131話:逆子体操
[夜、ベン邸:夫婦の寝室]
入浴をすませ、寝るばかりの状態で、ララとベン、そしてジンフィーリア。
ララの赤子の状態を目を凝らして視る。
(私のこの眼、魔眼??)
「・・うん、お尻を子宮口に向けている。赤子の背中はララの左側に向いているわ。」
「やっぱり、逆子なんですね。」
ベンがララの肩をそっと抱いた。
「ララ、これから逆子を直すためにある姿勢をとってもらう。15分ほどその姿勢を続ける必要がある。
妊婦には相当しんどい。どうする?」
「もちろん、やります。」
「わかった。今から言う姿勢を保ち、私が合図したら体を右側にコテンとゆっくり倒し、そのまま横向きで朝まで寝て。よい?右側を下にして横向きで寝るの。」
「はい。」
「では、ベッドの上でよつんばいになって。そして肘をゆっくりとつける、そう。そしてお尻を高く持ち上げて。この姿勢を15分、計りはじめるわよ。」
「姫様、もしかして子の性別がわかりましたか?」
ララがピクリと反応する。
「ベン、産まれてからのお楽しみに、とっておきましょう。」
「・・そう、そうですね。」
「ところで、こんな風に呑気に話していると、ベン、あなた、ララに憎まれるわよ、今だけ限定で。」
「え?な、何を・・。」
「ララを見て。お腹の大きい、つまりお腹が重い状態でのあの姿勢は、相当辛く、苦しい。」
姫様に言われて、ララを見ると、涙を流し、鼻水もヨダレも垂れている。苦しそうだ。
「あ・・・。」
「ね、とってもキツイ姿勢なの。」
「こ、ここまでのことを、しなければならないのですか。」
私は頷いてさらに言う。
「ベンのことをお腹の赤ちゃんのことを愛しているから、頑張れるのよ。体には触れずに励ましてあげて。」
「は、い。」
ベンは涙を溜めて、ララの顔を見、「ララ、あともう少しだ。頑張ってくれ。」と励まし続けた。
触ってはいけないと言われたのに、ララの苦しそうな様子に、何度も触れそうになってしまった。
(ララもそろそろ限界ね、12分経過、・・・・・そろそろいいか。)
「ララ、お疲れ様、ゆっくり右に体を。ベン手伝ってあげて。」
ベンがララの体を補助する。
言われた通り横向きになったララは、はあーっと息を吐き、目を閉じた。
ベンに蒸しタオルを渡した。
彼は、優しく妻の顔を拭いてやった。
(このまま、ララと眠って。おやすみなさい。)
(ありがとうございました。おやすみなさいませ。)
「ララ、よく頑張ってくれたね。愛しているよ。」そう言ってベンは私に口づけ、頰を優しく撫でる。
ベンに抱きしめられたまま、いつに間にか眠りについた。
次の日の晩も、この地獄の苦しみ(大袈裟ではない)姿勢を保つ。
(く、苦しいっ。あと何分?)
姫様の合図で昨日と同じ方向に横になる。
「はあ、はあ。」
ベンに優しく愛を囁かれながら眠った。
翌朝、姫様に「上手にできました。」と子供のように褒められた。
「逆子が直っている。ララが頑張ったからよ。」
それを聞いて、ポロポロと涙が溢れた。
ベンに抱きしめられ二人で喜び合う。
「ベン、これをララに食べさせてあげて。」
姫様からお皿を受け取った。
ひと口大にカットされた色とりどりのフルーツが沢山のっていた。
「まあ、美しい。」
「昼食もララと一緒にとって。今日の仕事は午後からでいいわ。
頑張ったララをいっぱい褒めてあげてね。」姫様はそう言って転移された。
(姫様、ありがとうございます。)
「ララ、本当によく頑張ったね。さあ。」と言ってフルーツを口に運んでくれる。
甘酸っぱくてみずみずしくて、とても美味しい。
(とても苦しかったけれど、お腹の子がそれに応えてくれた。
高齢出産は、通常より危険が伴う。少しでも危険を減らして出産に望みたい。)
『あーん』の合間に、愛しているよララ、と言ってくれる。
私は、ベンに食べさせてもらいながら、山盛りのフルーツを一人でぺろりと食べたのだった。
愛しているわ、ベン。
愛しているわ、私たちの赤ちゃん。
あなたに会える日を楽しみに待ってるわ。




