137話:ミーシャ、結婚す
そして、アルフレッドとミーシャの二人は結婚した。
結婚式の準備が整うまで、アルフレッドは、ミーシア国でミーシャのそばにいた。
準備ができたと連絡がきて、ミーシャを連れて国に帰った。
婚約期間などないに等しいものだった。
その強行軍の煽りを受けたのは家臣たちであった。
各方面への調整に追われ、のちに、王太子のせいで寿命が縮んだと泣いていた。
トランド国王は、ミーシア国王に申し訳なく思った。
人質として会えない日々が続いた後、攫うように息子がミーシャ姫と結婚してしまったのだ。
だが、私は素直に嬉しいと言える。
一生結婚しないのではと思っていた王太子が、あろうことか恋愛結婚をした。
王の道は孤独だ。アルフレッドが王になっても幸せであってほしい、と願わずにはいられなかった。
[結婚式後、夜]
「幼い頃から、国の為に嫁ぐのだと覚悟しておりました。
恋愛物語のようには、私を好きになる人も求婚する人もいないと思っていました。
でも、アルフ様が私を望んで下さいました。
諦めていた、『結婚してください』との言葉まで聞くことが叶いました。
私は幸せです。」
(ミーシャなら、政略結婚でも相手の男は大切にするだろうし、愛さずにはいられないだろう。
今は、言わないでおくが。
私が一番に見つけられてよかった。
好きだと告白され、求婚されれば私でなくてもよかったのだろう。そこは悔しいが仕方ない。
私の意を尊重し婚約者を決めなかった父上にも感謝したい。
私の妻はミーシャだけだ。)
「ミーシャ、大切にすると誓うよ。」
(ゆっくりでいいから、私のことも愛してくれると嬉しい。)
実は、ミーシャはアルフレッドのことをすでに結構好きだった。
時が経ち、アルフレッド王太子は父親になった。
子は男の子でレイモンドと名付けた。
マルサ国で、ミーシャ姫の姿を見た者の中に、ブルック国の第3王子がいた。
武勇はそこそこあったが、知性は少々かけていた。
ミーシャ姫は、自分のものだ、いつか取り返してやると本気で思っていた。
ブルック国が、5国の中でも一番の脳筋国であった。
この第3王子ノームが、トランド国のレイモンド王子誕生祝いの席にいた。
周りの目を一切気にせず、ミーシャ妃を見続けていた。
数日滞在している間に見かけたミーシャ妃は、常にレイモンド王子を抱いている。
乳母に任せっきりにせず、慈しんでいた。
「そんなにあの赤子が大事か。」
赤子を俺が拐えば、ミーシャは、俺の元に来るだろう。そう単純に考えた。
方法を考えるのは側近の仕事だった。
レイモンド王子の侍女の一人が、金に困っているのを知った。
侍女を彼女の5年分の給金報酬で裏切らせることに成功し、レイモンド王子をまんまと手にした。
そして、『誰にも言わずに来なければ赤子を殺す。』という手紙を読んだミーシャは、侍女を一人だけ連れて指定された場所へ行った。
ミーシャを溺愛しているアルフレッドが、ミーシャに影の者を付けていないはずがない。
ーー
誘拐犯は逃げたが、ミーシャは無事だった。
しかし、侍女とレイモンド王子の行方がわからなくなってしまった。
この侍女が裏切った女だったが、もらった金は、男に貢いでいた。
男は、金ヅルの女をまだまだ手放す気はなかった。
が、誘拐事情を聞き流石にまずいと思い、女と赤子を連れて国外へ出た。
赤子が王子とは知らなかった。金持ちの息子くらいに思っていた。
金の成る木ではあるが、赤子は面倒くさい。
時が来るまで、どこかに預けることにした。
「おまえはいい女だ。何よりも俺を優先する。」
「あなた様こそ、罪を犯した私と共に逃げてくださるなんて。」
「王宮侍女が誘拐事件に関わっていたらまずいだろ。罪に問われたらどうする?」
(俺に金が入らなくなるだろう?こんな都合の良い女はいない。自分が食べるものに困ってでも俺に貢いでくれるんだからな。もう少し利用させてもらうさ。今回も大金を俺に渡しやがった。
バカで可愛い女だ。ハハハ。)
「おまえならどこででも稼げるさ。また侍女でもやったらどうだ。」
「ええ、探してみます。」
この女は愚かであったが、赤子の持ち物を取り上げてまで男に渡すことはしなかった。




