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賑わない町


 馬を走らせて三日、ようやく町が見えてきた。

 本来なら二日の予定だったが、休憩を多く取ったぶん一日遅れが出てしまった。

 

 

「レディ、何だか町が見えてきたよ?」


「商いの町、カイセルだ」


「カイセルですか!初めてです」


 むしろ他に初めてじゃないことはあるのだろうかという気持ちはわざわざ口にする事でもないので、何も言わずに黙っておく。

 

 商いの町、カイセル。

 商人が集い、その場で商売が盛んに行われている大規模のコミュニティが町として発展を遂げた。

 衣服、食材、装飾物、薬、なんでも揃っている。


 王都でもカイセルで取引された品の一部は高級品として扱われ、王家御用達の店も存在する。


「ねーねーそろそろさ、水浴びだけじゃ身体ベトベトするし、お風呂入りたいよー!」


「戦いには必要ない」


「えーだってだってさ、レディも結構臭うと思わない?ね、アニー?」


「え、私ですか!?いや、その……えぇと……レディア様は、お、お日様の香りがしますよ!」


 恐らく気に触らないように、考えに考えた上での発言だったが、普通に否定すれば良いものの、余計な一言が妙に刺さる。 


 レディアはいつも一人で旅をしていた為、自分以外の誰かを気にしたりすることはなかった。

 そもそもカイセルには食料の調達の為に寄ろうとしただけで、それが終わればすぐにでも発つつもりでいた。


「ぷっ、レディ臭いって……ぷぷっ」


「私はそんなこと一言も!」


「はぁ……」


 こうしている間にも人々が散々な目にあっているというのに、こんな呑気なことをしていてもいいのだろうか。


 そんな考えはレディアの中にはまったくをもってない上、足を早める訳はただ魔族を殺したい……それしかなかった。


 それ以外はどうでもいい。


 とはいえ、これからまた文句を言われるのは面倒極まりない。

 レディアはもう一度ため息をつくと、町へ馬を走らせた。


「えっ……」


「これは一体どうしたのでしょうか?」


 町へ入ると、とても商いの町とはかけ離れた光景が目に入ってくる。

 建物の戸や窓は締まりきっていて、活気どころかもぬけの殻のような異様な雰囲気が漂っていた。

 

 普段は商売でたくさんの出店や、あちこちでショーを行っているような活気溢れる町が、今は静まり返っていた。


「魔族のせい?」


「まさか、そんな……」


「いや、違うな」


 もし魔族や魔物による被害だとするならば、町の建物の一つや二つ破壊されていてもおかしくない。

 しかし、建物に見えるのは精々長年の風化による破損のみで、町に襲われた形跡はない。


 暫く町を馬で闊歩して見たところ、ここの住民たちの気配は感じるものの、カーテンの隙間や戸の隙間から何か警戒して覗かれていることが分かった。


「嫌な視線だね。何か怯えてるみたい」


「あぁ、どこか疑念を感じる。目を合わせようとするとまた隠れる」


「皆さん、私達は王都から来ました!何かお話をお聞かせ頂けませんか!?」


 何もない閑散とした町に、アニス声だけが響く。

 しかし、その声は町を吹き抜ける風とともに、遠くへと飛んでいってしまった。


「あまり大声を出すな。余計に警戒される」


「ご、ごめんなさい……つい……」


 何か事情があるようだが話が聞けないことには先に進めない。

 いや、進んでもいいのだが完全にアニスとリゼリットが動く気がないどころか、事を解決する気満々になっている。


 当初の目的を忘れていなければいいのだが。


 とりあえず、馬をくくりつけてから辺りを散策して見るが、やはり魔物の襲撃というほど荒らされた跡はなく、人が死んだ時のニオイも無い。


 レディアは、はぁーとため息を付いて後ろを振り返る。


「どうかなさいました?」


「ねーねー、もしかして今の?」


「あぁ…」


「レディア様?リゼリット様?」


 リゼリットの耳に聞こえる不快で不潔な音。

 この音は以前も聞いたことがある音で、魔物でも、人間の音でもない。


 すると、楽しそうにしながらリゼリットが剣を鞘から抜いた。

 それと同時に耳を塞ぐアニスに対し、ふふっと笑った。


「大丈夫だよアニー、レディ。リズのセイレンはね、聞く人を選ぶから」


「分かっている……」


「あ、あの、お二人だけ分かってても……!」


 いつの間にか建物の影、草木の中から薄汚れた服を着た、錆びた武器を手に持つ男の集団が現れ、三人を取り囲むように近づいてきていた。

 何日もお風呂に入っていないのか、鼻につく異臭に思わずアニスは鼻と口を手で抑えた。


「女の子二人連れて、旅行にでもきたのかな兄ちゃん?」


「……」


「結構な上玉じゃんよ、そのちゃっちい剣を持ってるのはまだまだガキだが、成長すりゃいい女にならぁ」


「あれ、リズ褒められてる?ねぇレディ、褒められてるよね!」


 一人で勝手にはしゃぐリゼリットを無視して、顔色一つ変えずに口を開く。


「盗賊か?人攫いか?」


「物騒な事言うんじゃねぇよ兄ちゃんよぉ。でもまぁ、似たようなもんだな」


「おい、野郎の後ろにいる女……いい身体してるぜ!売っちまう前に味見してもいいんじゃねぇか?」


「馬鹿野郎!女は未使用のが高く売れんだよ!ま、でも……たしかにいいな(ゴクリ)」


 なんとも気持ちの悪い発言にアニスはレディアの背中に隠れながら顔を押し付けていた。

 少しでもこのニオイと気持ちの悪い男たちから遠ざかりたかった。


 見兼ねたレディアは黒いフード付きのローブを脱いで、アニスを頭からスッポリと被せた。


「な、何も見えません!」



 

 辺りを見渡すと、ざっと十人といったところ。

 

「見回したって誰も助けにゃ来ねぇよ。この町にいた憲兵も王都の魔王騒ぎで戻ってきやしねぇしな」


「ここは人が集まっててな、いい商売ができやがるぜ」


「おっと、動くなよ兄ちゃん。命が惜しけりゃ女二人とその武器、金目のもの全部置いてけ」


「だって!」


 大体分かってはいたが、この町の活気が無くなったのは憲兵がいなくなった後にこの臭い男たちが暴れたのだろう。

 少々面倒だが、ここで食料調達出来ないのも困る上に何よりこの二人が動かないままになる。


「レディ、どうする?」


「好きにしろ」


「やった!じゃ一人残して全員殺すね!」


 ぴょんぴょんと元気に飛び跳ね、喜びを露わにするリゼリットに対し、ナメられたことに奴等は腹が立ったようだ。


「おい、黙って聞いてりゃくそガキが!てめぇは大人しくついてくりゃあいいんだ……よ?」


 小さなナイフを持った臭い男がリゼリットの頭をつかもうとした瞬間、男の腕が肩の付け根からバッサリと斬り落とされ、ビチャと音を立てながら地面に落下した。


「あぁ……あぁ……あああああああ!!」


「うーん……今の響きは二十点かな?」


「あああああああいいいかあゎかたれいい!!」


「はぁーもぉーうっるさいなぁ、静かにしてよねっ!」



 ストンと剣を振り下ろし、一振りして血糊を落とす。



 そして、それに合わせて男の声が止まったかと思えば、首が滑るようにずれて、斬り落とした腕の隣に重い音を立てて落ちた。


 思い出したかのように首から上を失った身体からは血が吹き出し、力なく倒れ……楽しそうに笑うリゼリットが現れた。


「う……嘘だろ……殺しやがった!」


「こいつらやべぇ奴等だ!イカれてやがる!」


「逃げろ、逃げろおおおおぉ!」


 一瞬でパニックに陥る臭い男たちは、それぞれの方向に、持っていた錆びた武器を放り投げ、散り散りに走っていこうとしていた。


 だがしかし。


「なっ!?」


「身体が……」


「動……かねぇ!?」


 動こうにも、身体が硬直して足すらすでに動かせなくなっていた。

 訳のわからない男たちに聴こえてくるのは、高低差のある不可解な音色……残酷で不気味で、絶望的な音色だった。


「レディア様、今状況はどうなっていますか!?」


「あはははっ、あははははは!!」


「リゼリット様のお声が、とても楽しそうに聞こえるのですが……あの?」


 男の叫び声がする度に楽しそうなリゼリットの笑い声が響く。

 黒いローブを取ろうとするアニスを頭から押さえつけるレディアの顔にも飛んできた血がかかる。


「面白い奴だ……」


「面白い……とは?」


 狂気に満ちたリゼリットの笑顔……今までに見せたどの笑顔よりも、輝いているはずが返り血によって不気味により美しく見えたのだった。



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