。
だが、契約者が執着していた存在のことは、どうでもよいのか?
前世の記憶は消えたが、黒猫のことだけは魂の深層に残っている?
・・どうやら、好きになった男への憎しみが全て、愛され対象に向いてしまったようだ。
踏みにじって殺すつもりだ。
まあ、ジャスティンの目の前で殺さなくとも、探しても見つからないことできっと苦しむだろうから、契約者の目的は果たせるか。うん、そうだな、問題ない。
契約者のやつ、来世は業が深いことになるぞ。
レア猫殺しから、いきなり大量虐殺かよ。
悪魔たちを手に入れたのは、魔王を排除し殺すためか。
猫から魔王に出世したが、それを契約者が奪った。今はデーロンというのか。
黒猫は、なんと、同じ名だ。
来世にもっていくほど気にいっていたようだ。
もう一人のキーパーソン、ジャスティンは・・・ヒュー、やるじゃん。
こっちも王かよ。
どうなってる?王様のバーゲンセールかぁ?
うーむ。
契約不履行は俺様の汚点になるが、契約者があれでは手を出しにくい。
とりあえずは、見守りだな。




