09話:獣人3人が一行に加わる
「それでその期限なのですが、後もう少しで約束の時間になります。」
「あら?それは・・・。」
「お客様は運が良い。お売りしましょう。」と下卑た笑みを浮かべた。
「待ち人は来ないと?」
「一介の騎士では金を用意できないでしょう。おっと、これは口が滑りました。」
「そのやんごとなきお方が用立てるのでは?」
「それであれば既に取引完了していることでしょう。公私混同できないお立場の方なのです。」
(ふーん、税金で食ってる王族ってとこかしら?)
「で、いくら?」
オーナーは契約書を見せる。
現在のバングルから引き出せる金は無制限ではない、だが楓だけの金で十分事足りた。
「おそらく、もう少ししたらその待ち人が来るでしょう?お金を用意できなくても。」
「?そうでしょうな。」
「だったら大騒ぎになる前に私に売った方が良いわよ。勉強しなさいよ。」
オーナーはしばらく考え、ではこの金額でどうでしょうと提示した。
「もう一声。」
もうこれ以上は無理ですな、と言った金額を見ると最初の額から3割減だった。
「契約成立ね。」
「ありがとうございます。」
双子の獣人奴隷が連れてこられた。不安そうにしている。
メープルは、オーナーの指示で契約書と二人の肩口の奴隷紋に血を垂らした。
いつの間にかジンフィーリアが店内に入っていた。慌てた様子のギルが追いかけてきた。
双子たちが「兄ちゃんが」とか細い声で言った。
迎えにくる獣人のことかと思ったが二人は店の奥を見ていた。
ジンフィーリアがスタスタと奥へ進んでいく。
「あ、お待ちください!」
オーナーや店員の声は無視して突き当たりのドアを開けた。
薄暗く、ムッとする臭いが立ち込めていた。
左奥にカーテンで仕切られた場所があり、ジンフィーリアがそこに向かい、カーテンを開けると檻の中に人らしき者がうずくまっていた。
メープルが照明魔法を使う。
ジンフィーリアたちは、あまりの惨状に息を飲む。
そこに居たのは、獣人で、ハッ、ハッと浅く息をしていた。
左腕はなく、両足は膝から下が潰れていた。
とても不潔な状態で置かれており、傷口からだろうか?腐敗臭もした。
食事もさせてもらっていないのだろう。
肉が削げ落ちやせ細っていた。
メープルが振り返り、オーナーを見た。
「どうしてこんな状態に?」怒りの篭った目で睨みつけた。
オーナーが目を伏せ黙っていると、代わりに店員が口を開いた。
「反抗的な奴隷でして、ここで少し躾をしていたのですが。益々反抗的になり、奴隷紋の縛りさえ無視して店のものに手をあげたので、その・・・。」
「歯向かわれたとの怒りに任せて、ここまでしてしまった、ということかしら?」
「この人、貰っていくわね。」
「え、いえ、それは困ります。」と店員。
だがオーナーは店員に契約書を持って来いと言った。
契約書の金額欄は空白だった。
「死ぬのは時間の問題ですよ。」
「構わないわ。私は薬の研究をしていてね、実験体にするわ。」
「!!そ、そうですか。」
メープルは檻の鍵を開けさせ、契約書と奴隷紋に血を垂らしたのはジンフィーリアだった。
どこから出したかわからない布に彼を包み、メープルが抱き上げた。
去り際にメープルが「良い買い物ができたわ。また来るわ。」と黒い笑顔で言った。
オーナーたちは、顔を引きつらせていた。
双子の相手はゴウルがしており、既に馬車の中にいた。
少し馬車を走らせ、奴隷商からの追っ手がないことを確認し馬車を停めた。
双子は女の子でマミとミミ、酷い状態の獣人はカイという名だった。
獣人たちには既に洗浄魔法がかけられ、双子はメープルが用意した可愛らしいワンピースに着替えた。
そして食事中だ。
誰もとらないからゆっくり食べなとゴウルが言っている。
その間にカイを診る。
手当がしやすいようにカイには浴衣を着せた。
着替えさせるときに身体中チェックした。
性のはけ口にもされていたようだ。
「姫さま、やはり凰桃は出せません。」と言い、透明度の高い青色の液体をの入った瓶をジンに渡した。
ジンはそれを口に含み、カイの上半身を少し起こし、喉を見ながら飲み込みを確認しつつ少しずつ口移しで飲ませた。
余談だが、それは人助け風景のはずだがひどくエロかった。主にジンフィーリアの唇が。
(ああ、お嬢様の初めてを見ているんだ俺。いいなあ、何度もチューしてもらえて、こんな美少女に。)
しばらくするとカイの体全体が青色に光り輝き、即収束した。
「「なっ!」」と大声をあげた護衛たちは、
『病人の前では静かにな。』とゴウルに諭された。
欠損した腕は生えなかったが、潰れた足も酷く傷つけられた部分も修復された。
スースーと穏やかな寝息に変わった。
あとは食事と心のケアに気を配ればよいだろう。
私といることで、楓にも影響が出ている。収納の共有部分に制限がかかってしまっている。
「先ほどの薬はポーションの類か?」
『そうだ、あの半分の量だけを使うとゆっくり傷が治るのが見える。かなり、えぐいぞ。』と言ったので護衛たちも双子も青い顔をした。
と、そこへいつの間にか出かけていたらしいジルバが現れた。
(今、ドア開いたっけ?)(もう、今更だろう?)と護衛たちがヒソヒソ。
『わかったぞ、双子の同郷人はこの国の第2王子の近衛騎士だ。名をテックと言う。』
「さすが、ジルバ!」
『双子たち、テックで合っているか。』
「「うん。」」
ジンは便箋を取り出し、サラサラと書き、最後にジンフィーリアとサインをした。
ジルバはその封書を受け取りまた出かけていった。
【奴隷商館】
「オーナー、あんなきれいな女を見たのは初めてです!」
「どっちのことだ。」
「勿論、金髪巻毛の金眼娘の方です。あの娘がいなかったら、黒髪美女に目が張り付いたとは思いますが。・・希少価値がありますよね、あの眼!」
そう、あの娘、金の瞳だった。
それにしても、なぜ、一言も話さなかったのだ・・?
あの唇から発する声は、天上の調べか、はたまた男を誘う・・・




