127話:披露目パーティーは続く
給仕が一人近づきヒス妃様からです、とメモのようなものを渡した。
ディーは舌打ちし、「仕方ない、ケイン頼む。」と言ってどこかへ行ってしまった。
すると、こちらに近づいてくる令嬢たちがいる。
友好的な用ではないわね。
派手な髪飾りを付けた令嬢に誘導され、ジンフィーリアはバルコニーへ向かった。
ケインに、ついて来ないでと言うと、ディーンに頼まれているからと言う。
ならば、黙っているだけならよいわという私に、彼は頷いた。
髪飾り令嬢が挨拶して、後ろの8人を紹介された。名前を覚える気はない。ドレスの色で区別しよう。
私の役目は終わったわとばかりに、8人を残し彼女は立ち去った。
(ヒス妃様の・・)
(言わなくてもわかるわ。)
(・・お手柔らかに。)
令嬢たちが不躾に見てくる。
「ご挨拶いただきましたので、私はこれで。」
赤「お待ちください。私たち、あなた様にお話があります。
「そうですか。お好きに話してくださいな。ここには目も耳もありません。」
赤「・・では遠慮なく。」そう言って隣の令嬢に顎で合図する。
青「陛下にねだって、ディーン様との婚約をとりつけたそうですわね。断れない状況に追い込むなんて
卑怯ですわ。」
そうだ、そうだ、と誰かさんたちの心の声が聞こえるようだ。(笑)
「(はあー。)何が言いたいの?」
黄「即刻、無理やりの婚約を取り消して。
「確かに、陛下からも話があったそうですが、皇太子殿下が勅命にしないようにと仰ったと聞いております。」
赤「やはり、皇太子殿下も反対なのね、ヒス妃様の仰る通り。
「此度の婚約は、双方同意の契約です。ディーは、いつでもこの契約を取り消すことができます。」
「なに愛称呼びしてるのよ!!」
(はあー、面倒ね。)
「貴女達は、ヒス妃様のお気に入りなのね。」
「「「そうよ!!」」」
「個人的意見だけれど、お気に入りの方が結婚するといいと思ってるわ。でないと息子大好きの姑にいびり倒されるわ。」
思うところがあったのだろう、数名が青ざめて下を向いた。
桃「ちょっと、不敬ではないの!」
「あら、これは一般論よ。ヒス妃様は公平な方と聞いたわ。誰に対しても変わらぬ態度で接する方なのでしょう?」
赤「・・だ、誰がそんなことを・・・。
「皇太子殿下とディーよ。」
(((((!)))))
(あああ、ジンフィーリア嬢・・・。でも実際、ディーンが結婚、となると面倒なことになりそうだ。
俺にもとばっちりが来るかも?)
「今は私に目が向いているでしょうが、私がいなくなれば、次の人が同じ立場になるだけよ。
ディーとの結婚を望むなら、本当に大丈夫?と自分の心に聞いてみたら。」
紫「ど、どういう意味?
「私をこのまま、贄にしておけば、誰かさんの私に対する仕打ちを目の当たりにするでしょ。
ディーとの結婚といびられ続ける自分とを秤にかけて、耐えられそうなら結婚すれば?
息子の妻は、自分が用意した令嬢であろうと、結局は、気に入らないのだと思うわ。」
(((((・・・・・。)))))
「私は、ディーからの契約破棄をいつでも了承します。喉が渇いたから失礼するわね。」
ジンフィーリアは、バルコニーをあとにした。
「一体、どういうこと?」
((・・・。))
「あの、なんとなく、あのご令嬢はディーン様との結婚の意志がないような・・。」
「契約と言っていたわね・・。」
(((・・・。)))
「言う通りにするのも癪だけれど、静観するのもよいかもしれない・・。」
全員一致で、ジンフィーリアは生贄のヤギとなった。
(結婚しないから、何を言われても問題ないの~。)
ワインが美味い。
「大丈夫でしたか?」
「ふふ、ノワたちったら、私があんな小娘たちにどうこうされるとでも?」
(小娘って、姫様の方が年下でしょうに。)
「貴方達も何か食べたら?残念ながらお酒はダメだけれど。あ、こっそり収納に入れちゃいなさいよ。
どうせ残ったら捨てるのよ、勿体無いわ。」
(騎士がいやしい真似をできるわけが・・。)
(だが!確かに勿体ない。)
「フィリア領には、貴方達の邸も用意するわ。」
「! ありがとうございます。」
(ベン、予定通りよ。ノワの邸の執事等使用人の手配を早急に頼むわ。)
(はい、皆で見ておりました。もう候補はいるので決めるだけです。)
(ふふ、さすがベンだわ。)
「ジンフィーリア嬢は、ディーンのこと、全く眼中にないのですね。」
「ケイン、その呼び方面倒臭いでしょ、猿と呼ぶことを許すわ。」
「はい?・・よ、呼べるわけが。」
(急になに言い出すんだ??)
「なら、サールは?」
「そ、それなら・・いえ、やはり無理。」
「今後、サールと呼ばなければ、返事しないから。」
(((ブフォッ)))
「っ・・な、なんで。」
「じゃ、そういうことで。それにしても、誰もたかってこないわね〜。
私のこと疑問だらけだと思うのだけれど。」
(自覚はあるんですね・・。)
(たかるって、ハエに集まるうんちみたいにゃん。)
(まあ、鞠。陛下とのパレード頼んだわよ。蓮もね。王子様とお姫様仕様の衣装にしたわ。ティアラと王冠も付けるのよ。)
(わかってるにゃん。パレードはどうでもいいにゃん、ティアラが楽しみにゃ〜。) (・・了解だ。)
「・・サ、サール。」
「なあに?」ケインににっこり笑う。
(っ!・・・。)
「ディ、ディーンのあの顔に心が動かない(惚れない)者はいないと思うんですが。」
(ディーへの評価が一番なのね。)
「ふーん、では貴方がディーと結婚したら?」
「なんで、そうな「なにをふざけたことを!」
「ディー、お帰りなさい。もう用事はすんだの?」
「ああ・・。それより、ケイン、おまえ・・。」
「ご、誤解だよ。ジンフィーリア嬢もなんとか言ってください。」
ツーン。
「サ、サール?」
「ディー、そう冗談よ。」
「サール・・って?」
(あ、まずい。)
「私のあだ名よ。」
ディーンがケインを睨んだ。
「まあ、ディー。何よりあなたを大事に思っている人に向けていい目ではないわよ。」
(だ、誰のせいだと・・・。)
舞踏会の後半、ダンスを披露するため、ジンフィーリアとディーンはフロア中央に向かった。
ジンフィーリアがダンスを苦手としていると聞いている貴族たちは興味津々。
見守るように暖かい目で見ているもの、意地の悪い目・厳しい目を向けているもの、
少しバカにしたような目で見つめている者達の中でダンスははじまった。
ディーンは、婚約者に恥をかかせないようリードするつもりだった。
フタを開けてみれば・・・。
ダンスが終わり、惜しみない拍手が送られている。
ディーンのダンスの腕前は、上の下といったところ。
ジンフィーリアのダンスは見る者を惹き付ける素晴らしい出来だった。
マリアが満足気に頷く。
「フィー、君、ダンスが苦手だと・・。」
そのセリフは、周りの貴族たちにも聞こえた。
「確かに、苦手、好きではないの。でも、踊れないとは一言も言っていないけれど?」
(((そうですねー・・・。)))
眷属達とあれだけ軽快に踊れるジンフィーリアが、社交ダンスが下手なわけがない。今更気づいたディーんだった。
ディーンは、負け惜しみ気味に、
「一つくらいできないことがある方が可愛げがある。」とぼそっと呟いた。




