122話:蜜の味?
[カンタベル公爵邸]
ノワを筆頭に5人の影たちが、ライルに呼ばれた。
「改めて、フィリアの命を救ってくれたこと、心より感謝している。」
「ライル様、もう十分にございます。それに私たちはただ役目を果たしただけです。」
「そうか。(ありがとう。)早速だが、フィリアの祖父・皇帝陛下より、代表してノワに褒賞が与えられる。公の場にて、だ。」
「!・・獣人の私に?」
「「「「!!」」」」
「ノワは、帝国の男爵位を賜ることとなった。但し、領地はなく邸と俸禄が与えられる。」
((((( !!!!!)))))
放心状態のノワたちにライルが続ける。
「これは、獣人たちの地位向上の第一歩となる。
獣人に対し差別意識のある者とその現状を諦めている獣人たちの意識改革に繋がる。
ノワは、獣人たちにとっての期待の星になるとともに、反獣人を掲げる者の矢面に立たされる。
辛く苦しい道のりだ。ノワの一挙手一投足が注目され、息が詰まるかもしれない。
それ故に、通常はあり得ないことだが、ノワは断っても構わない。その場合は、報奨金だけ出て、
陛下の前に出る必要はない。5人で相談してほしい。」
(ライル様は、なんと仰った・・・?)
ーーー
ノワたちは邸に帰った。
しばらく5人は無言だった。だが、一人が話し出すと次々に声を上げた。
「・・ノワ、爵位を受けてくれないか。」
「俺からも頼む。こんな話、もうないかもしれない。いや、もうないだろう。
獣人でも貴族になれるということを他の獣人たちに見せてやってほしい。」
「俺たちも協力する。支えるから頼む。」
「きっと、いや、間違いなく姫様が関わっている。姫様は獣人のために事を起こそうとしている。
俺たちは協力・・・仲間に加わるべきだ。」
「・・・姫様と一蓮托生か。元より断るという選択肢はなかった。」
(((( !))))
「では、ノワ・・・。」
「ああ、どこまでやれるかわからないが、姫様の計画の一端となろう。」
譲位式を目前に控えた頃、貴族の間では、とある令嬢の噂話でもちきりだった。
「カンタベル公爵の令嬢が見つかったとか。」
「だが、なぜわざわざ大々的にお披露目など?皇女というわけでもあるまいし。」
「噂では、市井で平民として暮らしていたらしい。陛下としては、譲位前に令嬢の立場を確固たるものにしたいのではないか。侮られぬよう。」
「ああ、陛下は令嬢の母上のリリアンヌ様が大のお気に入りであったからな。」
「それにしても、貴族令嬢の立場でパレードまでするとは、前代未聞じゃないか。」
ーー
「お聞きになりまして?長らく行方不明だったというカンタベル公爵のご令嬢が見つかったとか。」
「噂では、カンタベル公爵の血を引いていないとか。」
「まあっ。リリアンヌ様は誘拐されたのでしたわよね、では、その時に?いやだわ。」
「それでも自分の娘として引き取るなんて。お優しいんですのね。」
「リリアンヌ様を大切にされていましたからね。それに公爵家にはもう跡取りのジール様がいらっしゃいますし。」
「その見つかったご令嬢ですが、平民として暮らしていたそうですわ。」
「ええ、私も聞きましたわ。なんの教育も受けていなくて、読み書きもできないとか。」
「どなたかが、山猿のようだと。」
「慌てて、教育を受けさせたようですが、付け焼き刃では、ボロが出ますわよね。」
「特にダンスが苦手と聞きましたわ。」
「人前で、踊りたくないと言ったそうですわね。」
「まあ、ダンスは貴族令嬢として、基本中の基本ですのに。」
「カンタベル公爵も恥ずかしい方をお引き取りになったのね。」
「公爵家の品位が下がるのではなくて?」
「それと、これは内緒なのですが。その令嬢の婚約者に皇太子殿下の第3皇子殿下が決まったそうですわ。」
「「「!」」」
「それは本当ですの?」
「ヒス妃様とディーン皇子殿下が断ろうとしたら、皇帝陛下がごり押しなさったんですって。」
「まあ、そんな滅多なことを、不敬になりますわ。」
「ほほほ、そうですわね。でもこれ、ヒス妃様からお聞きしましたの。」
「すべて、真実、ということですわね。」
「それは、まあ、山猿のような、知識もなく礼儀もなっていない娘では、私だって息子の嫁にはしたくありませんわ。」
「そうですわよね、同情いたしますわ。」
「ほんと、お気の毒ですわ。父親が何処の馬の骨かもわからないんですもの。」
「拐かされた時のお子であれば、父親は犯罪者なのでは?」
「まあ!そのような者が、第3皇子殿下の?」
「13歳だそうですから、誘拐された時、で間違いないのでは?」
「その令嬢のお披露目では、一波乱ありそうですわね。」
「ヒス妃様も黙っておられないでしょうし。」
「あの方、リリアンヌ様のこと嫌っておいででしたわね。」
「ディーン皇子殿下も、ずっと婚約者はいらないと仰っていたのに、まさかそんな娘を押し付けられるとは、同情いたしますわ。」
「ヒス妃様としては、公の場で、息子にはふさわしくない娘だと知らしめたいようですわね。」
「面白いことになりそうですわね。」
「まあ、不敬ですわ。でも本音は、私も楽しみでたまりませんわ。」
貴族のご婦人たちは退屈しており、『人の不幸は蜜の味』状態であった。




