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集いし勇者


 城の謁見の広間に集められたのは、既に伝説と謳われるほどの戦いを成し遂げた勇者たち。


 集められたのはいいが、何も始まらない。


 それもそのはず、同じ聖剣を手にする者同士といえど、初対面でそのうち一人はこの国の王子ともなれば話すことなんてなかった。


しかし、耐えきれなくなったのかうーんと背伸びしたあとセーナが口を開いた。


「なぁ、王様ってのはまだ来ないのか?」


「あぁ、国王である父上は何かと忙しいくて」


「へぇ、大変なんだね王様ってのも」


 するとこちらも耐えきれなくなったのか、ウズウズしていたカイもあーっと叫ぶと唐突に立ち上がった。


「おい!!お前らも聖剣持ってんだろ!?なぁなぁ、王様来るまででいいからさぁ、戦おうぜ!!」


「た、戦いはいけません!」


「固え事言うなよ聖女様っ!てかよ、聖女様もいい剣持ってんじゃねぇか!?」


「はっはっは、熱い男でござるなぁ。汗をかきそうでござるよ」


 その様子をてんで興味ないかのように、紙にずっと何かを書いているリゼリット。

 セーナが気になって覗くと、そこには手書きの楽譜があった。

 

 楽譜を書いていることもあるし、腰には横笛が掛かっていたので暇つぶしに何か演奏してもらおうとふと思い、声をかけてみた


「ねぇ、アンタ。その笛で何か一曲演奏してくれない?暇で暇で仕方ないんだよ」


「……それはリズに言ってるの?」


「そうだよ、他に演奏できる奴なんかいないんだ」



 リゼリットは「どうしよっかなー」と少し考えたあと、「そうだ!」とニコニコしながらセーナの耳元で囁いた。


「い、や、だ」


「ちょ、アンタねぇ喧嘩売ってるつもり?減るもんじゃないし、いいじゃないか」


「リズの曲を聞く人はリズが決めるの。減るものとかそういう問題じゃないよ?第一、知らない人に物を頼む態度じゃないとリズは思うなー」


「はいはい、悪かったよ」


 大きくはぁとため息をついて、席に座るセーナ。

 相手にする奴を間違えたと頬杖をついて足を組む。


「なぁ王子様、アンタも王族だろ?なんか暇つぶしになるようなのないの?」


「すまない、生憎持ち合わせていないんだ。それに、僕も暇つぶしをした事がなくて……そうだ、一緒に剣の素振りでもやろうか?」


「あーアタシパスで」


「そうか、残念だ」


 またもや聞く相手を間違ってしまった。

 それにしても、聖剣に選ばれた勇者ってのは変わった奴ばかりのようだ。



 一人で騒ぐ熱い奴、楽譜書いてる奴、熱い奴に絡まれて無下に出来ずにオドオドする奴、王子の隣でニコニコしてる奴、そして暇つぶしも知らない王子ときたもんだ。


 泣けてくるね。


「……あれ?」


 集まったのはセーナを含めた七聖剣を持つものたちだが、なんだか違うような……違和感を覚えた。


 そうだ、ここにいるのは六人しかいない。


「気づいたでござるか。そう、一人足りないのでござるよ」

「気付いていたんだね、アンタ」

「ハヤトでござるよ、セーナ殿」

「へぇ……なんだかあと一人について詳しそうじゃないか。どんな奴なんだい?」


 先程の光景を思い出すハヤト。

 殺さなくてよかったはずの魔物たち、ただ魔族に命令されていただけの魔物たちを、何の理由もなしに殺したあの、黒の男。


 向けられた殺気の中に、自分と同じ波動を感じた……つまりそれは、彼も聖剣を持つ者ということ。


 黒の男について話し出そうとしたとき、不意にリゼリットが遮った。


「ねぇねぇ別にさ、ハヤト?が話すことなんてないと思うんだ」

「リゼリット殿、それはどういう意味でござるか?」 

「そうよ、さっきから邪魔ばかりして」

「邪魔なんかしてなーいよ。だって、黒いお兄ちゃん、そこにいるもん」



 部屋内の太い柱を指差すリゼリット。

 正確には明かりによって出来た柱の影を指差していた。

 それと同時にその影は蠢き、人の形を取ったかと思えば、黒いフードの男が現れた。

 背中には黒い包帯で巻かれた剣。


 その様子に皆の視線が集まる。


「お主……いつからそこに?」


「……お前たちがゴチャゴチャと話している時からだ。馬鹿みたいにくだらない話のな」


「アンタが最後の一人ってわけね。よろしく」


 セーナが近づいて握手を求めたが、完全に握手を無視された。


「感じ悪っ」  


 そう言い、席につくとため息を吐く。


「これで全員揃った訳だね。丁度いい、時間もあるし、それぞれに自己紹介しないか?」


「おぉ!アル、それは名案でござる!」


「ここにいるのは同じ力、聖剣を持つ者たちだ。共に戦う仲間になるんだからね」


 すると、立ち上がったのは言い出した本人、アルベルトだった。


「僕はアルベルト・フォン・アストリア。僕は王子だが、君たちは共に戦う仲間……だからこそ、王子ではなく、気軽にアルと呼んで欲しい。そして僕の剣はエクスカリバーだ」


「そしたら次は拙者でござるな。拙者はハヤト・マツシマ。出身は静の町ジパングでござる。拙者の剣はヴォルティスでござる」


「俺はカイ・ソウン!最強の男だ!出身は最強街ドーラ!そして最強の剣サラマンダー!」


「アタシはセーナ・ラクスウェル。出身は雨の都リドラ。アタシの剣はこのライオネット」


 次々に抜剣し、聖剣を真上に掲げる。聖剣同士の光が重なり合って幻想的な世界を創り上げている。


 すると、オドオドしながら聖女が口を開いた。



「私はアストラルの協会に所属しています、アニス・ヒリングです。戦いは不得意ですので、邪魔にならないよう頑張ります。剣はヒールカリバーです」


 ぺこりと頭を下げると、黒い男がふっと鼻で笑った。


「……戦えない聖剣使いか」


「……」


 その言葉に対して、リズとアニス以外の者たちが黒の男を睨みつける。

 そんな中でアルベルトだけは睨むというより、興味の目を向けていた。


「じゃリズの番ね。リズはリゼリット・シファ。出身はケーエンフルール。剣はこれ、セイレンだよ」


「おぉ、不思議な音色でござるなぁ」


「そうね、かなり落ち着くわ」


「……私、眠くなって……きました」


 剣に空いた大小異なる無数の穴からは、空気が通り抜けることによって音が発生している。

 心地よくて眠ってしまいそうな不思議な音。

 まるで意識が飛んでいきそうな感覚。


「あ、この音聞いてると感覚が麻痺してくるから気をつけてね」


「おいっ!早く鞘に納めろよ!!」


「えー面白くなりそうだったのにぃ……」


 ブツブツと文句を言いながらも、セイレンを鞘に納めたことで嘘だったかのように眠気が吹き飛んだ。


 そして最後に残ったのは黒の男ただ一人。


「さぁ、次は君だ。君の番だ」


「……」


「ダンマリは無しでござる」


「チッ……」


 黒の男は不満げに舌打ちすると、近くの椅子に座って話だした。


「俺の名はレディア・アーレイ。出身は……出身は……」


 すると、急に口を閉ざす黒の男レディア。

 その面持ちはどこか神妙で、何か嫌な事を思い出しているかのようにアニスには見えた。


「無理なら無理で……」


「俺の出身は……魔の森を超えた先にある……小さな村……だった場所だ」


 村の名前を口にはしなかったが、ここにいる誰もが言葉を飲み込むしかなかった。

 魔の森を超えた先にあるのは今はすでに廃墟となっている……いや廃墟にならざるを得なかった小さな村。

 それがそこにあることは皆知っていた。

 そして十年前のことも。


「レディア……様」


「そんな……あそこに生存者がいたなんて……」


「う、嘘……だろ?」


「なんということであろうか……」


 レディアが立ち上がり、背負っている剣の柄に触れると、包帯は解けて黒に染まった聖剣がギラリと輝いた。


「俺の剣はファフニール」


 他の聖剣が放つ光をかき消すような暗黒に、聖剣であることさえ忘れてしまうようだった。


「お前、この国の王子だったな」


「そ、そうだが」


「忘れてくれるなよ……あの日のことを」


 黒い聖剣の切先は、アルベルトに向かっていた。

 すぐ様、ハヤトがアルベルトの前に立ち、構えを取るが、まわりもアニスと興味なさ気なリゼリットを除いて、柄を握る力を込めてレディアに向かって構えを取っていた。 


 一色触発、呼吸の一つ一つでさえ気を抜けば殺られる。


「レディア待ってくれ、そしてみんなも」


「アル、だがしかし!」


「ハヤト落ち着くんだ。レディア、君も本気じゃないんだろう?」


「……どうだかな」


 そう言い剣を背中を納めると、解けた黒い包帯のようなものが剣に集まり、再び鞘として形を成していた。

 また椅子に座るレディアを見て、柄から手を離し座るハヤト。 


「さて、どうやらいい暇つぶしになったようだ。来たようだよ、父上と預言者が」


 見計らっていたかのように王と預言者が広間に現れた。


 いや、預言者は荒れることを知っていたのだ。


 預言者を横目で睨むレディアを見て、彼女は口元だけ笑った。


 早々から不穏な空気が漂う伝説の聖剣を手にした勇者たち。

 乱れ、荒れる若き勇者たちに希望の光はあるのだろうか。

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