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烈火剣 熱い魂


「お、王国騎士団の精鋭部隊だぞ……なぜこんなことに……」


 預言者によって指定された場所で待機していた王国騎士団。

 腕の立つ選ばれた者のみが入隊することを許され、且つその中で選りすぐりの精鋭たちで組まれた王国軍最強と謳われていた。

 突如として現れた魔物たちに困惑する様子もなく、淡々と魔物たちを倒し、被害を最小限に任務を遂行できると誰もが思っていた。


 全ては奴等が来て、戦況が大きく変化してしまった。


「人間ガ……図にノるなヨ?」


「消シ炭にしテやる!!」


「僕らニ歯向かうナんてネ。下等種ノ分際でサ」


 紛れもなく、それは魔族だった。

 七聖剣伝説に出てくる架空の存在と思われていた邪悪の塊。

 俊敏で強靭な肉体を持ち、屈強な騎士たちでさえものの数秒で素手で嬲り殺される。


「ひ、怯むなっ!数で囲めば魔族とはいえ、太刀打ちできまい!」


「あレ、囲まれちャったヨ」


「今だっ、やれ!!」


 槍を装備した騎士たちが一斉に魔族に襲いかかる。

 しかし魔族は標的を一人に絞り、俊敏な動きで騎士の胸を手刀で貫くと、その騎士の持っていた槍を手に取り、物凄い早さで振り回した。


「フ……雑魚メ」


「あ……が……」


 一瞬の出来事で、魔族を囲んでいた騎士たちは立ち尽くしたまま、首だけが滑るように落ち、忘れていたかのように吹き出す血潮。

 

 想像を遥かに超えた化け物に精鋭部隊は押され、後退していく一方でさらに追い打ちをかけるように、魔族の後方から現れる新たな魔物たちが群れを成してこちらに向かってきている。


 これは地獄なのか。


「そんな……勝てる訳がない」


「ああ、女神オルレイヌよ!我らに救いを!!」


「なんだァ?逃ゲるのかヨ」


「ミッともないネ、キャハッ!」


 魔物相手に善戦していた精鋭部隊は、魔族の介入により、崩壊したった三体の魔族によって過半数を殺された挙げ句、後方からくる新たな魔物に絶望し、戦意を失ってしまった。


 しかしその中で、ただ一人動かずに魔族を待ち受ける男がいた。


「うろたえるなっ!魔族などこのギルバート・ランウェルが成敗してくれるわ!」


「見ろ!あの【極剣のギル】が来たぞ!!」


「ギルバート様!!」


 額に傷のある厳つい風貌の大男は、二メートル近くある大剣を構え、魔族に向かって突進していく。


「ナンなんだ、あいつハ?」


「いいのか?それが遺言になるんだぞ?」


「ナっ!?」


 ギルバートは一体の魔族の胸に剣を付き指した。


 背丈以上の大剣を持ちながら、その踏み込みからの速さは類を見ない。

 不意をつかれた魔族は成すすべなく、胸を貫かれた。


「おぉ!!」


「いける、いけるぞ!!」


 このことにより、一気に士気が上昇する精鋭部隊。


「ふん、他愛もない……むっ?剣が……」


 そんな中、貫いた剣を引き抜こうにも、何故か引き抜けなくなっているギルバート。

 次の瞬間、ギルバートは左肩を手刀で貫かれていた。


「ぬぅっ!?」


「イい一撃だっタ……褒めテやろウ」


「ば、化け物め……」


 そのまま腹を蹴られ、吹っ飛ばされていく。

 

(馬鹿な……確かに胸を貫いたはず)

 

 確実な手応えがあった。

 間違いなく胸を貫いたはずだった。


 左肩を押さえるようにして、魔族に目をやると胸には穴が空いていて、血が吹き出している様子はなかった。


「不死身……なのか」


「さぁ、次ハこっちの番ダ」


「くっ……」


 剣を構えようにも激痛で立ち上がるくらいがやっと。

 蹴られた衝撃で骨に亀裂が入っているようだ。


(これまでか)


 周りに味方はおらず、皆逃げてしまったようだ。

 こんな状況、奇跡でも起こらない限り、覆すことはできないだろう。


 女神よ……救い給え……。




「爆裂っ!!サラマンダァァァァア!!」


 突如として大声とともに、巻き上がる爆炎。

 とんでもない熱さで息が出来なくなるが、やっとの思いで目を開けると赤くツンツンした髪に水色の瞳の少年が炎を巻き上げているのが確認できた。


 炎が消え、煙の中からは黒色の魔石だけが残っていた。

 

「き、君は?」


「うっひょー!!奥にまだあんないるじゃねぇか!オラオラ、いくぜぇぇええ!」


 こちらの事などどうでもいいのか、或いは単に見えていないだけなのかは分からないが、あの魔族を一瞬のうちに消し炭にしてしまうとは……


 そもそもあの炎は一体どこから出ているのだろうか。

 炎を纏う剣など、七聖剣伝説の話でしか聞いたことがない。


「……まさかっ!」


 七聖剣伝説の一章に、火を司る女神サラマンダラが作り出したと言われる七聖剣の一振り、サラマンダー。

 彼の持つあの剣、確か彼はサラマンダーと口にし、炎を意のままに操っていた。


 預言者のあの女の言う事に、間違いはなかったということか。


「来いよっ!!全然足りねぇぞ!!」


「な、なんナんだ、あいつハ!?」


「こ、こっちニくるナァ!!」



 魔物、魔族関係なしに爆炎で燃やし尽くす少年。

 その姿をただ見ていることしかできなかった。


 「何故だ……あんな子どもに、このギルバートが遅れを取るなど……」


 他の誰より鍛錬を積んできた。

 他の誰より剣を極め、そして力をつけた。


 それがこのザマだと?


「やめロ、ヤメロおおおぉオ!!」


「もいっちょ、サラマンダー!」


 少年が剣を振るうたび、辺りは火に包まれ敵は焼かれ、斬られていく。

 そして少年は止まることを知らない。


「聖剣……何故私ではないのだ……」


 誰よりも強いこの私が……聖剣を持つに相応しいと言われたこの私が……何故あんな子どもたちに!


(私こそが聖剣を持つにふさわしいのです!)


(そうか、ならばこの剣抜いてみせよ)


(何故だ……何故抜けんっ!?はっ!?)


(流石は王子。私の子だけはある)


 脳裏に焼き付いて離れない屈辱的な記憶が蘇る。

 あんな……あんなクソガキなんぞに!



 立ちすくむギルバートをよそ目に、圧倒的な力で魔物たちを火の海に沈めていく少年。

 地面を這うようにして進んでいると、手元にあったのは黒く濁った魔石。

 先程炎で燃やし尽くされた魔族の灰の中にあったものだ。


「これは……そうか、そういうことか」


 そう言い、魔石を握りしめているギルバートの奥で魔物たちを燃やし、気が付けば少年一人でほとんどの魔物を蹴散らしていた。


「あらよっと!!ありゃ?もう終わりなのか」


「見ろよ……一人でやりやがった」


「すごい……すごすぎるぜ!!」



 最後の魔物を倒し、静かになった戦場に騎士たちの声が響く。

 絶望でなく、希望に満ちた声で少年を称賛していた。


「よくやった!少年!!」


「火の女神、サラマンダラ様の生まれ変わりだ!」


「な、なんだぁ!?」


 謎に盛り上がる騎士たちに違和感というか気味悪さを感じ、そろりと逃げようとする少年を騎士たちは囲んだ。


「君、騎士にならないか!?」


「き、騎士ぃ!?いやいやそんなん興味ねぇよ!」


「そんな……それならなぜ君は戦う?」


 少年は顎を擦りながら考え始めた。

 それはただ何もないのか、それとも言いたくないのか、どちらにせよ眉間にシワを寄せてうーんと悩む少年のことを単に、深く知りたかった。


「君が守るものは?」


「うーん……特にねぇよ。ただ俺は強い奴と戦いたいんだ。強い奴と戦ってると、俺は生きていることを実感できる。俺には戦うことしかできねぇしな」



 そう言い、ふと森の方へ目をやると唐突に全身を震わせ、剣を持つとニヤッと笑った。


(いるじゃんか……やべぇ奴がよ)

 


「……!」


 魔の森の中をゆっくりと進む黒いフードの男は、何かを察知したかのように剣の柄を掴んだ。


「……ちっ、厄介だな」





 剣から手を放し、何事も無かったかのように二人の少年は歩き出した。

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