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奏曲剣 魅惑の音色


「ダメです、ハイネ将軍!!我々では太刀打ちできません!」


「なんて事だ、こうもあっさりと攻め入れられるとは……」


 王国軍は預言者エメリアの預言によって、魔王軍の動きを知らされた王国軍は先手をうち、拠点を構え待ち構えていたのだが、魔王軍の勢いは凄まじく一つの拠点が奪われようとしていた。


「将軍!!」


「もうすぐ日も落ちる。ここは退かねばなるまい……撤退だ、この拠点は放棄する」


「はっ!」


 このままでは魔王軍が率いる魔物たちによって、全滅するのが目に見えている。

 魔物たちは夜目がきき、闇の中でも人間を感知し行動することができるが、人間はそうはいかない。

 それにこの拠点を奪われれば王国軍が不利になることさえも分かっている。

 分かっていてももうどうにもならないのだ。


「皆、命を守れ。撤退だ!!」


 その言葉を合図に、騎士たちは裏門から脱出していく。

 戦いには命を掛けなければならないが、命あってこそ戦いができるというもの。

 生きていればこそ、また戦えるのだ。


「将軍、お急ぎください。魔物が迫っております」


「いや、先にお前がゆけ。私はここに残る」


「将軍……それはできません」


 将軍はここで死ぬおつもりなのだ。

 逃げ惑う騎士たちの時間を少しでも稼ぐために、自ら殿をお務めになるつもりなのだ。


「これは命令だ、従え」


「できません」


「……強情な奴め」


「最初で最後の命令違反……ですね」


 何故だか自然と笑みが溢れる。あれだけの敵を前にして諦めがついたのか、よくは分からない。

 けれど、自分には愛する人や家族はもういない。

 ここで死んでも悔いはないのだ。


 


 二人が裏門へと辿り着いた時、固くどざされた門が魔物たちによって破壊された音が響いた。


「さぁ来るぞ。縄を締め直せ」


「はい!」


「……我が祖国の為例えこの身が滅びようとも、剣を握る限りここは一歩も通さん!」


「王国騎士の名誉の為に!!」


 地面を大きく揺らしながらなだれ込んでくる魔物の群れ。

 この大群を前に生きて帰れる……そんな事を考えられる状況ではない。


 そうであっても、死んでも剣は離さない。

 王国には近づけさせない。


「うおおおおおおおお!!」


「うおおおおおおおお!!」


 魔物の群れに向かって走る王国騎士たち。

 だが、二人の足は早急に止まることとなった。


「な、なんだこの音は……?」


「魔物たちの動きが止まった!?」


 この音色は横笛の哀愁漂う音色。

 どこからともなく聞こえてくるこの音色に、足を止める魔物たち。


 周囲を見渡し、音のする方へ目をやると、そこにいたのは橙色の長い髪にきらびやかなまつ毛、悲しそうに演奏するその姿は、この場においてとても幻想的に思えた。


 静まり返る戦場を確認したかのように、演奏を止め、目を開ける少女。

 よく見ればその背中には少女の背丈ほどの剣を帯びていた。


「……はっ!!君、ここは危険だ!早く逃げるんだ」


「……」


「魔物がすぐそこにいるんだぞ!」


「……?」


 何とも緊張感のない子だ。動かなくなっているとはいえ、奴等は魔物。


 子どもが来ていい場所ではない。


「君、こっちへ来てはいけない!」


「……!?魔物が動き出したぞ!」


 まるで、置物のように動きを止めていた魔物たちの目玉がギョロギョロと動き出すと、その目にあるのは騎士たちではなく、少女だった。

 

(しまった!!魔物があの娘を標的に!)


 しかし少女はうろたえる様子もなく、慣れたように剣を握った。

 鞘から解き放たれたその剣は、刀身に大小様々な円形の穴が空いている独特な剣だった。


「ダメだ、逃げるんだ!奴等に刃は通らない!」


「待て、あの穴の空いた剣……まさか、伝説の!?」


「伝説の?一体何の事ですか!?」


 すると、どこからともなく高低差のある音色が流れ始め、それを耳にした騎士たちは驚くべき光景を目にする。


 魔物たちの様子がどうもおかしい。

 少女へと向かっていた魔物たちがまるで酔ったかのようにフラフラになっているのだ。

 なんとか少女まで辿り着いたとしても、攻撃は全て空振り、暫くすると急に倒れ!ピクピクと痙攣したまま起き上がることはない。


「これは……」


 フラフラになった魔物に対し、ゆっくりとした足取りで少女は近づくと、魔物の攻撃を空振りさせたあと、だた冷静に魔物の腹を裂き、そのまま上半身と下半身を切り離した。

 その時、音色が一時的に大きくなっている気がした。


「魔物を意図も簡単に!?」


「七聖剣伝説……音色を奏でる伝説の聖剣」


「七聖剣伝説って、まさかあの少女は……うっ」


 騎士たちに突然の目眩が襲う。

 この音色は少女の持つ剣から発せられたものだった。

 その音色のせいなのか、激しい頭痛と目眩が引き起こされ、訳の分からぬまま騎士たちは意識を失った。


「あれ、おじさんたちも寝てる……まいっか」


 少女はそう言うと、倒れる魔物にも剣を突き刺し、絶命させていく。

 正確に心臓を貫いているようだ。


「あーあ、まだうるさいなぁ……これじゃ演奏できないよ。まったくドンドンって音、刺しても刺してもまだ聞こえるし」


 あと何体の心臓止めればいいのやら。


 少女は気怠そうに呟きながら、魔物たちに剣を突き立てていく。

 心臓の鼓動が消えるまで。


「おじさんたちのも刺そうかな?いや、そしたら聞く人いなくなっちゃうね、やめとこ」


 しんと静まり返る拠点には妙な音色だけが響き、辺りは血で紅く染まっていく。



 

 少女はある程度剣を突き立てた時、それを抜くのを止めた。


「ねぇ、そこにいる貴方はリズの演奏を聞く人?それとも静かにしなきゃいけない人?」


 崩れた拠点の残骸を見つめる少女。

 するとそこから白いローブの女が現れた。


「残念、どちらでもないわ。だって、私は貴方たちを見守る人だもの」


「ふーん、まいっか」


 興味なさげに返事をし、また魔物に剣を突き刺していく少女。

 そんな少女に白いローブの女はまた口を開く。


「ねぇ、その音ってそんなにうるさいの?」


「うん、凄くうるさいよ。耳障りなくらい」


「それなら、貴方自身の音はうるさくないのかしら?」


 その問いに少女は少しの間黙ると、息絶えた魔物の上に座り込みふーっと息を吐いた。


「リズのはうるさくないよ。綺麗な音を奏でてるから」


「そう……なら私のは?」


「お姉さんのは、凄く複雑な音。うるさくは……ないかな」


 白いローブの女はフッと笑う。


「ただその音……リズは嫌い」


「あら、そうなの。残念ね」


 そう言い、拠点の外へと出ていく白いローブの女に目もくれず、また魔物を刺し殺していく。

 ただただ、繰り返していくだけ。


 静かになるその時まで。




 そうして二人の騎士は、まるで夢心地かのような音色でゆっくりと目を覚ますと、驚くべき、そして恐ろしい光景を目にすることとなった。


「な、なんて事だ」


「これは……」


 そこにあったのは魔物たちの死体が山積みにされており、その頂点に少女が座り、笛を吹いている光景だった。


「あ、起きた。目覚めの一曲、どうだった?」


 二人の騎士たちは、この異様な光景を目にして何も言葉にできなかった。

 いの一番に感じたこと、それは恐怖だった。

 しかし、あの少女のおかげで助かったこと、敵を退けたことは紛れもなく事実であり、その勇姿は伝説の一章に匹敵していた。


「なにそれ、知らんぷり?」


「す、すまない。時に、その魔物たちは君がやったのか?」


「ん、これのこと?そうだよ、リズがやったんだ。げーじゅつってのだね」


 このあまりに無残な光景は芸術と呼ぶにはあまりに残酷すぎていて、そしてそれを気にも止めない少女の無邪気さに吐き気すら覚える。

 そうだとしても、騎士たちが敵わなかった魔物を意図も簡単に切り裂き、そして魅惑の音色を作り出すその剣に二人は七聖剣伝説の女神、セイネエレインとその聖剣セイレンを目の当たりにした気分だった。


「女神セイネエレインの加護を授かりし乙女よ。どうか我々とともに来てほしい」


「少女を戦いに巻き込むおつもりですか将軍!」


「違う、巻き込むのではない。我々は縋るしかないのだ」


「面倒だけど、まいっか。いいよ、面白くなりそうだし」


 気が抜けてしまいそうな軽い返事をする少女こそ、この国アストラルを危機から救うと感じ取った騎士は少女に委ねることしかできなかった。


無邪気で、無残で、残酷なこの少女に。

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