128話:譲位式といたずら
[譲位式]
列国が見守る中、厳かに譲位式が執り行われた。
(次は皇帝の話か。)
(きっと、生い立ちから話し出すだろう。)
(どこの国もトップの話はムダに長い。)
(貧血で倒れたらどうしよう。)
皇帝の長いスピーチが始まると思いきや・・・。
「今までの感謝を込めて。」皇帝が投げキッスをした。
そして、次代皇帝をよろしくね、と言うとすぐに姿を消した。
ぽっかーーーん
「「「「「・・・・・。」」」」」
(((((は?)))))
(え?こ、これで終わり?)
皇帝は、いそいそとパレードの馬車に乗り込んだ。
皇妃は、こんなババア民衆も見たくないはずと不参加。
代わりにジンフィーリアがオープン馬車の後ろに乗せられた。ディーンも一緒だ。
前列は、皇帝、そして両隣には妖精猫の鞠と蓮。
沿道の民が、妖精猫達を見て、驚き、羨ましそうに見ている。
皇帝は、ニッコニコだった。
「鞠や、私の投げキッスはどうだった?」
「う~ん、イケてた、かにゃ?」こてん
へにゃ~「そうか、そうか。鞠の言う通りにしてよかったぞ♪」
(はあー。歴代皇帝の中で一番の奇行になっただろう・・気の毒に。)
「このティアラ、似合ってる?」
「もちろんだ。鞠のための!鞠だけの!この世に一つしかない似合いの・・・毬~何と愛らしい ♡ 」
ぎゅううっ
(暑苦しいやつ。・・さらし者になるのは好かんがこの王冠は気にいった。)
ジンフィーリアは、今日は自ら菓子を投げていた。
民衆は、お姫さまが触れ・投げた特別な菓子を受けとるのに必死の形相になっていた。
争奪戦に勝った者は、もういつお迎えがきても良いと思った。
(コロコロ変わる人間の顔が面白い。ふむ、悪くない。)
女性陣が喜ぶから、投げてあげてと言われ、ディーンも渋々投げはじめた。
しかし、あまりにも反応がよいので気をよくし、途中からは女性限定で、積極的に投げていた。
見知った顔を見かけると、ジンフィーリアは菓子以外を投げながら挨拶していた。
途中で強い視線を感じ、ジンフィーリアはとある建物の2階を見た。
(あーこいつ、私を買った奴隷商人だ。今日も居たのか。)
ジンフィーリアは、そいつがいる窓に向かって石を投げ入れた。
奴隷商人は、ギョッとした。
壁にめり込んだそれを、手下に持って来させて見る。
石を包んでいたくしゃくしゃの紙を広げると、大きな字で『首を洗って待っていろ。滅す!!』と書かれていた。
奴隷商人は、ドスンと椅子から転げ落ちた。
そして、フラフラしながら即座に帰り支度を命じた。
帰りの馬車の中で、ブルブル震えていた。
あの娘の目!・・・恐ろしい。
帰宅すると、豪邸はなくなっていた。
「は?」
「か、火事にあったのでしょうか。」
「ば、ばか!何呑気なこと言ってんだ、灰しか残ってない、明らかにおかしいだろっ!」
奴隷商は、ヘナヘナとへたり込んだ。
燃えかすの中に、看板が立っている、と部下の声が聞こえ、這ってそこまで行った。
『真っ当に生きろ!!次はない!』と書かれていた。
「殺さなくてよかったのですか。」
「実害はなかったから。」
「お宝がっぽがっぽもろたしぃ♪」
「慰謝料っすね~。」
ジンフィーリアのお披露目パレードが終わった直後のこと。
双子を買い、死ぬ寸前だった獣人の青年を連れて行った少女が、大歓声の中、目の前を通り過ぎて行った。
あの青年、そうだ、あいつだ!両腕があった・・・。
あのあと、一切余計なことをしなかった自分を褒めてやりたい。
私を捻り潰すことなど容易い、恨まれてるよな?復讐されたらどうしよう・・・。
恐い、恐い、恐い・・・。
そうだ!今日から、善い奴隷証人になろう、奴隷の扱いを丁重にしよう。
だから、殺さないでくれ・・・。
新皇帝のパレードには、皇子たちも参加した。
開始1時間前になってから、自分たちも菓子投げをしたいとわがままを言い出した。
(あ~、ディーの超モテぶりが羨ましかったのか。)
ジンフィーリアは、シレッと無視した。
慌てて、侍従たちが帝都のスイーツ店の菓子を買い漁ることとなった。
各店は、うれしい悲鳴を上げながら用意した。
金を落とすことは、よいことだとジンフィーリアはその様子を傍観していた。
パレード中は、主に黄色い悲鳴が上がっていた。
フィリア邸のメイドは、結局フィリアの眷属で固められた。
メンバーは、牡丹を長としたスラメイドたちだ。
フィリア領では、主要スライムの分身体がメイドをするので、諸々便利であった。
ベンたちも、徐々にフィリア領を公私ともに、メインの拠点とすることになる。
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<数ヶ月前>
[孫娘に会えない皇帝]
皇帝は早くフィリアに会いたかった。
でも、会わせてもらえない。
礼儀作法を気にしているらしい。
本人や周りが諸々の立場を考えてのことだから仕方ないとは思う、でも、早くリリの娘に会いたい。
皇帝ってつまらないな・・・。
<鞠と皇帝>
鞠の言う姫さまがわからない皇帝。
「鞠はいつもかわいい服を着てるね。」
「ありがとにゃん。全て、姫様の手作りにゃん。」
「姫さま??」
「そう姫様にゃん。」
「ケインって子が姫さまのこと不細工って言ったにゃ。
だからそう思われると思うと姫さま人前に出られないにゃん。」
「それはけしからんやつだ。」
「姫さまは、最近まで目が見えなかったにゃん。」
(ん?どこかで聞いたような話。)
「姫さまは、美醜の感覚がわからないにゃん。
だから自分のこと、不細工と思ってるかも〜。」と小首を傾けて可愛く言う鞠を皇帝は思わずハグした。
「では、実際は、美しいのだな?」
「う~ん?鞠は姫さが大好きにゃん。」
「鞠の言う姫さまは、どういう存在なのだ?」
「鞠たちのあるじなのにゃ。
鞠たちは姫さまの作った世界とこの世界を行ったり来たりしてるにゃん。」
(世界を作った?創造の女神のことか?)
「ケインって子が姫さまのこと、平民て言ったにゃん。」
「ケインが姫さまのこと、不細工って言ったにゃん。」
「ケインってやつが姫さまのこと山猿(※)って言ったにゃん。」
(※)(実はラースのことを言ったのだが、ジンフィーリアを指しているようにも見えた(笑))
鞠の言うケインって誰だろう?と皇帝は思っていた。
鞠は、ケインという名を皇帝に刷り込んだ。
そして、お披露目の日、鞠が指差して
「あいつがケインにゃん。」と言った。
「・・あの者は!」
「ケイン、不細工と言ったのか?」
「ケイン!平民と言ったのか。」
「ケイン!!山猿と言ったのか。」
「はい、言いました!申し訳ございません。」
「今の3つのうち、どれを言ったのだ?」
「・・・全部です。」
ゴゴゴゴゴッ「・・・。」
(ひいっ・・・。)
ケインはたしかにそれを発言した。
皇帝はフィリアに直接言ったと思っている。
(ディーンが大事にしてる側近故・・・。)
ビクビク(・・・。)
「はあー・・・本人に謝りなさい。」
「はい!すぐに!!」
ケインは、ライルとクリスとラースに謝った。
そして。
「あの、ごめん!サールとは、もう呼べない。」
「・・・そう。」にっ
(笑)(笑)(笑)
「鞠、楽しそうだな。」
「漣も楽しみを見つけるといいにゃん♪」
(日々、楽しいよ。この世界も悪くない。)




