141話:エミール周りも生活拠点を移す
[シャング国王の部屋]
「!・・そなたは。」
「ミアーマ女王です。今、結界内で話しております。」
「!」(噂以上の美しさだ。エミールは・・)
「今、人生を振り返っていかがですか。」
「・・ふっ、碌なものじゃなかった。エミールの母親と心を通わせられたことが、一番の幸せだったと言える。もう、何ヶ月も会っていないが。」
そう言って王は涙ぐんだ。
「その体、意図的にその状態にさせられていますね。」
「・・そうか。」
「わかっておいででしたか。」
「心当たりがあり過ぎて、な。」
「代替わりは、王の崩御後ですか。」
「そうだ。」
「今でも良いのでは、ありませんか。前例など無視して。そうすれば、早死にさせられることもありませんし。」
「無理だ、な。」
「柵はありますか。他のお妃様たちは、いかがです?」
「私のことなど、なんとも思ってはおるまい。」
「なら、手っ取り早く、死んだことにしてこの国を出ますか。」
「そんなことができるのなら・・」
「できますよ。」
ジンフィーリアは、王の手に指輪を嵌めた。
「持ち出したい物を思い浮かべてください。」
「何?」
「さあ、お早く。」
「ああ・・・。」
「!」
(驚いた!思い浮かべた物が現れ、指輪に吸い込まれていく。)
「終わりましたか?まあ、足りないものがあったら、また取り寄せればよいのですから。」
「では、行きましょう。念のため言っておきますが、獣人を侮ったら追い出しますからね。」
「無論だ。」
(本当に?私がこの国を出て行けるのか?)
「!(わ、私がベッドに寝ている?)」
ヒュン!
「ここは・・・」
「我が国のあなた用の屋敷です。従業員も雇ってありますから。」
「流石なのだな・・・。転移前に、ベッドにいる私の姿が見えた。」
「ええ。亡くなったと偽装できるでしょう?」
「大したものだ。」
「ふふ。では、エミールのお母様と乳母殿を迎えに行ってきますわ。」
「頼む。」
2人にざっと話し、まず、エミールの母の荷物を収納し王の待つ邸へ彼女を転移させた。
次に、乳母と彼女の自宅へ飛んだ 。
飛ぶ直前、覚束ない身体同士で、2人が吸い寄せられるように抱き合うのが視界に入った。
乳母の荷物を詰め込み、再度転移した。
エミールたちも呼び、目の前で安全牌の希凰桃を一切れずつエミールの両親に与える。
体は健康になり、予想通り若返った。
これでこの人たちは、自由に息をして暮らせるだろう。
王城に残っていたシャング国の者たちには、エミールが帰国するように伝えた。
その足で、国境の外務大臣がいるところへ一行を転移させた。
「首尾は?」
「それが、、、エミール殿下には、ただ帰るようにと言われて・・」
「なんだと!!」
外務大臣たちは、数日そこに留まっていたが、国からの急使が届き慌てて帰国した。
後日、エミールたちは、簡素な国葬風景を中継で見ていた。
元々、シャング国は、死んだ者に金をかけないそうだ。たとえ、王であっても。
今後は、なるようになるだろう。
[国王:ワイルとエミールの母:エリアナ]
「エリアナ、妻である君に会えない王など、なんて情けない者だったことか。」
「ワイル、貴方のせいではないわ。」
「いや、あやつり人形であることを許容し、諦めて生きてきた自分のせいだ。それ故、愛する君に巡り合えたというのに、守ることも出来なかった。すまない。」
「謝らないで。何も出来なかったのは私も同じだわ。それだけでなく、愛するエミール二までつらい人生を課してしまった。どんな気持ちで、このミアーマ国へ向かったことか。」
「『その顔で、女王をたらしこんで、何でも協力させろ。』だったか。」
「ええ。『顔だけ王子』などと酷い呼ばれ方をされて。どんなにか辛くやるせない気持ちだったかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいよ。」
ワイルの顔を見て、エリアナは、口に出してしまったことを後悔した。
(私が無力を吐露することは、ワイルを苦しめるだけだった。王である彼が妻子を守れなかった、と。
私もエミールも事情は重々わかっていた。だから、ワイルを責める気持ちなど全く無く生きてきた。)
「・・ワイル、これからは、エミールは、肩の力を抜いて人の目など気にせずに過ごしていけるわ。
そして、私たちもエミールが切っかけとなり、恩恵を受けたわ。あなたの時間を私が共有できるなんて思っても見なかったもの。二人とも別々に生を終えると思っていた。」
「そうだな。余生をエリアナと過ごせるとは、望んでも無理だと思っていた。」
「ジンフィーリアには、心から感謝してるの。彼女は、とても思いやり深い人よ。私たちの窮状に手を差し伸べてくれた。誰も出来ないことをいとも容易く。」
「うむ。彼女が規格外の存在だと身をもって知った。」
「臣下たちに押し付け婿になることを強要されたとはいえ、エミールのことなど一蹴して終わりに出来たのに。ジンフィーリアにとっては、なんの得にもならないのに私たちをただ、受け入れてくれた。」
「その通りだ。慈愛の女神だ。外見もとても麗しい。夫たちも人間離れした美形揃いではないか。
エミールの顔は、かなりのものと評価されてきたが、上には上がいるものだな。」
「ええ。それにジンフィーリアの夫たちは、個々の能力が高いそうね。互いに嫉妬したり蹴落とそうとすることはなく協力関係にあると聞いたわ。そんな彼らだから、エミールを受け入れてくれたのね。
ありがたい事だわ。」
(女王は、エミールを夫にする気はなかった。だが息子がそれを望んだため、意を汲んでくれたのだと。エミールは、伴侶だけでなく、頼もしい仲間をも得たのだ。)
(この恩をどう返したらいいのかと言った私に、ジンフィーリアは、愛する者同士が何者にも邪魔されることなく幸せになるべきと、その姿を見ることが自身の幸せでもあると言ってくれた。そんな台詞、普通は言えないわ。・・彼女に与えられた時間を大切に生きていきたいわ。)
「エリアナ、愛している。最期の時まで側にいてくれ。」
「ええ。もう離れない。愛しているわ。」




