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光王剣 勝利の輝き


「封印は解かれ、魔王再臨の時。聖なる剣は輝くでしょう」


 預言者エメリアによって魔王の復活が告げられた。

 平和に浸っていたアストラルが再び魔の脅威に晒されることとなり、実感はないものの、悪寒が背中を駆け巡る。


「……してエメリアよ、魔王はいつ我が国に攻め入ってくるのだ?」


「すぐにでも。うかうかしていればこの国はすぐ様滅びましょう」


「ふむ、まさかあの剣を台座から引き抜く時が来ようとは……今すぐに皆を集めよ、魔王再臨だ」


「承りました」


 大広間に集められたのは精鋭騎士とそれを取りまとめる将軍たち。

 見渡す限り【魔狩りのハイネ】や【極剣のギル】といった名だたる猛将や、王国最強の精鋭騎士団【白銀の騎士団】など王国軍の要となる者たちばかりだった。


 それに混じって先頭に立つのは、アストリア王の第一王子アルベルト・フォン・アストリア。

 王子でありながら幼少より白銀の騎士団で鍛錬を積み、騎士団一の剣術使いになった。


 また民から絶大な人気を誇り、【王子の御言葉は神の御言葉】と称されるほど、次期国王たる素質を兼ね備えている。


「皆、よく集まってくれた。異変に気付いている者もいるようだが、率直に申す。【七聖剣伝説】に語り継がれる魔を統べるもの……魔王が復活した」


 座喚く広間。

 信じられないと口にする者、理解ができずに混乱する者……おとぎ話と誰もが思っていた【七聖剣伝説】が実在するとなれば仕方のないこと。


 だがその中で動じることなく、真っ直ぐ何かを見据えるような者たちもいた。


「この預言者エメリアによれば魔王はすぐにでもこのアストラルに攻めてくるようだ。だが、我々はただ手を拱いているだけではない」


 アストリア王は玉座から立ち上がると背後の壁にある燭台を壁の中に押し込んだ。

 するとどこからか石と石が擦れるような音がすると思えば、何もなかった壁が動き出し地下へと続く階段が現れた。


「我こそはと思うものは着いてくるが良い。我が城に眠る、伝説の剣【光王剣 エクスカリバー】に選ばれし七人の勇者が一人に……」


 そう言い、階段を下っていくアストリア王と、預言者エメリア。

 その後を追うようにして階段に足をつけたのは王子アルベルト。


 王子が階段を下っていくのを見届けたあと、【極剣のギル】がフンッとあざ笑うかのように笑った。


「見たかハイネ、あの王子の顔を。聖剣に選ばれし勇者は自分だと思い込んでいるようだ」


「何を言うかギルバート。アルベルト王子にこそ伝説が相応しい」


「貴様こそ何を言う。この私、ギルバート・ランウェルこそ聖剣を持つに相応しい男。誰よりも強く、誰よりも気高きこの私が……な」


 そう言うと自信満々で高笑いしながら階段を下っていくギルバート。

 賛同しているのは彼の部下だけで、他は憐れむような関わりたくないといったそんな顔をしていた。


「ハイネ将軍は行かれないのですか?」


「行かずとも私で無いことは分かっている。だが、勇者で無くとも我々にできる事はある」


「そうですね。待ちましょう、勇者の誕生を」



 一方、暗がりの中預言者エメリアが持つ蝋燭を頼りに階段を降りていく。

 カツンカツンと鳴り響く音が、緊迫したこの時をさらに助長させている。


 ようやく下まで降りてくると、石の壁に包まれたやたらと古びている木製の扉が現れた。


「これはこれは……随分と」


「ギルバート、君もきていたのか」


「はい、アルベルト王子。私も剣士の端くれにございます」


「そうか。君が勇者であったなら異論の一つもありはしない。だが、僕にも意地がある」


 迷いのないその瞳に思わず圧倒されかける。

 

 私に限って……この【極剣のギル】が王子とはいえ、たかが子どもなんぞに遅れをとるなどあり得ない。


 そんな様子を見て、預言者エメリアは少しだけ笑みを零す。


「さぁ、この先に待ち受けるのは希望か、絶望か。試しなさい、貴方のものかどうか……聖剣、光王剣エクスカリバー」


 扉を開けると、眩い光に包まれていた。

 その光は暖かく、そして希望に満ちていた。


 やっとの思いで目を開けると、台座に突き刺さる眩い光を放つ七聖剣伝説の七本の剣。


「これが……エクスカリバー」


「なんという光だ……神々しいにも程がある」


 一歩、また一歩と台座に引かれているように歩み寄るギルバート。


 美しい……この美しい剣は私にこそ相応しい。

 

「私こそが聖剣を持つに相応しいのです!」


「そうか、ならば抜いてみせよ」


 そう言い終える前に、すでに柄を掴んでいた。

 そして一息に剣を引き抜こうとした。


「ぬっ!?」


 だが、剣は抜けない。

 どうやっても、どう力を入れても抜ける見込みすら無かった。


「何故だ……何故抜けんっ!?はっ!?」


「ふふっ……」


「女、貴様笑ったな!!」


「ふふっ……えぇ、笑ったわ。だって貴方、とても面白いわよ?」


 自分が今どれだけ惨めか、どれだけ情けないか言葉が出てこなくなるほど屈辱的だった。

 

 何故だ……何故抜けない?

 私はアストラル一の剣士、【極剣のギル】だぞ?

 何故だ……何故なんだ。


 アストリア王がいるにも関わらず、怒り任せに抜剣し、預言者エメリアに迫るギルバート。



「無礼者め!斬り捨ててくれる!」


「何をしている、ギルバート。早くそこを退くのだ」


 しかし王の言葉で冷静になる。


「陛下!お、お待ちください!!もうすぐ、もうすぐ抜けるはずです!」


「いや、ギルバートよ。もう終わったのだ」


「へ、陛下?一体、何を」


 背後からより一層と光が溢れ出す。

 ゆっくりと振り返ると、そこには聖剣を手にした、アルベルト王子が立っていた。


「女神オニキスが想像せし、勝利の剣【光王剣エクスカリバー】確かに受け取った」


「流石は王子、私の子だけはある」


 しっくりと馴染む柄、そして関係ないとは思えない心地の良い光が駆け巡る。


 これが七聖剣伝説。


 項垂れ、動かないギルバートをよそ目に階段を駆け上がる。

 あんなに暗がりだった場所が今では太陽に照らされたように光り輝いている。


 そして息を呑む一同の前に光り輝く剣を掲げた王子、アルベルトが姿を現した途端静まり返った広間に歓声が湧き上がった。


「私はアルベルト・フォン・アストリア、この国の第一王子である!そしてたった今、伝説の剣に選ばれし勇者となった!私とこの剣【光王剣エクスカリバー】がある限り、敗北という文字はない!」


「「うおおおおっ!!」」


 次々に剣を天高く掲げ、歓声を上げる騎士たち。

 それに答えるように王子は続ける。


「この剣によって齎されるのは勝利!だが、私の勝利ではない!」


 目を閉じ、剣を額に当てたあともう一度天高くエクスカリバーを掲げる。

 

「我々の勝利だ!!」


「「うおおおおおおお!!」」


 神々しい光が騎士たちの士気を高めていく。

 その様子を微笑みながら見つめる預言者エメリアとアストリア王。


「最初から分かっていたのに……こんなこと、王である貴方がしてもいいのかしら?」


「良い、これで少しは奴も目が覚めよう」


「そう……まぁ、私は楽しめればいい。それだけよ」


「待て、どこへ行く?」


 そう言い、どこかへ去ろうとする預言者エメリアを呼び止める。


「何かしら、もう貴方に伝えることはないわ。そうね、どこへ……答えるとするならば、あの子達のもとよ」


「疑うようだが、貴殿の預言は確かであろうな?」


 魔王再臨、そして勇者の出現。

 見事に的中させてはいるが、もしその預言がまぐれならば話にならない。


 たが、預言エメリアは淡々と答えた。



「えぇ、間違いないわ。だって……」




 預言じゃないもの。



 その言葉を最後に広間を後にする。


 楽しそうに笑う預言者エメリア……いや、既にその名前すらあやふやな女は、独り言を呟く。


「始まるわ……貴方の物語が、貴方の憎む世界が。最後に貴方が救うのはこの世界?それとも……」


 言い終える前に女は、手から黒い球体の物を出現させると、それを空中へと放った。

 するとまるで意思を持っているかのように高く飛び、そしてあちこちに飛び散って行った。


「さぁ、来なさい勇者たち。つまらないおとぎ話を始めましょう」

 



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