167話:人を嘲笑するやつは自分も笑われる
<エルフの長・エーシル>
「元のような暮らしに?」
「そう。この限られた空間から出て、時には地上のものと交わりながら生活するの。」
「エルフも魔族も人族に比べると人数が少ないですから、多勢に無勢で負けてしまいます。」
「共存している未来は、そんなに遠い先のことではないと思う。例えば、冒険者になって、生計を立てるエルフや魔族が出てくるんじゃないかしら。」
「そうでしょうか。」
「きっと、そうなるわ。それに、ここでの生活は刺激がなくてつまらないでしょ。」
「私は満足していますが、確かに、若い者にとってはそうなのかもしれません。」
「今までのように、結界に覆われた中で暮らしてもよいけれども、多少オープンにして、暫くはここと外界との二重生活をしてみればどう?」
「え?」
「自由に行き来すればいい。なんだったら、寸分違わぬ里を外界にも作って、同期するようにしてもいいわよ。」
「同期?」
「例えば、エーシルがここのあなたの家でカレーを作ったとする。」
「ええ。」
「そして、外界のエーシルの家に行くと、エーシルが作ったカレーができてるって寸法よ。」
「!(・・そんなことまで可能なのですね。)」
「もしもの避難所として、貴方たちの拠点をここに残したままにしておけば安心かもね。」
「それは、願ってもないことです。」
「そう?では、外に出る心づもりを、ね。」
<全世界へ告ぐ:ベスティア女王>
『世界の皆様、こんにちは。本日はお知らせすることがあります。
あ、その前に、一応伝えておきます。バリアが消えたことでおわかりとは思いますが、魔族との戦争は終結しました。』
(((((勇者の出番なかった。)))))
『クソ野郎は死にましたが、実際に見ないと不安な方もいらっしゃるでしょう。
ですので、本日と明日の2日間、昼に流す映像を見てください。』
(((クソ野郎って言った!)))
(リア、名乗り忘れてる。)
(世界で一番売れてる顔だ。問題ない。)
うんうん
『では、改めて。お知らせの1つ目、魔界が消滅しました。しかしだからといって、魔族がいなくなったわけではありません。魔族はちゃんと存在しております。魔界に囚われていたエルフ族も無事です。』
ざわざわ
「「「エルフ?」」」
「エルフだって?」
「魔族は生きてるのか!不安だ・・。」
「また、戦争が起こるんじゃ・・。」
(魔族戦争が終わったことは、お知らせに入らないんだ・・。)
『ベスティア国は、友好的な魔族を受け入れます。もちろん、エルフ族や他の種族も同様です。』
しーん
『2つ目、新たな魔王に就任したのは、私の夫で鬼人族の炎雷です。』
どよどよっ
『炎雷に対し、法王国が勇者をぶつける気なら、勇者ごと法皇猊下を滅しますのであしからず。』
「な、なな、なんて女だ!」
法皇は、赤くなったあと青くなり、バタンと倒れた。
「「「法皇猊下!」」」
『3つ目。差別意識をなくすことが難しいことは重々承知です。日常的に身分、容姿、能力等で差別発言があるのですから。でも、せめて、種族間差別はやめませんか。ベスティアの主な種族は獣人族です。
頭上に耳・ツノそして尻尾がない種族が、未だに我らを差別する言動をやめません。』
ジンフィーリアは、黄金の毛並みの獣人に変化した。
(((((!)))))
「女王は獣人だったのか?」
(ちげーし。)
『我々を獣と言うそこなあなた!わかっていますか、あなたも元、動物ですよ。』
「「「「「なっ!」」」」」
『我々はこのように耳を動かすことができます。』
ジンフィーリアは、ケモミミをぴょこぴょこと動かした。
(((うっ・・可愛い。)))
『たいていの人間は、この耳を動かす耳介筋なるものが退化しているため、自分の意志では耳を動かせません。動かせる人は、動物だった頃の名残が残っているのです。』
ジンフィーリアは、元の姿に戻った。そして、横の髪を耳にかけ、耳をあらわにした。
『こうやって耳の縁をなぞると、コリッと突起になっているところがあります。これも、動物の尖った耳の先が退化した名残なのです。ところで。
法皇猊下の一発芸は、顔の横についている耳をピクピクと動かすことですよね。』にっこり
「「「「「!」」」」」
聖職者たちは、後ろで寝ている法皇を振り返った。
(法皇様をやり玉に挙げてるが・・ブフォッ!やばい、、笑ってはいけない。)
「「「ぷぷっ!」」」
ジンフィーリアは、背を向け、尻を突き出した。
『人族には尻尾がないですって?いえいえ、尾てい骨は、尻尾の痕跡です。この部分の骨ですね。』
そういって、指で尾てい骨をスリスリと触って見せた。
かああっ
映像を見ている者たちは、形の良いジンフィーリアの桃尻を目の当たりにし、顔を赤らめた。
『まだありますよ。人間の子も赤子のときは、足の指で物を掴んだりします。もう、どういうことかわかりますね?』
「何を言おうと、人間の姿こそ、最終進化なわけだ。お前たちは時間に取り残された生物だ!」
ジンフィーリアは再度、獣人化した。
『人間たちの姿こそ、進化した形態と威張るやつもいるかもしれません。
でも、私たちのほうが身体能力は上です。この目は、貴方たちより遠くまで見渡せます。
この耳は周りを警戒し、危険察知可能です。動物から獣人族と人族に枝分かれしただけで、元は同じなのです。ちなみに、この頭は、法皇猊下より賢いのです。』にっこり
聖職者たちがそうっと法皇を見ると、こめかみに青筋を立てていた。
(((あ、寝たフリ・・。)))
『お知らせは以上ですが、最後に。各国の統治者は、今回の闘いの功労者たちに平等に禄を与えましょうね。ベスティアのために尽力してくれた皆さん、私たちは大変感謝しております。もちろん謝意は、言葉だけではありませんので。我が国を気に入ってくれたのなら、永住も大歓迎です。』
ジンフィーリアは茶目っ気たっぷりにウィンクして映像放送を終えた。
「つまり、法皇猊下は、動物よりだと言いたかったんだよな。」ひそ
「だろうな。普段から獣人を見下しているけれど、恥ずかしいことになったんじゃ。」ひそひそ
(もう、あの芸はやらないだろうな(笑)。)
「女王もやるなあ。世界放送で法皇を思いっきりコケにしたんだから。」ひそ
「猊下の子飼どもが、死んでしまったし、もしかしたら、代替わりも近いんじゃ。」ひそひそ
(猊下は性格が悪く、俺たちにもクソな対応をしてくる。誰に代わっても法王国の未来はよい方向に行くんじゃないかな。)




