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黒影剣の力


「影?影ですカ?希望の光と称される勇者ガ……影とハ!」


「よく喋る奴だな」


「貴方には見えますかネェ、この私ガ」


「……」


 ジュッと音を立てて焚き火の火が消えた。

 おそらくこの闇に乗じて火を消したに違いない。


 これで明かりは無くなり、完全に闇の世界となった。


 魔族の赤い目は夜目がきき、人間であるレディアには圧倒的に不利な状況。

 耳を頼るしかないが、聞こえるのはヒュンと風を切る音とあちこちから聞こえるのやかましい声。


「これで辺りは闇の世界……私達の暗黒の世界でス。さぁ、夜目がきかないですが、頑張って避けてくださいマセ」


「……お前、勘違いしていないか?」


「この期に及んで何ヲ……あれ……ナンでしょうか……これハ……」


 突然ネイロの視界がグニャグニャと揺れ曲がり、身動きが取れなくなっていく。

 まるで何かに縛られたかのように、意識が朦朧としていく。


「この世界も俺のものだ」


「な……なんデ……」


「……せっかく寝てるんだ。起こしてやるな」


 ネイロの耳に聞こえてくるのは奇妙な音。

 

(まさか……音の勇者は起きていたのですカ!?)


 しかし、リゼリットはアニスの膝枕でぐっすりと眠っていて、剣を鞘から抜いてすらいなかった。

 

(ならバ……一体誰が……)


「さぁ……誰だろうな」


 訳も分からぬまま、身体が動かなくなって倒れる魔族ネイロ。

 近づいてくる残酷な足音に、恐怖を感じる。


 しかし、流石は魔族。

 少しだけ指が動くのを確認すると、一気に力を開放し、金縛りのようなものを弾いた。


「チッ……」


「今のハ……危なかったですネェ。ですが、これしきのことで私は倒せませんヨ?」


「どうだか……なっ!!」


「遅い、遅イ!!」


 暗闇で空を切るレディア。

 今のでネイロを見失ってしまった。


 再び空を切る音に包まれる……ヒュンと風を切る音だけが頼りだった。

 その時、僅かな風を感じたレディアは剣を横に振った。


「……ぐっ」


「あらラァ……ざんねーン」


 ポタリとレディアの右太ももから血が垂れる。そこには深々とナイフが突き刺さっていた。


 痛みを堪えて抜き捨てる。


「ほら次ですよ!!」


「くはっ……」


 背中に二本突き刺さり、すぐ様背後を斬りつけるがまた空を斬る。


 これにはレディアも膝をつくしか無かった。


 辺りは闇の中……夜目の利く魔族ネイロによる一方的な攻撃を避けることができない。


「くそっ!」


「もう一つでス」


「しまっ……!」


 剣を握る手にナイフが突き刺さる。

 それと同時に剣を放してしまった。


 落とした音を頼りに拾おうとした時、左手を何かに踏みつけられ、激痛が走る。


 骨をへし折られていた。

  

「大口を叩いていた影の勇者様……大したコトありませんネェ」


「ぐぁぁぁあ!!」


「所詮は人間……下等種が聖剣を持っただけのゴミでしたネェ」


 グリグリと手を踏みにじり、叫ぶレディアの顎を蹴り上げる。

 そのまま後ろに倒れ、息を荒くし、苦しそうに悶えるレディアをひたすらに蹴りつける。


「ゴミが!調子に!乗るカラ!」


「うがっ!ぐはっ!ぶはっ!!」


「人間如きが……魔族に歯向かうなどトォ!!」


「やめ……やめて……くれ……」


 悲痛な声にも耳を傾けないネイロは、不気味な笑顔を浮かべて無抵抗のレディアを蹴り、踏みつけていく。

 少しでも抵抗しようと手を伸ばすレディアだったが、その手すらも蹴られてあらぬ方向へと曲がる。

 

 次第にレディアは動かなくなっていき、ネイロが気づいた頃には完全にモノと化していた。


「……ふぅ、少しやりすぎましたネェ」


「……」 


「あれ、もうお終いですカ?残念でース」


 顔面もぐちゃぐちゃになるほどで、目が飛び出ていたり、頬は裂けそこからは折れてあちこちに突き刺さった歯が見えた。

 腕も指もあらぬ方向へと曲がり、腹部は中身が飛び出るほど、表しようのない酷さだった。


「……あとは、そこで寝ている二人ですネェ。幸せなものデス……痛み無くして死んで行けるのだかラ」


 ゆっくりと爪を立てて二人に近づくネイロ。

 

 さぁ、どうやって殺そうか……喉を引き裂く……それとも内臓を引きずり出す……あぁ……どうしまショ。


 ふへへと不気味に笑いながら、楽しそうに殺し方を考えるネイロだった。












「ふへ……ふへへ……」


「……随分と楽しそうだな」


 闇の中で、手足をジタバタさせてヨダレを垂らしながら笑うのは、魔族のネイロだった。


 レディアは剣を振ると、歪んでいた形がもとの形状に戻り、闇の中でも黒影剣は黒く輝く。


「お前は一番、二番といったが……答えは三番だった」


 そのまま気色の悪い笑みを浮かべているネイロの脳天を剣で貫き、頭にある魔石に突き刺した。


「……お前は幸せものだな」


 黒影剣ファフニールが魔石から溢れ出る黒い霧状の魔素を吸収していく。

 

「ふへっ……フベラっ!?」



 痛み無くして……死んで行けるのだから。




 魔族ネイロの身体が見る見るうちに萎んでいき、足先から塵となって消えていく。

 全身が塵と化し、残ったのは白く空っぽの魔石。


 最後にそれを剣で二つに割ると、白い魔石も塵となって消えた。


 その様子を上空から見ていた小柄な魔族は、額から汗を垂れ流し、小刻みに身体を震わせていた。


「うそ……ダ……ネイロが……あんな……あんな簡単ニ……ヒッ!?」


 小柄な魔族がレディアに目をやると、確かにレディアはこちらを見ていた。

 まだ世界は闇の中……夜目が利かない人間が目を合わせてくるなどあり得ない。

 

 もう一度、レディアに恐る恐る目をやるとこちらを見てはおらず、目が合うことは無かった。


「たまたま……なのカ……ハッ!急いでアデウス様に伝えネバ!!」


 羽を動かし、飛び去ろうとする小柄な魔族。

 

 影の勇者……レディア・アーレイ。

 一人では戦ってはいけない、不気味な相手。

 あの一番槍のネイロを無傷のまま倒した実力……嫌な予感がする。


 すると、背後からヒュンと風を切る音がした。


 気になって振り向こうとしたとき、頭に黒い剣が突き刺さっていた。


「エ……なんデ……?」


 パキッと何かが割れる音がして、力無く地面へと落ちた後、塵となり小柄な魔族は消え去っていた。


「逃しても良かったんだかな……」


 はぁとため息をつく。


 

 だが、逃がす理由も無かった。



 小柄な魔族がいた場所には剣だけが突き刺さっていて、それを手に持ち背中に背負うと黒い包帯が勝手に剣に巻き付いて、鞘となる。


「……」


 ぐっすりと眠っていて、起きた形跡は無かった。

 静かに石の上に座り、消えていた焚き火に火を灯す。

 

『私は……貴方を……』


『……愛しておりました…………』


 火を見つめるレディアに、今度はそっと語りかけるように声が響く。

 その声は先程とは違って、満足そうな……幸せそうな声で……その声をレディアは知らなかった。


「誰だ……お前は……」


『……ヘヘッ……迷うなヨ相棒?』


『殺セ……全員ダ……全員殺セ』


 声は次第に変わっていき、頭に直接響いて来るようになると、頭痛が始まる。


「誰なんだ……誰なんだお前は……」


『俺カ?俺はナァ……』


 頭痛がキリキリと激しさを増していく。

 それと同時に浮かぶのは黒い聖剣……黒影剣ファフニールを持ち、死体の山に血まみれで立つ黒い男。  

 

 その男の足元には一人の女性らしき人が倒れていた。


 俺は……知っている?

 こいつを……知っているのか?


 ゆっくりと血まみれの黒い男は振り返る。

 その姿は紛れもなく、間違えようのない……。


 黒い男は剣を両手で握りしめると、女性に切っ先を向けケラケラと笑った。


『俺ハ……お前だ』


「やめろ……やめろっ!!」


 その瞬間、黒い男は女性を剣で貫いた。


「やめろおおおおおおおおおおおお!!」


「レディア様??」


 その声にまたハッとして我に返ると、目の前にこちらを見下ろすようにしたアニスの姿があった。


 頭にある感触……いつの間にかアニスに膝枕をされていたようで、また、辺りは明るくなってきていて夜明けが近いみたいだ。


 左手を額に当てて、溜まっていた息を吐き出す。


「俺は……寝ていたのか?」


「いえ……ただ、ずっと目を見開いたまま何かを呟いておりましたので……こうして祈りを捧げていました」


「……そうか」


「あっ……い、今すぐ離れますので!」


 昨晩のことを思い出し、急いで離れようとするアニスの手をレディアは握った。


「レ、レディア……様?」


「……少し」


「え?」


「もう少しだけ……このままで……このままでいてくれ」


 レディア自身何故こんな発言をしたのか分からなかったが、自然と口から溢れていた。


 それに一瞬、アニスは驚いて目を丸めたが、レディアの顔を見てすぐに優しい笑みを浮べて微笑む。


「はい……」


 苦しそうに息を吐くレディアの頭を撫でながら……ただ優しく、そっと……アニスは静かにそう答えるのだった。


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