13話:コテージの設置
もうすぐ別荘へ着く。
(楓、イーグと御者を代わってくれ。)
「イーグ、御者を代わります。中へどうぞ。」
『ギル、イーグすまない。』ゴウルの声に、ジンフィーリアも頭を下げる。
「「!」」
『王都の宿から監視を逃れてしまった。侯爵はギルたちを首にするだろう。』
『すでに侯爵の息のかかった護衛が別荘に居たりして。』とジルバ。
『振り回してしまって申し訳ない、とジンが言っている。』
「覚悟していたから構わない。それに色々と楽しめた。」
『これは、ギルたちへの我らからの報酬だ。』と金を渡す。
「あ、ああ。もらっていいのか?」
『勿論だ。こっからが本題だが、ジン個人に雇われてくれないか。但し、我らがあの別荘を出てからになるが。』
『3人で相談してほしい。そうだな2ヶ月以内に決めてほしい。報酬は今以上を約束する。だが、危険は増える。この指輪をギルに預けておく。OKなら指輪を嵌めてくれ。迎えに行く。』
ギルはその指輪を大事そうにしまった。
「3人一緒でないとダメか?」
『いや、誰か一人でも構わない。』
【侯爵邸にて】
正直驚いた。ここ数年で美しさに磨きがかかっている。
あれほどの美貌ならどこへでも売れる。
平民の金持ちなら、未成年でも気にしないだろう。
最低限で生かしてきた分、見返りが大きいな。フッフッフ。
「何? 宿を出てからの消息がつかめないと?」
「申し訳ありません。」
「旦那様に知られる前に、人を2倍に、いや3倍に増やして捜索しなさい。」
「「「はっ。」」」
ジンフィーリア一行が、キャンデック侯爵領の別荘へ到着した。
「お嬢様ーー!!」
ミリアに抱きつかれる。
執事のロイドは険しい顔をしている。
「帰ってこられないと思っておりました。」
(ふーん、連絡を受けていたか。)
ジンフィーリアは無視する。
ロイドは、ため息をつき、
「護衛のみなさんに話があります。」と今度はギルたちを見て言った。
* * *
楓は別荘から少し離れたところにいた。
別荘よりも森に近い。
この辺りで、これで、いいですかね。
バングルからこぢんまりとしたコテージを出す。
カイ・双子・ナーナ姉妹のための住居だ。
楓は馬車に戻り、御者をしてコテージの前まで来た。
5人に、部屋を好きに決めてよいからと伝える。
ジンフィーリアがコテージにやってきた。
「姫さま、塀を作ってください。」
(高さは、3Mくらいでいいか?)
「はい。」
(素材を集めてくる。少し出かけてくる。)
ジンフィーリアは20分ほどで戻ってきた。
ジンフィーリアが地面に両手をついた。バングルから出すものと地中の物質とを融合させて、コテージをぐるりと塀で囲んだ。
コテージからナーナの声がした。
「え、いつの間に塀が。あれ、これどこから外に出るんですか。」
楓がバングルから門を出した。そして塀に取りつけた。
「あ、門ができた。塀というより外壁ですね。」とナーナ。
「! 外から見ると、レンガ?」
(外側はレンガ調だが、実は全体で一つの石塀になっている。継ぎ目なしだ。)
「では、中に入って皆に説明しますね。ロイドが騒ぐといけないので姫さまはお戻りください。」
(わかった、あとは頼む。)
ジンフィーリアは、ナーナに手を振って別荘へ戻った。
楓は、5人それぞれに7日分の服一式を渡す。
「服はクローゼットにかけておけば勝手に洗浄されます。
では、浴室に案内します。」
「脱衣場です。下着や靴下はこの洗濯機に入れて、最後に入浴した人が蓋を閉めてください。」
「タオルはこの棚です。左から大中小のサイズが入っています。
使ったタオルは、ここへ入れてください。」
「洗濯機には入れないんですか?」
「はい、タオル専用のここへです。」
「お風呂には、いつでも入れます。」
「これが髪を洗う洗剤。そして、これで体を洗ってください。
ここをひねると、お湯が出ます。」
「キッチンは後で一緒に使いましょう。
しばらくはみなさんだけでは外に出ないでください。
悪意ある者は門から入れません。門内にいれば安全です。」
「カイ、足はどうですか。」
「問題ない。」
楓は微笑んで頷くと
「では皆さん、後で。」と言ってコテージを去った。
* * *
ゴウル兄弟、楓、護衛たち、ジンフィーリアが集まっている。
『で?』
「今回の命令違反でクビだと。侯爵家側が選んだ新しい護衛がここに到着次第去れと。」
「報酬はどうなりました?」
「交代要員が来るまで勤めれば出る、とよ。日割りで。」
『へえ、その辺は侯爵もまともじゃあないか。いや、違う、せこいな。』
「そもそも[指示]だったのですから、命令違反でないと申してもよいのですよ。」
『そうじゃん。』
「それを言って、ごねたところでな・・・。」
「決めた! 私たち3人ともこれからも頼む。」そう言ってジンフィーリアを見て、ギルは指輪を嵌めた。イーグとルーイも頷く。
皆でニッコリと笑った。
『胸糞悪いだろうが、侯爵家からの護衛が来るまでこのまま頼む。奴らがきたら獣人族たちの護衛を頼む。暫くは仕事なしと言ったが予定変更だ。頼めるか?』
「ああ。お嬢様と離れるのは辛いが。」
(その獣人たちってどこにいるんだ?)(注 : ルーイ心の声)




