第1話 祝いの力
ん? 胸が重いのだが……
朝いつものように起きると、俺の胸にメロンのような大きさの物がぶら下がっていることに気がつく。
「な、なんだこれ!!!」
そのまま立ち上がり洗面所にある鏡の前に立って体の色んなところを触ってみる。
……女だ……俺……女になってる……
まさかあの時の……とりあえずリーダーのワイズマンに報告しないとな……
自分の部屋からでて、ワイズマンの部屋の前に立ちノックをする。
コンコン。
「俺だアレクセイだ」
「どうした、こんな朝に珍しいな」
「ちょっと話しがある。入っていいか?」
「ああ」
扉を開くとワイズマンはプッと笑う。
プッと鼻で笑った筋肉ムキムキの男が俺たちのパーティリーダーでワイズマン。
このリーダーのワイズマンと俺は幼馴染みで小さなころから冒険者に憧れ一緒にパーティを組み、俺達はSランクのパーティになるまでの活躍をし、この国で五本の指に入ると言われるまでのパーティとなった。
「あははは! なんだ? なんだ? その胸は? いくら俺が巨乳好きと言っても男はノーサンキューだ。メロンでもいれてんのか? なるほど一緒に食おうってことか」
ワイズマンは笑いながら近づいてくる。
「違う。この胸は本物だ。俺は女になっちまった」
「んな訳あるか! 早くとれよ」
ムニュンという胸の感触と共に、むず痒い感覚が胸に走る。
ワイズマンは笑いながら俺の胸を鷲掴みにしたのだ。
パチン!
俺は反射的にワイズマンの顔を平手打ちし、耳まで赤くなるような感覚を覚えながら叫ぶ。
「ちょ!! な、なにんすんだよ!人の胸勝手に触るなよ!」
「な、なんてこった……本物だ……アレクセイが女になっちまった……」
ワイズマンは叩かれたことも頭に入ってこない様子で狼狽ている。
「だから女になったって言っただろ?」
「す、すまない……まさか女になった上にそんな胸になるなんて……げ、原因はなんだ」
「たぶん、先週の蛮族のシャーマンをやった時だと思う」
俺はワイズマンの質問に答えを返す。
◇◆◇
俺達はとある邪悪な蛮族を掃討するクエストをこなしていた。
砦のような建物に居た蛮族達を全て倒したと思っていた。
「これで終わりだな。ワイズマン」
「ああ、俺達の手に掛かればこんなもんよ」
ほんの一瞬の油断だったと思う。敵はその隙をついてきた。
「危ない!! 」
その時、死んだとばかり思っていたシャーマンの杖から光が放たれたのだ。
杖の先にはワイズマン。
俺は咄嗟に飛び出しワイズマンを庇ってその光を身体に浴びた。
そしてシャーマンは「グールグールテーエステーエス……」と訳の分からない言葉を呟いて、そのまま果てた。
「大丈夫か! 」
ワイズマンが俺に駆け寄ってきて声を掛けてくる。
「ああ何もない」
「すまない、俺の所為で」
「何にもねーから心配すんな! 」
俺はこの時、心配すんなとは言ったものの、胸と股間にチクリと痛みを感じていたのだ。
◇◆◇
ワイズマンはハッとした表情をみせ
「あの時の光……俺を庇ってお前が当たった光で……」
「そうだな。それしか心当たりがない」
「で、でも元に戻れるんだろ?」
「知らん。まあでも元が男だし女変わったんだなら戻れるだろ」
少し安堵の表情を見せるワイズマン。
「まあ、そんな胸をぶら下げてたら重くて剣も振れないだろ! ガハハ!」
「振れるっつうの!」
「まあいい、とにかく早く男に戻ってくれ。目のやり場に困る」
「あ? 俺に欲情した? まあ俺ってば美人で巨乳だもんな!」
「んな訳あるか……」
ワイズマンは何故か言葉の語尾を弱めた。
「まあとりあえずさっさと教会にでも行ってくるわ」
「教会?」
「どうせ呪いか何かだろ? 解呪して貰えば元に戻れるだろ」
そう言って家を後にした俺は教会に向かう。
まあ女の姿の自分も新鮮で楽しい。歩く度に揺れる胸、違和感しかない股間。
たまに女になるのも悪くない! って思える。
そして教会に向かう道すがら朝も早く、出勤をしている男どもがチラチラと俺の胸を見る視線に気がつく。
確かにこの服は男物だし、胸が窮屈で少しはみ出してはいるが……
男共はバレてないつもりでこうやって露骨にチラチラみてんだな……
女からしたらバレバレだっての。俺も男に戻ったら注意しよ。
ということで教会についた俺は司祭様に話しをする。
頭も髭も真っ白なお爺さんの司祭様。この人だったらどんな呪いも解いてくれそう。
しかもさすが聖職者外の男共とは違って俺の胸をチラリとも見ない。
「なるほど朝起きたら女になっていたと……」
「はい。呪いか何かだと思うんです。1週間ぐらい前に……」
蛮族の光を浴びたことなどを説明する。
「うむ。分かった……ゴクリ」
司祭様はそう言って生唾を飲み込むと俺の胸を凝視する。
「見えた! お前さんは呪われておらん!」
「え?それじゃ元に戻れないの?」
「お前さんにかけられたのは呪いではない。祝いの力じゃ! 儂にはどうにもならん!」
「祝いって……」