107話:雑談、ではない
[夜、ローの居室にて]
「ねえ、ロー、具合が悪いんじゃ。」
「よくわかるね・・。」
「そりゃ、ローのことだもの。」
(ああ、嬉しいな。大切な人が気にかけてくれる。これを幸せと言うのかな。)
「あの輩たちによるストレスのせいだと思うんだけれど、腸に穴でも開いてるのかな。はは。」
「あのね、母方のお祖母様が同じような症状で。ローは、それ以上すすんでいるわ。
自分でもその顔色から、気づいているんじゃない?ローなら知っているわよね。せーの!」
「「沈黙の臓器!」」
「・・このままだと死ぬわよ。」
「リアに会えたから、もう死んでもいい。」
「なんだと!!」
「き、急に・・ビックリした。嘘だよ。前世より1日だけでもいいから長く一緒にいたいよ。
クロウにも会いたいし。」じわっ
二人とも、静かになった。想いは一緒だろう。
「凰桃のこと、覚えてる?」
「勿論。あの木がきっかけで、えーと今は珍界だったね。その珍界を閉じ込めることができたんだよね。」
「まあ、そんなところよ。
今日ギルドに卸した回復薬はその凰桃を液化したものなの。そのまま食さないと効果が下がる。劣化するのよ。」
(なるほど、効果がやんわりなものを納品したってことか。・・と言っても、この世界には充分な需要があるよね。)
「でね、じゃーん、これ!なんと稀凰桃。」
「もしかして・・。」
「そう!私が覚醒したのが丁度実をつけはじめた頃で、超ラッキーだったの。
お祖母様は一切れ食べて治ったの。そして若返りと魅了を手に入れていたわ。」
(若返り・・。)
「まだ判断材料が足りないけれども、病気なり状態異常なりを治して、余力があると
他にも何かギフトをサービスしてくれる実。100年に1個しか実らない。
そうね、ローは死にそうだから、2切れ食べて。」
「そ、そんな貴重なものを貰えないよ、とは言わない。ありがたく。
・・・瑞々しくて美味しいね。」
ローの体が光った。やはりあの臓器部分の光り方が強い。
「ロー、あなた・・。」
ローの手を引っ張って姿見の前まで来る。
「!」
「『外見は永遠の16歳!中身はおっさん!!』てとこかしら。」
「これは・・・外出できなくなったんじゃ。」
「ストレスがなくなったら、憑き物が落ちたようにスッキリして、って言えば大丈夫よ。」
「そう、かな・・・?」
「なんだか、紫色の神父服を作りたくなったわ。似合いそう♪」
「着ないよ・・・。」
「結婚式の時は、白装束よね・・・。」じーっ
「ん?どうかした?」
「永遠の16歳。」
「うーん25歳くらいがよかったな。若いからと侮られそうだ。」
「この若造が!って言われるのよね、32歳のおっさんなのに。」
「・・・あのね。・・まあ、いいや。」
「衣装作るわ。じじい用がクローゼットに入ってるけれども。」
「じじ・・。」
「でもね、若者が地味な装いをしても、結構品が良いのよ。
ローのその顔ならなんでも着こなせるわね。
どれどれ・・ギフトは、絶対防御・追尾反射[極]か。私と重複してるじゃない。新しいものを見たかったわ。」
「俺向きだね。」
「(俺・・。)そうね。攻撃したくないローにはいいと思うわ。呪いも跳ね返すだろうし。
でも[極]が気になるわ。もし10倍反射だったりしたら、ちょっとローを殴ろうとした人が絶命するかも。」
「恐いよ・・・。そのうち検証してみるかな。人以外で。・・リアの魔法はどんなのがあるの?」
「前世からの創造魔法は、チートっぽくて便利でしょう?名付け機能が加わったくらいかしら。
時空魔法は、収納、そして魔導具を作る時に創造魔法と連動させてるわ。
珍界はハッキリ言って独り立ちしてる。
防御は防衛魔法までもっていくことを望み、叶ったと思うわ。」
「防衛魔法?」
「まあ、簡単に言うと、国一つ丸っと守れるわけ。」
「・・・・・。(以前、不安定とか言ってたけれど、全く心配ないようだ。)」
「あとは飲食物に使ってるわ。召喚魔法も覚えたの。」
「ん?飲食・・どういうこと?」
「時空魔法をワインや古酒の熟成に使って何十年ものと詐欺。
召喚魔法で、目の前の蛇から骨だけ召喚して骨取りができる!」
「なんというか、すごいんだろうけれど・・・。」
(使用者が少ない魔法を便利に使ってるなあ。よいのか?)
ジンフィーリアは、腰に手を当て、ドヤ顔をしている。
(美少女はどんな表情をしても、様になるんだ。)
「それで、あの時、何を望んだの?」
「望みすぎたと思ってる。」
ローガンは、続きを促した。
「簡単に言うと、クロウが私たちの元を去ってから手に入れた魔法の底上げと、魔力量無限、そして何よりも重要な『金』無限!しかも、あらゆる世界の通貨で取り出せる。そして世界言語理解(読めて話せる。)」
(『世界』をどのように捉えてくれるのかわからなかったけれど、うまくいったと思う。得意の曖昧言葉。)
「あとの望みは、内緒。」
「俺にもかい?」
「ふふっ。」
(ちょっと淋しいけれど、まあいいか。)
「俺もつくづく世の中、金、と思う。」
「そう、あれば、大抵の望みは叶うから。」
「この世界だったら、簡単に暗殺依頼もできるしね。」
「神父が物騒なこと言うじゃない。」
「自分に力がないから、他者の力を借りたいと思ったことがあったな、と。
殺すのは簡単で、守ることのほうが難しいんだ。」
「「・・・。」」
「私たち、今生は、きっと守れる。」
「うん。(そうであってほしい。)」




