第2話 ウィリアム博士の研究
司祭様は俺の胸を凝視しながらこう言った。
「そうじゃ。呪いとは相反する祝いの力ゆえに儂ではどうにもならん。その蛮族をよく調べてみろ。そこに鍵があるじゃろ」
……なるほどな。祝いだかなんだかしらんけど、蛮族のシャーマンの特殊能力ということか。
「司祭様、ありがとうございます。これはお礼です」
俺がそう言ってお礼の入った小袋を渡そうとすると、いらないというジェスチャーをする。
「冥土の土産にいいものを見せてもらった。お礼などそれで充分じゃ……」
司祭様はそういうと奥に入っていった。
呪いを見るとかいって胸凝視してたのはただの男の性だったか……と思いつつ教会を後にした俺は図書館に向かう。
蛮族について調べるとしたら図書館しかない。
30分ほど歩いて赤いレンガ造りの図書館に辿り着く。そのまま中に入ると数人の人間はいるが、皆シーンと静まり返っている。
カウンターの向こう側にいる司書さんに話しかける。
「あのぉすいません。南方の蛮族テーエス族についての文献かなにかありませんか?」
「テーエス族ですか……それなら2階の民族学棚にあるとおもいます」
「ありがとうございます」
ということで図書館2階の民族学の棚の前に立つ。
「テーエス族、テーエス族……あった」
棚の端に『テーエス族に関する学術的研究』と如何にも開くと眠くなりそうな本がある。
それを取り出して図書館に備え付けられている机に座って読み始める。
『テーエス族と我々が分かりあえることは不可能である』
出だしからこんな一文が書かれている。
まあ、分かり合えたら討伐クエストなんてないわな……
『しかし私はなんとかテーエス族に潜入し調査することができたのでここに報告する。ウィリアム・ベクター』
よく頑張ったウィリアム博士!
テーエス族が何処に住んでいるとかそういった詳しい情報が続きウィリアム博士が何故テーエス族の研究を始めたかなど、どうでもいい話が続く。
そして……
『テーエス族最大の特徴は男しかいないということに尽きる』と書かれている。
んな馬鹿な男しか居なくてどうやってテーエス族を増やすんだよ……
『驚くべきことに、テーエス族は男同士で結婚をし、その結婚の儀式においてシャーマンが祝いの力を持ってして男を女へと変えるのだ。まず胸と股間にチクリと痛みが走り術を掛けられてから1週間で女に変わる……』
やたら詳しく書いてあるが……博士まさかあんた……
『ご察しの通り私はテーエス族と親しくなる為にテーエス族、最高の秘術を自らに掛けて貰い、女になったのだ……そして私のお腹にはテーエス族の男との間にできた子供が……」
は、博士、あんた男だよ……男の中の男だよ……自ら身体を張るとか……
『そしてこの研究成果を発表する頃には、私は男に戻っているはずだ。この秘術、子供が生まれると男に戻ることができる。いや母乳を子供に飲ませる度に徐々に男に戻っていくといった方がいいだろう……ちなみ男に戻るにはこの方法しかない』
「は?!」
静まり返る図書館で俺の声が響く。
……つまりは俺はだれかと子作りをして子供を作って、産んで育てないと男に戻れないってこと?!!
あまりにも衝撃で手足が震え、顔から血の気が引いていく。
そこからどう帰ったのか分からないが、目の前には俺達のパーティで借りている家がある。
扉を開くなり「遅かったな。で元に戻ったんだろ?」とワイズマンが声を掛けてくる。
「お、男には戻れない……いや正確に言うと子供を作れば男に戻れる……」
「え……」
ワイズマンはそれを聞いて絶句していた。