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104話:ローガン神父(ジェイ)


ひと月程前に、唐突に思い出した。




「記憶をもらえば、ジェイが空っぽになってしまうのでは?そんなの恐い、いらない。」

とジャスティンは言った。


私は、そんなことにはならない、と言って、強引に了承させた。



故郷の話、歌、特に料理を気に入ったようで、よくせがまれてはレシピを教えた。


私は何も持っていなかったけれども、何か、彼に残したくて記憶を渡すことにした。




私が逝く3年前、クロウが殺された。


即死ではなかった。

わざと、ほんの少しだけ、クロウは生かされた。

ジャスティンの目の前で死なせるために。


クロウを救うには時間が足りなかった。


時間があっても自分にできることはなかった、とジャスティンは力なく言った。




ジャスティンは、自分の命を対価に救おうとした。


しかし、死にゆくクロウが「悔しいよ。強くなって代わりに仕返しして。また二人に会いたい。」と言ったのだ。


ジャスティンは「叶えよう。」とだけ言った。




すぐにでもクロウを追うつもりで、彼は求める力と対価を吟味しだした。



「もうすぐ私の寿命は尽きる、お願いだそれまで一緒にいてほしい。」と私は彼に懇願した。


差し出した対価は変更がきかない、より力を得るため、時間をかけて熟考すべきだとも彼に言った。



彼は、私の願いを聞いてくれた。



その後、私は3年も生きた。自分でも予想外だった。



私にはその時、前世、前々世の記憶があった。2回の人生とジャスティンたちに会うまでの人生も似たようなものだった。


何かを成すでもなく、生きて、裏切られ死ぬ。そんな私を他人は惨めな人生だ、哀れだと笑うだろう。


自分でもそう思っていたから、死に場所を求め彷徨い、そして、彼らに会った。


それから死ぬまでの数年が、全人生の中で一番幸せだった。

クロウを失ったジャスティンの穴は、私では埋められなかったが。




最期の時、私は彼に謝罪した。3年も生きてしまったからだ。


彼は、そのおかげで他の魔法を覚えることができた。むしろ感謝していると言ってくれた。


転生後、即使用できるよう収納に入れてあるとも言っていた。



イレギュラーが起き、自世界が手に入ったのは行幸だ。

あの時、ジェイが死ぬのを止めてくれたからこそだ。だから、ありがとう。


謎は多いけれど、面白い空間だよねと言って笑った。




「私たちの愛するクロウは先に逝ってしまった。そして私も先に逝く、すまない。


幸せだったよ。来世はもう少し長く一緒にいたい。


約束通り私の記憶をもらってほしい。」




(不安定で中途半端な力だけれど、少しでも強化して来世に備えるよ。


クロウは記憶を保たずに転生するだろう。


ジェイなら、見つけてくれるよね?


愛しているよ。)




ジャスティンの声が聞こえた気がした。






* * *



<ローガン神父>



ただの古い教会がいつのまにか孤児院と認知されてしまった。


気の毒に思い、一緒に孤児と暮らしているうちに、孤児院と勘違いした者が教会の前に子を置いていく。


数人捨て置かれていた日もあった。



短期間に孤児の数は11人となり、今朝見つけた赤子の捨て子で12人となった。


生活は決して楽ではない。


そして、この狭い土地を売れと強要してくる輩がいる。



孤児の中に獣人の子ケイジがいる。酷く傷ついており、人間を信用していないようだ。


それでも一緒に過ごすうち、他の子供や私に対しても情のようなものをもってくれたようだ。


本人はその感情に戸惑っているようだが。



そんな時、例の輩が教会の扉を斧で切りつけ、屋根にも穴を開けた。


建物を壊す気だと思った。


するとケイジが飛び出して行き、教会を破壊しようとしている奴らに蹴りを入れた。


怒った奴らがケイジに暴力を振るった。

私が止めに入ってもまだケイジに殴りかかろうとしてくる。


機転をきかせた子供たちが、助けて!殺される!と叫んだ。

その声に人が集まってきたので、奴らは悪態をつきながら去っていった。


ケイジはまた心を閉ざしてしまった。



そして、数日後から、子供の声がうるさい!と再三苦情を言ってくる人たちが現れた。


商業ギルドの紹介でここに越してきたらしく、ギルドにも文句を言っているようだ。



嫌がらせ行為をする輩のバックに伯爵家がついていると教えてくれた人がいた。


それで、なるほどと合点がいった。

両親から話を聞いたことがある。

ただの逆恨みだった。そして息子の私はさらに無関係だ。


教会を壊そうとするなんて、どうかしている。


人の業というものは厄介だ。



別の場所に移動できたとしても、きっと私を探し出し同じことが起こるだろう。


無力だと嘆いていたジャスティンを思う。


泣きそうだ。体調も思わしくない。

少しずつ命を削られているように思えてくる。



私が居なくなったら、子供達は路上生活者になるのではないか。

受け入れ先がないから、私の教会に連れてこられたのだろうから。


どうしたらいいのかわからない。


そんな気持ちで赤子を抱いていたからだろうか、急に、火がついたように泣き出した。

私も一緒に泣いていた。



赤子を外に連れていこうと教会を出たところで、私は出会った。

ジャスティンと縁ある者に。


縁者たちは新たな名を求め、そうして、ジャスティンが名付けたのだった。

私の影響を色濃く受けた彼が付けた名前。



私が思わず「楓」と呟くと


「どちら様ですか?」と。



私が残念に思っていると、彼女はさらに「お二人のうちどちら様ですか?」と聞いた。


「!・・ジェイだ。」


楓は「ひ(め)、、あるじ様が喜ばれましょう。」と言ってくれた。



ジャスティン!会えるのか、近くにいるのか?



楓から、ジャスティンがこの教会の現状を知り、教会用に土地を購入した、と聞いた。


私が何者かもわかっていないのにだ。



今は、その土地に行っているがすぐに戻ってくると。



そして教会の隣の土地も買ったらしい。朝はなかったコテージが建っていた。



楓には、私のことをジャスティンに言わないでくれと口止めした。


彼の驚く顔が見たい、再会を喜んでくれるだろうか。




子供が、隣に越してきた人が挨拶に来たと知らせにきた。



ああ、ジャスティンなのか、会えるのか。


落ち着かない心をもて余しながら、向かう。




な・・この美少女は・・


あ、ああ、間違いない、ジャスティンだ。



私がわからないのか。構わないよ、私がわかるから。



彼が私を認識した。

私たちは、抱き合って泣いた。


以前の彼は、こんなに感情をあらわすことがなかったように思う。



彼から驚くことを聞かされた。

眷属たちにも言っていないという。


だから、私がわからなかったのか。



クロウを見つけられるかは、私にかかっている。


絶対に、見つけてみせる。





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